こんにちは。滅多にフリートークに顔をださない沙粋です。

お知らせというタイトルですが内容は謝罪です。
更新日が今週の日曜日だったのですが、更新が止まってしまいました。
言い訳になりますが、前の記事で3章が完結いたしました。
3章はほとんど私のワガママで完全に私一人の意思で突っ走って書かせていただきました。
ので、悩まずにバンバン(というほどではないですが)書く事ができたのですが
次の4章を書くに当たって、前々から色々と蓮と話し合っていたのですが
まだ話が完全に固まっていません。
もともと一人ひとりが好き勝手にやっていくはずの小説だったのですが、
それではストーリーが終わらないということで最近は相談しながら決めています。
なので、近日中にはUPできると思うのですが事の外難航しております。
大した文章でもないのに偉そうなことを言って申し訳ないのですがもう暫くお待ちください。
できる限り皆様に楽しんでいただける作品にしたいが故のことなので温かい目で見守ってくだされば幸いです。
長くなりましたが、これからもDragon★Rabbitともどもクロニクルをよろしくお願いいたします。

では、この辺で失礼させていただきます。

             

                                 by 沙粋

ヴェインが眠っている間、リザはベッドの脇で静かに本を読んでいた。

幾らか時間がたった頃、彼女は徐に立ち上がり寝ている青年のあどけない表情を覗き込む。


「寝顔は昔と同じなのにね…」

起きているときは、その容姿に似合わぬ程の殺気を纏っている。

たとえそれが彼自身が望んだことだとしても責任を感じてしまわずにはいられないのだ。



「寝込みを襲うつもり?」

「…眠っていたんじゃなかったの」

「そんなに近づかれたら嫌でも起きるよ」

「別に何もしないわ。だから、ちゃんと眠りなさい。ここには、君の敵はいないのだから」

「ここじゃなくても僕に敵などいないよ」

不適な笑みを浮かべる。

「そう・・・」

リザは、彼から視線を逸らすと 誰かのモノを写し取ったような 愁いを帯びた表情を浮かべた。


「なぁ、リザ。仲間にならないか?」

「お断りよ」

「そう言うと思ったよ」

整った顔を少しだけ緩めて、苦笑したヴェインは前髪を掻き揚げ 立ち上がる。


「昔、君が言っていたこと今ならわかる気がするよ」

「何のこと」

「憶えていないのならいいよ」


そう僕が、ここに初めて来た時、君が告げた小さな本音―――

(みんなは私が魔法を使えることを羨むけれど、私はみんながとても羨ましい…)

あの時の僕は、本当の意味でその言葉を理解していなかったけど今ならわかる気がするよ。


「僕は、帰るよ」

「そう…」

「寂しい?」

「さぁ、どうでしょうね」

「リザ。僕たち、きっとこういう形で出会わなければいい友達になれたと思うよ」

「……」

リザは、何も言わず微笑むだけだった。それだけで、よかったのだと思う。


「さよなら」


その言葉をヴェインから聞くのは初めてだった。

いつも彼は別れ際には「また来るよ」と、優しく微笑み帰って行くのが常だった。

たぶん、それはもうここに来ることはないということを暗に告げているのだろう。


白の空間は至純の銀を解かしてしまいそうだった。

儚さを纏いながらも誰よりも強い意志を持つ者。

そんなヴェインの後姿を見送りながら、不可能だとはわかっていても彼の痛ましい過去と

陰惨たる運命が変わることを願わずにはいられなかった。



白という名の純粋に黒という名の歪みを一つ 


もう戻ることは叶わない


黒の為に全てを奉げ


黒の為に全てを捨てる


白の世界は醜いもので溢れているから


白の世界を壊してしまおう


もう二度と繰り返さぬように―――


                                              by 沙粋

白は純粋なる者を 黒は邪悪なる者を


白には寂寞を 黒には殺戮を


白ならば生を 黒ならば死を


対なる2つの扉は 対なる意思を悟り


その真理を以ってして その姿を表白する―――




ダァン!ガァン!!


