夜であろう時間になり、トキたちは一度部屋に戻り、出発の準備をした。
ここに来てから、荷物を一度も開けていない。
開けてみると、中は砂まみれになっていた。砂漠で呑まれた時に入ったのだろう。
一つ一つ丁寧に砂をはたき落としつつ荷物を整理していくトキ。
その中にあった小さな瓶を見る。中には何も入っていない。
そのことを確認してから、鞄の奥にしまいこんだ。
「ねぇ、トキ。ここを出たら次はどこに行くつもりなの?」
「とにかく一番近い町に行こうと思う」
そう言って、年代ものであろうと思われる古びた地図を広げる。
「今はここだから、一番近いのは…」
そのやり取りを見ていたクラウドがふとあることに気付き口を挟んだ。
「あのさ、トキその地図古すぎやしないか」
「え…」
「今は、ここにも国ができてるし、この国とこの国は統一して一つの国になってる。
確かここにも国があるはずだぜ。なんつーか、
古いっていうより数ヶ所間違ってるって言ったほうが正しいかもな」
「そうなんですか」
若干驚いた表情で地図を眺める。
「じゃあ、今までこんな間違いだらけの地図で旅してきてたってこと。
そりゃ、道に迷うわけだわ」
「……」
「まぁ、間違いに気付いてよかったじゃんか」
トキの肩を叩きながら、フォローするようにクラウドが言う。
「でも、困ったわね。地図がないと次の国に行けないし」
「それなら、俺がいるから大丈夫だって!」
「はっ? アンタまだついて来る気なの」
「当たり前だろ」
「何が当たり前なのよ!」
「だって、俺ら一夜を共にした深~い仲だもんなぁ、トキ」
そう言って、トキを抱きしめる。その行動にトキは顔を真っ青にしてクラウドを突き飛ばした。
「なっ!ふざけないでください!!」
「ひでぇなぁ、俺はいつでも大真面目だぜ」
ふざけたことを言いながら満面の笑みのクラウド。
また始まったとばかりにキラは呆れながら二人の事を見ているが、
あまり人前で感情を露にしないトキが、彼の行動に乗せられて感情的になる姿を見て、
それもまたいい傾向だと思っていることも事実だった。
「しょうがないわね。地図が間違ってる以上クラウドを連れていくしかないか」
「そうそう、地図なら俺の頭ン中に入ってるから任せときなって」
「で、ここから一番近い国って一体どこなの?」
「えっと、ここがアラバス砂漠だから一番近いのはあそこか…」
クラウドは怪訝な顔つきで何か考え込んでいる。
「だから、なんていう国なの」
「あぁ、確か今は国名が変わってるはずなんだけど、なんだったっけかなぁ。
昔はザンフトって呼ばれてたんだ。統主が変わって、今じゃ発展途上真っ最中の国だな。
あんまりいい噂は耳にしないけど・・・行くのか?別に避けて通る事だってできるぜ」
「どうする、トキ?」
「行きます」
「じゃあ、決まりだな」
「あの、ずっと旅をしてるんですか」
なぜクラウドが地理に詳しいのか気になり、トキが尋ねる。
「ん?そうだな。もうずっと長いこと旅してるぜ。一所には留まれないんだよ、俺」
そうやって、にっこり笑うクラウドにキラが突っ込む。
「どうせ変な事して追い出されてるんでしょ」
「酷ェなぁ。お前、俺の事なんだと思ってんだよ」
「変態。」
「なっ!」
そのセリフに大ダメージを受けるクラウド。
「俺のどこが変態なんだよ!」
「全部よ、全部!!」
「トキ~。俺変態じゃないよな?な?」
ショックのあまり情けない声で、トキに助けを求める。
「…え」
「ほらね。トキだってクラウドの事変態だと思ってるのよねー」
「そんなことないよなぁ、トキ」
二人に挟み撃ちにされ否定も肯定もできない。
トキは困惑の表情を浮かべている。
「えっと、クラウドは時々変な事するけど、本当は優しい人なんじゃないかと思う…」
「ほらな、トキだって変態じゃないって言ってるじゃねーか」
微妙な引っ掛かりを感じながらも威勢よく否定する。
「え、今のってアンタが変態って肯定してたように聞こえたんだけど…」
「あーもう、この話は終わり!明日早いんだからもう寝ようーぜ」
そう言って誤魔化す様にそそくさとベッドに入った。
「そうね。もう寝ましょうか」
「うん」
今夜はキラもトキたちと同じ部屋で眠った。
トキは真白い天井を眺め、これからの事について少しだけ考え、ゆっくりと瞼を閉じた。
少し欠けた月がその薄明かりで無限に広がる砂漠を照らしている
そこに月明かりに照らされる人影がひとつ
フードに隠れて顔は全く見えないが 硝子のように透きとおる繊細な白銀の髪が
首筋から流れでて月に反照している
月が中天に懸かった頃 その人影は歩みを止め一点に影を落とし続ける
地平線から微かに光が漏れ出した頃、ふいに人影はどこかに消えてしまっていた――――
最初に目を覚ましたのはクラウドだった。ベッドからおり、トキたちの眠るベッドへと近寄る。
コンコンッ
扉を叩く音がして、クラウドは扉の方へ注意を向けた。
「もう起きているかしら」
リザの声が扉越しに聞こえる。
「あ、あぁ。起きてるぜ」
「そう、なら支度が済んだら出てきてくれるかしら」
「わかった」
彼女に言われた通り、支度をするためにトキを起こそうとベッドの脇に立つ。
「トキ、キラ・・・朝だぜ。起きろよ」
体を揺さぶり起こそうとする。
すると、ゆっくりとトキが瞳を開いた。
「あ、おはようございます」
「おはよ、もう朝らしい……ぜ」
一瞬言葉が途切れる。クラウドは、瞳を大きく開きトキを見つめている。
あまりに凝視してくるクラウドにトキは怪訝な顔つきをした。
「あの、まだ何か?」
「あっ!いや、別に…」
いつもとは違い髪を下ろしてるトキに思わず見とれてしまっていた。
というより、驚いてしまった。あまりにも自分の知っている人物によく似ているということに。
「ハハ……まさかな」
聞こえないくらい小さな声で一人呟き支度を始めた。
by 沙粋
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