『………はい。聞いて、ます。』
街の喧騒にまぎれて、彼女の弱々しい声が聞こえてくる。か細く聞こえたその声は、どこか物悲しそうで。
「……どうかした?何だか、声が………。」
とても、寂しそうだ。
もしかして、一人でいるんじゃないか、とか。
泣きそうになっているんじゃないか、とか。
様々にめぐるのは彼女を想う気持ち。
でも……。
『会いたいです。』
「!!」
彼女の震える声が言った願いに、全てがふっ飛んでしまった。
俺は『敦賀蓮』で。
彼女にとって、良き先輩でいなくてはならなくて。
そもそも、『敦賀蓮』である以上は、可愛がっている女の子の誕生日に、花束ひとつも持たずに祝いに行くなんて、ありえないことだ。
ゴージャスターなどと呼ばれている以上は、彼女をエスコートする場所も、彼女を喜ばす演出も、プレゼントも、何もかもを完璧に準備しておかないといけないはずなのだ。
でも、俺は今、何も持ってなくて。
『敦賀さん……。』
震える声で話す女の子に何一つ言葉をかけることもできず、茫然と立ち尽くすだけの格好悪い男。
『貴方に、とても会いたいです。』
「………!!!!」
そんな格好悪い、ただの『俺』自身に向けられる、彼女の告白。
伝えられた言葉に、身体を駆け巡る想いは、『歓喜』。
「……待っていて。」
『え?』
「今、どこにいるの?」
『え?……あ、あの……。』
俺の問いに、慌てはじめる彼女の声。今、俺に伝えた言葉を必死になってなかったことにしようとしている少女を遮り、言葉を口にする。
「すぐにそこに行くから。」
『敦賀さん……』
「すぐに行くから。教えて。どこ?」
再度問うと、未だに言い淀みながらも伝えてくれたのは、イルミネーションが美しい並木道。
俺にもう、迷いは一切なかった。
「最上さん。すぐに行くから……。」
聖なる人と同じ日に。産声を上げた俺の愛しい人。
そんな彼女の18年目の誕生の日に。
全ての迷いを捨てた告白を、君に。
「待っていて。」