話は、有給休暇の消化期間中に戻る。
時間に余裕があったので、いくつかの転職サイトに登録してみた。
昔は「デューダ」などの雑誌を買って仕事を探していた時代もあったが、
今はインターネット中心になったおかげで、少しでも経費が節約できる。これは助かる点だと感じた。
登録して間もなく、1件のオファーが届いた。
「営業職」だった。
正直、もう営業はやりたくないな……と思っていたので、最初はあまり乗り気ではなかった。
けれど、オファーをいただいたことへの律儀さからか、気づけば返信してしまい、面接を受けることになった。
久しぶりの面接だったが、さすがに年齢を重ねたせいか、若い頃のような緊張はなかった。
どちらかというと、「どんな会社だろう」といった興味の方が勝っていて、楽しみながら向かった感覚だった。
当日、最初に案内してくれた男性の、なんとも言えない表情が少し気になった。
奥の部屋に通され、面接してくださったのは社長だった。
営業経験を評価してオファーをくれたらしく、面接では営業に関する質問が多かった。
その後、事業内容の説明も受けた。
手法としては「反響営業」がメインとのこと。
電話対応である程度「ホットな状態」までお客様の興味を高めたうえで、
最終的なクロージングの際に直接訪問する、というスタイルだった。
その説明の中で、引っかかった言葉があった。
「ホットな状態まで持っていかずに営業に出るのは、遠足だ」と社長は言ったのだ。
これまで私は、膝を突き合わせて定期的にフォローし、顧客関係を構築してきた。
いわゆる**ザイオンス効果(単純接触効果)**のように、商品の話をしなくても顔を見せることで信頼関係が深まると感じていた。
経営者の視点からすれば、そうした訪問を「遠足」と表現するのも、無駄な経費という意味で理にかなっているのかもしれない。
肯定も否定もできないが、少なくとも私はその価値観とは合わないと感じた。
最初に案内してくれた男性の表情を思い出し、勝手に納得してしまった自分もいた。
結果は「後日連絡します」とのことだったが、
あれからもうすぐ2年。まだその連絡は届いていない。
そして、有給休暇が終わる頃、私は再び職安へ向かった。