「彼女の想いを、俺は知らない。」
再会の約束をした時、嬉しそうに微笑んでいたけれど。
その微笑みは、友人に対する親愛以上のものが含まれていたのかは甚だ疑わしい。
そもそも、幼い少女だったのだ。
クオンの約束を取り付ける言葉を、どう捉えたのかは分からない。
そして今、彼女が一体何を考えているのかも、分からないのだ。
「彼女の、想いが知りたいのかい?」
「…………そう、だな………。」
鶏に確認をされて、それに対して考え込む。
「彼女の、想いを尊重できるかは、自信がないけれど………。」
もし、拒絶されたら。
クオンの、狂いそうなほどに膨れ上がった、少女への想いが受け入れられなければ、どうなってしまうのか。
……過去の愚かなる王たちは、そんな乙女たちを閉じ込め、ニ度と表舞台に立てぬようにしたてあげ、たった独りで愛で続けたという話を、聞いたことがある……
愚かしいと思う一方で、魅力的な話に思えた。
それが正常な考えでないことは分かった上で、一瞬のこととはいえ甘美な物語に聞こえてしまった自分自身を、ずっと隠して生きてきた。
クオンには、その愚王と同じ、狂気が小さく燻っている。
だから、きっとキョーコに拒絶されてもひたすら彼女を求めるだろう。
そして、タカラダに始末されて終わるのだ。
―――でも。それで、いいのかもしれない……―――
「彼女の、本当の言葉が聞きたい。」
聞いて。
そして、不毛な想いの決着をつけるべきなのだ。
「……そんなに、会いたいんだね?話が、したいんだね?」
優しい少年の声が聞こえる。
それに、クオンは導かれるかのように肯いた。
「彼女に、会って。話をしなければ。……俺は、どこに行くこともできない。」
前に進むことも、後ろを振り向くこともできない。
「どこにいるのか分からないけれど。……会ったら最後、殺されてしまうかもしれないけれど。」
無事に会えても、拒絶をされれば、もはや死しかないのだろう。
どんな手を使ってでも、クオンはキョーコが欲しい。
それに対して、タカラダ家はどんな手を使ってでも、キョーコを守ろうとするだろう。
その先には、クオンの死以外に道はない。
―――それで、いい。……いや、それが、いいんだ。―――