853冊目『わが子に「ヤバい」と言わせない親の語彙力』(矢野耕平 KADOKAWA) | 図書礼賛!

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死ぬまでに1万冊の書評をめざす。たぶん、無理。

 

 

私は今では大学受験専門だが、かつては中学受験も担当していた。私の塾講師としてのキャリアは地元沖縄での小規模な塾から始まった。今でもそうだが、当時沖縄の中学受験でもっとも人気があったのは、昭和薬科大付属中学校であった(その次に沖縄尚学)。私は昭和薬科中を受験する小学生を相手に国語を教えていた。昭和薬科中の国語の配点は150点満点であり(算数150点、理科100点、社会100点)であり、その出来が合否の決定的な鍵を握る。私自身、中学受験を経験したこともなければ指導経験もなかった。正直、昭和薬科中の過去問もまだ見たことがなかったので、ちゃんと指導できるか不安だった。それでも、どうにか生徒たちを合格ラインに乗せることができて安堵した。そして小学生に教えるのは、なかなか楽しいものだなと思った。

 

昭和薬科中受験組を教えるにあたって当然ながら私は過去問を解きまくった。昭和薬科中の国語問題の配点は150点であると先ほど述べたが、その内訳は読解問題90点、知識問題60点である。本来なら配点が高い読解問題をメインに扱うべきだが、私は知識問題の方を重視した。というのも、読解問題の中でも、漢字、熟語、文法、慣用句などの知識問題が少なくなかったからだ。それにそもそも言葉の知識がないと文章を読む力も育たない。ここでいう知識問題とは、漢字、熟語に加え、部首、書き順、ことわざ、敬語、故事成語、季語、文法等、言葉に関する様々な知識全般である。塾での指定教材は『中学入試対策サーパス 国語 知識編』で、有名中学入試の国語知識問題だけをピックアップしてまとめたものだが、これが本当に役に立った。

 

さて、矢野先生の近刊『わが子に「ヤバい」と言わせない親の語彙力』は、そんな中学入試国語の知識問題を詳しく扱った本である。知識問題を活用して語彙力を増やすことが本書のコンセプトだが、なにより実際に親も問題に取り組み、子供と一緒に学ぶことで語彙の豊かさや感受性を育てようという狙いがある。本書では、中学入試の問題を実際に解きながら、ことばに関する知識が豊かに学べるようになっている。前述の『サーパス』も良質な教材だが、いかんせん解説が薄いのが唯一の弱点だろう。翻って本書は、矢野先生による解説が充実している。私は読みながら、ああ、あの時こういう風に教えればよかったなと何度も思った。将来もしまた小学生を教えることになったら、本書のアドバイスを参考にしようと思う。

 

最後に言っておきたいのは、国語知識問題を解くことは実に楽しいということだ。私が中学受験のクラスを初めて受け持ったとき、私もまた言葉の知識を新しく学んだ。「飛」、「登」の書き順を知って驚いたし、四字熟語だって知らないものがたくさんあった。あと個人的には慣用句が苦手である。慣用句については過去に思うところを書いたことがある(308冊目『知っているつもりで間違える慣用句100』)。案の定、私は本書で用意されている国語知識問題をたくさん間違えた。それはそれで反省することだが、知らないことを知ることは純粋に知的な喜びがある。かつて小学生相手の授業準備をしながら、どんどん言葉の知識が増えていくことに楽しみを見いだしていたことを思い出した。言葉の知識は、学ぶことの原点であろう。