閑寂なる白の空間を侵すような轟音が響きわたる。

その広い空間の四方の壁には白い扉が点在していたが、唯一黒の扉が一つだけ印象的に存在している。


その真白き空間の中心に在る四方に水の張った溝が掘られている中心の場所で、

エメラルドグリーンのウェーブがかった髪の女性は、その音に見向きもせず

椅子に腰掛けひとり優雅に読書をしている。

しかし、その轟音が鳴り止んだのとほぼ同時に本を閉じ、ゆっくり立ち上がった。


すると、その空間に唯一存在する印象的な黒が微塵の音も立てずゆっくりと開扉された。


「久しぶりだね」


その扉から現れたのは、フード付きの外套を深くかぶり硝子のように透きとおる銀糸の髪を持った

少年とも青年とも区別ができないような丹精で整ってはいるが妖艶な顔つきの男だった。


「えぇ、本当に。それにしても、またそちらから入ってきたの。君がそこを通ると後始末が大変なのよ」

深く溜め息を吐きながらも、嬉しそうな表情で言う。


黒の扉は邪悪な心を持つ者にのみ其の道を開け渡す。

しかし、扉の中は魑魅魍魎の巣窟であり侵入者は全て惨殺され喰い殺されるのが関の山だ。

そして、惨殺された侵入者の屍は魑魅魍魎と化し、その扉へ足を踏み入れた者を道連れとする。

その連鎖により黒の扉の中は、一度足を踏み入れれば二度と出る事の叶わぬ闇の世界となっている。


しかし、彼はその全てを逆に残滅してしまった。


「ごめん、ごめん。でも、仕方ないだろ。もう僕は白の扉は通れないからね」
「通れないのではなくて、通らないのでしょう?」

「いや、通れないんだよ。あの子は通れたみたいだけど」

「当然よ。彼は穢れていないもの」

「僕と違って?」

「そうね」

微笑し、その後立ち話もなんだからと自室へと招き入れた。咽返るほど薔薇の香りの充満する部屋。

「相変わらず趣味の悪い薔薇だらけの部屋だね」

「初めて来た時は素敵だと言っていたくせに」

「あの時は綺麗なものほど醜さを纏っていることに気付いていなかったんだよ」

冷たく鋭い表情でそう語る彼に腰を下ろすことを勧めたが、座らず彼女の方へと歩み寄った。


「なぜ何も言わなかったんだ、リザ」

「何のことかしら」

「わかっているだろう」

「無駄なことだからよ、わかっているでしょう」

瞬間二人は目が合い、少し空気が張り詰める。

「無駄かどうかは君が決めることじゃない」

「ヴェイン、止めましょう。その話は…どうせ心は変わらないのでしょう」

「あぁ」

「ならば、少しでも長く彼らが絶望を知ることがないようにしただけよ」

「絶望?違うよ。世界にとっては唯一の希望だ」


いつから僕らの世界はこんなにも醜くなってしまったのだろうか

それとも 基より醜かったとでもいうのだろうか

全てを無に帰せば きっと…世界は僕らの望んだ姿へと変わる


「本当に変わってしまったのね」

「僕は何も変わっていないよ。変わったのは君の方だ。

昔の君ならこんな出来事に心を動かすことなんて絶対になかっただろう」

「そうね。きっと、変えたのは君たちよ」


不変のものなどこの世には存在しない

あの太陽ですらいつか消滅してしまうのと同じように―――


「ごめんね」

その表情からは謝罪の念は欠片も読み取れない。リザは呆れて真面目な話を終わらせた。


「これからどうするつもり」

「とりあえず、ここで眠らせてもらうよ。ここ数日砂の上だったんだ。ベッドが恋しい」

「どうぞ」

そう言って自分のベッドを明け渡した。

その脇に置かれている水晶玉の中に咲く真っ赤な一輪の薔薇は、その花びらを完全に閉じていた。


                                     by 沙粋


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「足の治療ありがとうございました」

トキは、軽く頭を下げ微笑む。

「いえ、こちらこそ。本当にもう大丈夫?」

「はい、もう全然痛くないです」

「そう、それはよかった。是非また遊びに来てちょうだいね」

その言葉は心からのものであることに違いはなかったが、少し違和感のあるものだった。


支度を終えたトキたちは、リザに案内されるまま出口に繋がるという場所へと連れられて来た。

やはりそこは四方が白で囲まれた空間で閑散としている場所だった。

そして、先の見えないほど長く続く階段が目の前に聳え立っている。

「この階段を上って行けばいいんだよな」

「えぇ、そうよ。一番上に着いたら、薔薇の模様の入った扉を開れば外に繋がっているわ。

少し重いと思うから頑張ってね」

彼女には不似合いな爽快な笑顔で言って、クラウドの肩をポンと叩く。

「お、おぅ!任しとけ」

また、開かなかったらどうしようか、と一瞬不安に思いながらも威勢よく返事をした。


「じゃあ、僕たちはそろそろ行きます。本当にありがとうございました」

「ありがとね」

「お世話になりました」

みんなでお礼を言って、お別れの言葉とともにその場を後にした。


「君ならきっと大丈夫よね…」

3人が見えなくなるまでその場に立ち尽くしていたリザは、

そう呟いてから静寂に包まれた白の中へと吸い込まれるように戻って行った。

微かに薔薇の香りを落としながら―――




「この階段いつまで続くんだ。もう結構のぼった気するぜ」

もうかれこれ30分は上り続けているが全く以って先が見えない。

そこまで深くに落ちた感じはなかったのだが、そうでもなかったらしい。


ドォン!!!


