会いたいと、思っていた。
『おい、第一王子、外交団とともに隣国へ向かったらしいぞ。』
『そうなのか?隣国とは、数年前まで戦をしていたじゃないか。そんなところに…まだ10歳だろう?』
クオンがまだ、『王太子』ではなく、『王子』であった頃。
キョーコと出会い、別れてすぐに耳に飛び込んできたのは、そんな話だった。
齢10歳。幼い少年が隣国へ連れて行かれる理由など、想像に難くない。
人質として、連れて行かれたのだろう……。
それが、多くの大人たちの考えであった。
だが、彼はその1年後、ヒズリ国へと戻って来る。
多くの『戦利品』を手に。
『これを見ろよ、隣国で作られた農具なんだがな、これがまた画期的で!!』
『クオン殿下は、隣国との間に平和条約を結んだらしいぞ。』
『本当か!?あの残虐王を相手に!?』
『これで北の国境は守られる。これからは内政に取り組めることになるぞ。』
日の光を浴びて煌めく金の髪を持ち、美しすぎる緑色の瞳をした少年は、多くの喜びの声をキョーコの治める領土の民達にも与えてくれた。
『結構やるようですなぁ、第一王子は。』
『あら、ローリィが誰かを褒めるなんて、珍しいわね?』
『やり方は甘いとは思いですがね。しかし、年齢の割にはいい判断を下したと思います。』
『そう。』
『……それだけ早く欲しい、ということなのかもしれませんな。』
『?どういうこと?』
『フッ、大人になるのを待つこともできないとは……。困った坊主だ。』
ローリィの下で勉学に励んでいた時、王子の話になったことがある。
その時のローリィの言葉は忘れない。
意味は未だに分からないが、彼が誰かを褒めることはとても珍しいことだったから、よく覚えているのだ。
平然とした顔で応対しながら、心の内ではクオンを誇らしく思ったものだ。
………日の光を浴びて、光輝く、美しい金色の髪………
………光を浴びることで赤茶色に変わる不思議な魔法のような緑色の瞳………
風になびく、美しい髪は、シルクのように滑らかで。
緑色の瞳は、笑顔を浮かべるとより一層深く色を変えることを。
キョーコは、知っている。
会いたかった。
美しい妖精の少年が、立派な青年へと成長した、その姿を。
瞳に映す日を、ただひたすらに待ちわびた。
会えない間も、想いは募り。
その募る想いは、日に日に浅ましい感情を内に秘めるようになっていくことを知ってはいても、止めることはできなかった。
彼には愛する人がいると、そう分かった後も。
それでも……会いたかった。