被爆前後のヒロシマを描いた作家の故井上ひさしさんの朗読劇「少年口伝隊一九四五」を地元で上演し続けようと、9人の若者が劇団を結成して練習に励 んでいる。2010年から地元有志の手で演じられてきたが、メンバーが高齢化。上演を受け継ぐ若手を探していた。「戦争から遠い世代がどう観衆に語りかけ るべきか」。団員は悩みながら、2年後の上演を目指している。
「被爆した家族を助けられなかったという気持ちを背負って!」「もっと葛藤して!」。7月下旬、広島市男女共同参画推進センターの一室。朗読の練習に汗を流す劇団「ふらっと」の団員に、舞台演出家の梅屋サムさんの厳しい声が飛んだ。
「少年口伝隊一九四五」は井上さんが08年に書き下ろした朗読劇。被爆で発行できなくなった中国新聞社が、ニュースを口頭で伝えて回った実話に基づく。原 爆投下直後の惨状、被爆の障害に苦しむ人々の様子、約1カ月後に襲った枕崎台風の被害……。井上さんは被爆して親も亡くした架空の3少年が、ニュースを口 伝する姿を通じて当時の状況を描いた。
09年に広島市民の有志が上演のための実行委員会を結成し、10年に初めて演じた。だがメンバーは50~80代が中心。活動を次世代に引き継ぐため、長く担える若手を探していた。
そこに実行委のスタッフで、出演経験もある伊勢村拓朗さんが代表となり、劇団「ふらっと」を今年4月に結成。劇団名は、誰もが気軽に「ふらっと」参加し、体験できるものをつくりたいという思いで名付けたという。
現在、20代を中心に社会人や大学生など男女9人が所属。演劇経験ゼロの団員もいるが、実行委が指導に協力している。
伊勢村さんは「口伝隊」との出会いを「生々しさに鳥肌が立った。どこか人ごとのように思っていた戦争が真実として感じられた」と振り返る。劇団結成に背中を押したのは「自分たちが継承しなければ、広島からこの劇が無くなってしまう」との危機感だったという。
ただ「口伝隊」を演じるにはまだ修練が足りない。それぞれが仕事などを抱えるなか、練習は毎週土日を充て、昼に始まり、夜9時に終わることも。団員の一人 で祖父が被爆したという中本純一さんは「広島で生まれ育った身として、誰かが上演し続けなければ」という思いを胸に練習に励む。
3日には被爆体験記と原爆詩の朗読を初めて開催する予定だ。こうした場で経験も積み、2年後の「口伝隊」上演を目指している。
遠い過去の出来事としてしか被爆を知らない自分たちが当時の状況をきちんと伝えきれるのか――。伊勢村さんは「本当に継承できるか不安でいっぱい」とい う。「口伝隊」実行委事務局長の富永芳美さんも被爆体験はないが体験記の朗読ボランティアを続けており、「自分も最初は悩んだが、続ける中で意味 を見いだせた」と、もがく若者を見守っている。