「うわぁ、なんだぁ?」

遠くの方で轟音が鳴り響き足元が揺れる。

「きゃっ!」

トキの肩に掴まっていたキラが転げ落ちそうになり声を上げた。

同時にトキも足元を掬われそうになったが、クラウドに支えられて倒ける事は免れた。

「すいません」

「いや、それより何だったんだ今の」

「わかりません。けど、何かが途轍もない圧力で壁にぶつかったようなそんな感じの音でした」

「あぁ。とにかく速く階段を上りきった方がよそうだな」

「はい」



やっとのことで薔薇の印の刻まれた扉の前まで辿り着いた。上ってくる間に3,4回同じような

轟音が響いていたので、少しリザのことが心配だったが彼女なら大丈夫だろうと先を急いだ。


「あ゛ー、疲れた」

「あんまり速く走るから目が回っちゃったわよぉ~」

走っている間、必死でトキの肩にしがみついていたキラがよろめきながらも

なんとか肩にぶら下がっている。少し休憩してから、クラウドは徐ろに立ち上がり

よしっ、と一声上げて勢いよく扉を押した。


「うわぁっ!!」

リザに重いと言われていたので、勢いよく押したのはよかったが、重いなんて以ての外で、

まるで空気のように軽かったことでクラウドはそのまま外へと飛び出し、砂の上に盛大に転げ込んでしまった。

「うぅ~」

「…何やってんのよ、アンタ」

馬鹿にしたような冷ややかな声でキラが言った。

「いや、だってその扉軽っ…」

砂まみれになりながらクラウドが答えた。

「…大丈夫ですか」

そう言いながら扉を抜け、クラウドに手を差し出す。

「あぁ、なんとか」

全員が通り抜けると扉は自然に閉まり、それは影も形も見えなくなってしまった。

しかし、触れるとそこに確かに扉は存在していた。風景と同化しているので肉眼では見えないはしないが。

「確かにこれじゃあ、外からは見えないわね」


「なぁ、俺最近こんなんばっかじゃねぇ。すっげぇ、かっこわりぃ~」

一人情けない声を上げているクラウドを余所目にトキたちは次の国へと歩き出していた。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ~」


by 沙粋


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夜であろう時間になり、トキたちは一度部屋に戻り、出発の準備をした。

