「……そう。じゃあ、とっとと電話、したらどうだい?ほら、もうすぐ12月25日。クリスマスだよ。」
一瞬の沈黙の後、目の前の男は「フッ」と一瞬だけ優しく笑うと、軽い口調で俺を促した。
「さぁ!これでめでたく俺からの敦賀君へのクリスマスプレゼントも贈れたことだし!!皆、飲みに行こうか!!」
「えっ?えっ?ど、どういうこと??え~~と、つまり…敦賀君、リスを飼うの?」
「そうそう。これからペットショップの店長に電話するみたいだからさ。そしたら即行で家族として迎え入れちゃうみたい。だからそっとしといてあげよう。じゃ、また明後日の撮影の時にね~~。」
ヒラヒラと手を振る彼は、「じゃ~~ね~~~。」と間延びした声をかけてきながら、女の子たちと共に夜の街へと消えていった。
「さてと。じゃあ俺もタクシー乗って帰るから。お前はとっとと電話をしろよ?」
「え?社さん。送りますよ。」
「バカ。時計見ろ。……もう、25日になるぞ。」
時計を見ると、11時59分。後1分で、25日が幕を開ける。
「明日は朝9時に事務所。遅れるなよ?無遅刻キング。」
「………はい。」
慌てて彼女の履歴を呼び出そうとする俺の肩を、優秀なるマネージャーはポン、と軽く叩いてその場を去っていく。
それを見送りながら、彼女へ電話をかける。
『……もしもし。』
コール音が三回鳴ってすぐに、彼女の声が聞こえる。
「もしもし。……あの、俺……だけど。」
その瞬間に、ドクン、と心臓が高鳴る。
声を聞くだけで、どうしようもない衝動にかられるほどに……。
俺は、彼女が欲しくてたまらないのだ。
「ごめん、こんな夜分に。……誕生日、おめでとう。」
まず伝えるは、彼女を祝う言葉。12月25日は、彼女が生まれてきた大切な日。
聖なる人の生まれた日でもあるけれど、俺にとってはもはや愛しい少女が生まれてきてくれた日としての意識の方が高い。
「その……迷惑かな、と思ったんだけれど…どうしても、お祝いの言葉を伝えたくて。去年みたいに、プレゼントがあるわけじゃないんだけれど。あぁ…そういえば。今年はパーティーも、なかったよね。今、どうしているの?」
昨年のようにハッピーグレートフルパーティーをしていたわけではない。だが、電話越しに外の喧騒が聞こえてくる。
「こんな時間にもしかして一人で歩いているわけじゃないよね?琴南さんが一緒?それとも、だるま屋のご夫婦?」
警戒はするくせに詰めが甘いというのは貴島君の言う通りだ。
嫌な予感がして思わず強い口調で問うたけれど……。
「もしもし、最上さん?……聞いている?」
先ほどから、全く彼女の返事がない。