「……大丈夫。君の可愛い唇が、腫れてひどい状態になるまでするつもりはないから。」
「ぅむぅ……。」
そっと少女の唇に触れる。
そうすると、そこから奇妙な彼女の唸り声が発された。
思わずクスクスと笑ってしまうと、ぷくりと頬が膨らむ。
……愛を伝えて4週間。
とうとう、『俺のキョーコ』と自覚したのだろう少女に、口づけに夢中になる前に確認すべきことを尋ねる。
「ねぇ、俺のキョーコちゃん。」
「………はい。」
「俺が君を恐れる理由。その理由がもう、分かったんじゃないかな?」
君を愛して。
君が誰かに奪われないかと不安になり。
君を誰よりも守りたいと躍起になり。
君に頼られる男でありたいと願い続けた。
それなのに、君はいつも俺に救いの手を差し伸べる。
助けたいと躍起になっているのに、逆にいつだって守られるのは俺の方で。
その笑顔が。
俺を慕う、言葉や行動、その全てが。
俺を魅了し、心を奪い続ける。
それなのに、君は自由だから。
俺をこんなにも縛りつけているのに、君は俺の腕の中にはいてくれないから。
「君を恐れる理由。それを、教えて?」
ただただ、怖いのだ。
日に日に増す、彼女への愛おしさ。
でも、その愛情を受け取ることとなる少女が、いつか俺のこんな想いを恐れて逃げてしまったらと思うと。
俺以上に、心惹かれる男を見つけて、その手を取ってしまうのかと思うと。
「敦賀さん………。」
「うん?」
愛しているから、恐ろしい。
俺の意志で自由にはできない、君の心であるがゆえに。
「私も、怖いです………。」
「え?」
「だって、敦賀さんの心は……私のものとは、違うんですもの………。」
きゅっと、彼女を抱きしめる俺の胸元の服を掴み、そっと囁かれる言葉。
それはまさしく、俺が考えていたことと同じことで。
「いつか、私のことを嫌いになってしまう日が来るんじゃないかと思うと、怖いです。……私が、敦賀さんを嫌いになる日なんて、来ないから。」
「愛しているから」と。そう囁くように告白され、俺は腕の中のその華奢な身体を力いっぱい抱きしめた。
「……同じ、想いを。私に、向けてくださっていると……。それが、答えだと思って、いいですか?」
「………あぁ、正解だよ。」
本当は、60点くらいなんだろうけれど。
彼女の想いが、俺が抱く想い以上のものであるはずがないけれど。
……彼女が俺を愛してくれるというから。
……俺の愛を、信じてくれるというから。
それならば、それが正解でいいだろう。
「正解のご褒美は、キスでいい?」
「……ほとんど毎日されているんです。ご褒美にもなりませんよ。」
コツリ、と額同士をくっつけて、ご褒美を提案してみる。
すると最上さんはおかしそうにクスクスと笑い始めた。
「違うよ。いつもは触れ合うだけだろう?だから、今日はもっともっと、お互いが近くなるようなキスをしよう。」
「へ?」
「ん~~~…これは正直、君へのご褒美ではない…な。俺へのご褒美か。……でも、これだけ一生懸命、君を口説いたんだから、ちょっとぐらいご褒美をもらってもいいよね?」
「…………えっ。」
にっこり、と優しく微笑んでみせたつもりなのだけれど…。
最上さんの表情が一瞬のうちにして固まる。
まるで蛇に睨まれた蛙のようだ……。
「俺のことは、アリクイにしないでね?」
「え、あ、あの……?」
「愛しているよ、俺のキョーコ。」
「えぇっ、あ、あの……ぅうっ!!??」
そうして俺は。混乱してあわあわと口元を緩めている少女の頭と顎を固定すると、半開きになっていた唇に、獣のごとく襲いかかった。