この本が書店で目に留まった時、題名ではなく「絵」に興味を持った。
行動的な印象を持たせる男性と、別の方向を向き空と風船を見上げる子供、二人の間になんとも言えない壁が存在する事を明確に表現していた。

主人公の男性は家庭を顧みず仕事に邁進し、妻子とは別居している。
そんな時、列車事故によって妻が亡くなり、これまで全くといっていいほどコミュニケーションを取っていなかった息子との二人暮らしが始まる。

妻とは仲違いしたままの別れとなったことから、義母とは信頼関係が無くののしられる始末。
さらには子供を引き取るという方向に話が進むが、そこで主人公の元に妻の親友を名乗る女性が現れ、息子への触れ合い方、家事の仕方等々を煙たがられながらも芯を持って教育していき、息子との時間がかけがえの無いものである事を実感していく。
この女性はある特殊な能力を持ち無き妻の意思をもって父子の前に現れるのだが、その辺りは実際に読む事で作品が狙う部分を理解できるであろう。

それよりも仕事に邁進し家事全般と子育てを妻に任せ、さらにはコミュニケーションを怠り、いざとなると何もできない。
世の企業社会で猛進する父であれば、痛いくらいの実感を持って感情移入する事だろう。
男女平等や夫婦の役割分担など、世界的な差別意識と各家庭内の理解は全く別物だ。
夫婦が共にキャリアを積む為に働く事も、女性は家庭を任され男性は仕事で家族を養うという価値観も、その構成する枠組み毎で幸せであれば良いのだと思う。
この物語はすれ違ったままの夫婦関係を、妻の死後に妻の意思で修正し、最終的に家族愛を感じる内容となっている。

多少現実離れして進んでいくが、これもまた愛情や絆を読み手に訴えるには面白い物語であった。

【文庫】 その時までサヨナラ (文芸社文庫)/文芸社

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