ここに来てから、荷物を一度も開けていない。

開けてみると、中は砂まみれになっていた。砂漠で呑まれた時に入ったのだろう。

一つ一つ丁寧に砂をはたき落としつつ荷物を整理していくトキ。

その中にあった小さな瓶を見る。中には何も入っていない。

そのことを確認してから、鞄の奥にしまいこんだ。


「ねぇ、トキ。ここを出たら次はどこに行くつもりなの?」

「とにかく一番近い町に行こうと思う」

そう言って、年代ものであろうと思われる古びた地図を広げる。

「今はここだから、一番近いのは…」

そのやり取りを見ていたクラウドがふとあることに気付き口を挟んだ。

「あのさ、トキその地図古すぎやしないか」

「え…」

「今は、ここにも国ができてるし、この国とこの国は統一して一つの国になってる。

確かここにも国があるはずだぜ。なんつーか、

古いっていうより数ヶ所間違ってるって言ったほうが正しいかもな」

「そうなんですか」

若干驚いた表情で地図を眺める。

「じゃあ、今までこんな間違いだらけの地図で旅してきてたってこと。

そりゃ、道に迷うわけだわ」

「……」

「まぁ、間違いに気付いてよかったじゃんか」

トキの肩を叩きながら、フォローするようにクラウドが言う。

「でも、困ったわね。地図がないと次の国に行けないし」

「それなら、俺がいるから大丈夫だって!」

「はっ? アンタまだついて来る気なの」

「当たり前だろ」

「何が当たり前なのよ!」

「だって、俺ら一夜を共にした深~い仲だもんなぁ、トキ」

そう言って、トキを抱きしめる。その行動にトキは顔を真っ青にしてクラウドを突き飛ばした。

「なっ!ふざけないでください!!」

「ひでぇなぁ、俺はいつでも大真面目だぜ」

ふざけたことを言いながら満面の笑みのクラウド。

また始まったとばかりにキラは呆れながら二人の事を見ているが、

あまり人前で感情を露にしないトキが、彼の行動に乗せられて感情的になる姿を見て、

それもまたいい傾向だと思っていることも事実だった。


「しょうがないわね。地図が間違ってる以上クラウドを連れていくしかないか」

「そうそう、地図なら俺の頭ン中に入ってるから任せときなって」

「で、ここから一番近い国って一体どこなの?」

「えっと、ここがアラバス砂漠だから一番近いのはあそこか…」

クラウドは怪訝な顔つきで何か考え込んでいる。

「だから、なんていう国なの」

「あぁ、確か今は国名が変わってるはずなんだけど、なんだったっけかなぁ。

昔はザンフトって呼ばれてたんだ。統主が変わって、今じゃ発展途上真っ最中の国だな。

あんまりいい噂は耳にしないけど・・・行くのか?別に避けて通る事だってできるぜ」

「どうする、トキ?」

「行きます」

「じゃあ、決まりだな」


「あの、ずっと旅をしてるんですか」

なぜクラウドが地理に詳しいのか気になり、トキが尋ねる。

「ん?そうだな。もうずっと長いこと旅してるぜ。一所には留まれないんだよ、俺」

そうやって、にっこり笑うクラウドにキラが突っ込む。

「どうせ変な事して追い出されてるんでしょ」

「酷ェなぁ。お前、俺の事なんだと思ってんだよ」

「変態。」

「なっ!」

そのセリフに大ダメージを受けるクラウド。

「俺のどこが変態なんだよ!」

「全部よ、全部!!」

「トキ~。俺変態じゃないよな?な?」

ショックのあまり情けない声で、トキに助けを求める。

「…え」

「ほらね。トキだってクラウドの事変態だと思ってるのよねー」

「そんなことないよなぁ、トキ」

二人に挟み撃ちにされ否定も肯定もできない。
トキは困惑の表情を浮かべている。

「えっと、クラウドは時々変な事するけど、本当は優しい人なんじゃないかと思う…」

「ほらな、トキだって変態じゃないって言ってるじゃねーか」

微妙な引っ掛かりを感じながらも威勢よく否定する。

「え、今のってアンタが変態って肯定してたように聞こえたんだけど…」

「あーもう、この話は終わり!明日早いんだからもう寝ようーぜ」

そう言って誤魔化す様にそそくさとベッドに入った。

「そうね。もう寝ましょうか」

「うん」

今夜はキラもトキたちと同じ部屋で眠った。

トキは真白い天井を眺め、これからの事について少しだけ考え、ゆっくりと瞼を閉じた。




少し欠けた月がその薄明かりで無限に広がる砂漠を照らしている

そこに月明かりに照らされる人影がひとつ

フードに隠れて顔は全く見えないが 硝子のように透きとおる繊細な白銀の髪が

首筋から流れでて月に反照している

月が中天に懸かった頃 その人影は歩みを止め一点に影を落とし続ける


地平線から微かに光が漏れ出した頃、ふいに人影はどこかに消えてしまっていた――――




最初に目を覚ましたのはクラウドだった。ベッドからおり、トキたちの眠るベッドへと近寄る。

コンコンッ

扉を叩く音がして、クラウドは扉の方へ注意を向けた。

「もう起きているかしら」

リザの声が扉越しに聞こえる。

「あ、あぁ。起きてるぜ」

「そう、なら支度が済んだら出てきてくれるかしら」

「わかった」


彼女に言われた通り、支度をするためにトキを起こそうとベッドの脇に立つ。

「トキ、キラ・・・朝だぜ。起きろよ」

体を揺さぶり起こそうとする。

すると、ゆっくりとトキが瞳を開いた。

「あ、おはようございます」

「おはよ、もう朝らしい……ぜ」

一瞬言葉が途切れる。クラウドは、瞳を大きく開きトキを見つめている。

あまりに凝視してくるクラウドにトキは怪訝な顔つきをした。

「あの、まだ何か?」

「あっ!いや、別に…」

いつもとは違い髪を下ろしてるトキに思わず見とれてしまっていた。

というより、驚いてしまった。あまりにも自分の知っている人物によく似ているということに。

「ハハ……まさかな」

聞こえないくらい小さな声で一人呟き支度を始めた。


                                               by 沙粋


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