「つ、敦賀さんっ!!あの、お、、、降ろしてっ!!降ろしてください!!!!」
「え?どうして?」
「だ、だって、私、重いですし……!!!」
「え?全然重くないよ?…むしろ最上さん、軽すぎ。」
「!!!???じゃ、じゃあ!!は、恥ずかしいので!!」
「恥ずかしいことなんて何もないよ。現に、俺の身近にいた万年新婚カップルは、家の中の移動はほとんどお姫様抱っこだったよ?」
「!!??ひぃ!!??足を弱らせて逃げられないようにするため!!!??」
「あ、そういう意味があったのかな?でも、全然弱ってなかったし、最上さんも大丈夫。」
「だ、大丈夫ではありません!!むしろどこが大丈夫なんでしょうか!!??お願いします、降ろしてください!!こんなところを見られたら、明日からどんな噂が流れるか!!!!!」
「ん~~~~…。ここ、事務所だからなぁ……口が堅い職員ばかりだし、残念ながら噂にならないと思う。そういう意味では、やっぱり昨日のTBMで皆の前でキスしたほうがよかったよね?」
「!!!!???あんなこと、二度とやめてください!!死ねます!!!!」
「死なれるのは困るけれど……。ニワトリ姿の君も可愛かったからなぁ……。」
「ニワトリを見つけて襲い掛かる敦賀蓮とか軽くホラーですよ!!」
「え?だって、ニワトリの中にお姫様がいると分かっていて、素通りなんてできるわけないじゃないか。……なんだか妙な虫が飛んでいたしね。」
「?虫なんていました?」
「うん。1匹の大型の虫と、それを援護する2匹の虫かな?…まぁ、大丈夫。牽制しておいたから。」
「???虫に人間の意志が伝わるとは思えませんが……。」
「賢そうな虫だったから大丈夫。君に長年付きまとっている虫はどうもバカだから分からないみたいだけれど。」
「???と、とにかくですね!!あんなところでずんぐりむっくりの着ぐるみに抱き着いてきて、『今日も可愛いね』とか言っちゃダメです!!敦賀蓮のイメージがめちゃくちゃになりますよ!!」
「大丈夫、キョーコちゃん。あの後、周囲にいた方々からは『敦賀君ってゆるキャラが好きだったりするんですね、意外~~~!!でも、可愛い~~~~!!』と概ね好評だったから。……俺には、ニワトリを見つけて襲い掛かる狼にしか見えなくて恐ろしかったけれどね……。」
「そういえば。よっぽど『坊』が好きなんだろうって、プロヂューサーの方が思ったみたいでね?映画の番宣も兼ねて、今度『きまぐれ』にも出られることになったから。その時にはよろしくね?」
「!!???なんで~~~!!??」
「そうだ、ミニゲーム対決に勝利した暁には、君を抱っこしたまま収録するというのはどうだろう?」
「!??やめてください!!それ、坊を抱っこして収録するってことですよね!?一体誰が得する番組なんですか!!」
「俺が得する番組だけど?だって、最上さんを抱っこしたまま仕事ができるなんて…想像しただけで至福の時じゃないか。」
「辱めという名の生き地獄でしかございません!!そもそも、坊は身体が大きいんです!!どう考えても撮影の邪魔にしかならないですよ!!」
「どの角度から俺をとっても、絶対最上さんが映りこむとか…なんか興奮するね?」
「ひぇっ!!??」
「蓮君蓮君、それはちょっと怖い!!さすがにお兄さんもゾワッときた!!拗らせすぎだから押さえて!!」
俺の腕の中で、無駄な抵抗を続ける最上さんと、そんな俺の背後について歩く社さんと3人で楽しく会話を続けながら、ラブミー部室を目指す。
カッコッカッコッと靴音響かせながら歩いていると、何名かの社員や所属タレント、俳優とすれ違った。
最上さんは俺の腕の中で怒鳴ったり暴れたりと忙しいので気づいていなかったようだが、気づいた俺は、彼らに会うと『二コリ』と笑顔を向ける。
そうすると、全員が一瞬固まり、その後、へらり、と微妙にひきつった笑顔を返してくれ…首肯してくれる。
そうそう、噂を流してくれて全く構わないよ。
むしろ大歓迎するよ。
「……蓮君。」
「何ですか?社さん。」
「笑顔で脅しをかけるな。」
「脅してなんかいませんよ。人聞きの悪い。」
「ちなみにお前の笑顔、逆効果だからな。」
「え?なぜですか?」
「お前のうさんくさい笑顔は、『妙な噂流したらただじゃおかないからな』という風に取られている。」
「え!?」
「ちなみに皆さんは『言いません。口が裂けても言いませんとも!!』という想いから笑顔を返してくださっている。」
「……なんてことだ………。」
未だ腕の中で「離してください、セクハラですよ!!」「敦賀さんのイジメっ子~~~!!」と可愛らしい抗議(?)の声をあげる最上さんを無視して交わした社さんとの会話で知った事実。
どうやら俺の意図は周囲には伝わらなかったらしい。
「……社さん。」
「なんだい、蓮君。」
「ここでディープキスのひとつやふたつくらいしたら、噂がたちますかね……?」
「ヒィッ!?やめて!!」
「俺が見たくないから!!」という私情で俺をとめようとする社さん。
「そんな必死に止めなくてもしませんよ。ここだけの話ですが、キスした後の最上さんの表情がものすごく煽情的で…。そんな顔、俺以外に見せたくありませんし。」
「…………。お願い、もう、本当にやめて。俺、胸焼けで死にそう………。」
信頼できる相手だからこそ伝えた、最上さん情報なのに社さんが真っ青になりながら首を横に振る。
……どうしてそんなに疲れたような顔をするのかよくわからないが…。