--みなさんは、ひとりで居るとき等に、ふと何者かの気配や視線を感じたことはないだろうか。
そんな何者かの気配が現実として干渉してくる場合があるということもご存知だろうか。
これを執筆している前日の話である。
ここ数日眠りが浅く日々睡眠不足に悩まされていたところ、その日も例外無く眠りが浅く何時もの様に目が覚めた。
ただ、何時もと違う事に何かしらの気配をうっすらと感じての目覚めだった。
耳を澄ます--。
聞こえているか聞こえていないのか現実味の薄い音が徐々に、ただ確実に近付いてくるのを感じた。
ザザ・・・ザザ・・・
ザザ・・ザザザ・ザ
耳許まで聞こえたかと思った刹那。
たくさんの小さな手の影が顔を引っ掻こうと爪を立てて襲って来た。
驚いて目の前の影を振り払おうとするも、
その手は掠りもせず空を切る。
必死になって足掻くも目の前の手はひたすらに襲ってくる。
影の一つが右目に当たった。そこで記憶が途切れた--。
それから今日、右目が一日中痛い。
と、云うように何かしらの意図があってなのか、この様な現象に時々見舞われることがある。
そして、あの日もまた--。
【ついてくるもの】
あれは、高校生の時分--。
従兄弟とその妻の弟妹達と海へ遊びに行った夜に起きた。
その夜は、従兄弟の家に泊まった。
従兄弟の家とはいえ、妻方の実家に居候していたのだが。
その家は古い平屋で田舎の、山の中程に在り、街灯も無く日が暮れると辺りは真っ暗となる。
海ではしゃぎ遊び疲れてみんな寝静まった夜。ふと、催して目が覚めた。
辺りは暗く、静まり返っている。
その時気付けば良かったのかも知れない。
--。その夜は静か過ぎた。
寝息どころか虫の音ひとつ聞こえていなかったのだ。
息を潜めトイレへと向かう。
トイレには、ひとつ白熱灯がぶら下がっていて狭い室内でも光が届かず、うっすらと影が根を張った黴のように壁を這っていた。
その真ん中に和式トイレがぽっかりと暗い口を開いて鎮座していた。
小さな扉を閉めて心許ない閂状のスライド鍵は掛けずに於いた。
なにかを感じ取って居たのかも知れない。
そして用を足そうとした矢先--。
急に強い力で左肩を引っ張られた。
身体が軽く後ろへ傾くほどの強さだ。
驚いて後ろを振り向いたが、其処には小さな扉と、仄暗い影が掛かっているだけだ。当然誰も居るはずもなかった。
暫く動けず扉を擬っと見ていると、引っ張られた左肩だけが金縛りにあったかのように痺れて全く動かせず、肩から腕に掛けて粟立っていることに気が付いた。それに気が付いた瞬間、意識がはっきりし全身が粟立ったのだった--。
このふたつのエピソード。
どちらも何者かを連れて帰ったのかも知れない。そしてその後その何者かは
はたりと気配を消すことに共通点がある。
さて、連載と言いたいが前回から暫く経ち、もう秋となってしまったことを詫びなければならないでしょう。
どうも筆不精が祟ってしまい申し訳ないと思っています。
今回を以て最終回とさせて頂きます『怪奇譚見聞録』は如何でしたでしょうか。
それでは、これを執筆するに至った本を紹介します。最終回の章タイトルにも引用させて頂いたこの本。
「ついてくるもの(三津田信三)講談社文庫」
短編から成る小説集です。
奇妙な夢。
持ち帰ってしまったもの。
家の中の不審な物音。
入らずの森。
旋律の花束。
恐ろしいのについ読み返したくなる本だと思います。
三津田氏は元編集という経歴を持ったホラーミステリ作家です。
ホラーテイストを用いながら、ミステリに必要な論理性を提示し、スパイスとして不可解な謎を散りばめてくれます。
読んでいて気付くと三津田ワールドに引きずり込まれていることでしょう。
今回紹介した本は、純粋なホラーにスパイスとしてミステリを散りばめた様な作品です。実際に取材をした実話から書かれているとのこと。
もし、お時間があれば是非三津田ワールドへ足を踏み入れてみては如何でしょうか。
でわ。
--。夢。
眠っている間に、現実にない事象の感覚。
現実の持つ確かさが無いことを指し、
夢幻・夢想・夢中・夢寐(むび)・夢遊病・吉夢・悪夢・凶夢・迷夢・霊夢・白昼夢・酔生夢死--。等の言の葉。
現在、アメリカ大統領選挙の政(まつりごと)に熱気を帯びている。
以前--。もう何年も前である。確か2008年だっただろうか。
それはスーパー・チューズデーの前日に見た夢なのだが予知夢としか思えない内容であった。
--見たこともない様な大きな竜巻が幾つも発生し建物を巻き込み、飲み込みながら迫ってくる夢を見た。宛ら、映画ツイスターを体現したかの様な現実感の強い夢であったのだ。
そして、その翌日、アメリカで大きな竜巻が幾つも発生したニュースを見て驚愕したものである--。
今回掲載する物語は「夢」である。
この中でも、悪夢や凶夢や迷夢、霊夢に属する事になるだろうか。
夢を言われて実体験と言えるのか。と、思われるだろう。
然し、これから紹介する物語は以前にも紹介した内容であるが。ただ、私がみた夢の中で最も戦々恐々としたひとつであり、未だに色褪せることなく脳裏に張り付いているものである。
それを今回、校正した内容を掲載するものとする--。
【参列】
こんな夢を見た--。
空は白み、仄明るい。高い建物は無い。
田畑に囲まれた漆喰の壁を持つ平屋の武家屋敷らしき建物がひとつあるだけである。道は舗装されず土を踏み固めただけの質素なものであった。
その屋敷の門扉には、大石を削り出しただけの石段が五段、無造作に置かれてある。
その門扉から出て右手に廻った先に田畑があり、畦道の奥に小さな祠がひっそりと佇み、うっすらと影を伸ばしていた。
その屋敷から祠に掛けて厳かに列を組む人々の姿があり、皆、黙々と牛歩ながら歩を進めている。
私も、その列のひとつとして後方に在った。
私は、これが何者かの葬儀の参列であることを直感した。
並ぶ人々に漆黒でないくすんだ黒。と、言うべきだろうか。その様な印象を受けた。肌もくすんだ灰色で生気がない。丁度、古いVHSのモノクロ画像と云った感じだろうか。
その列は、屋敷と祠との間を往復しているように見えた。誰も喋らない。誰も列を乱さない。ただ、黙々と列していた--。
ふと、畦道に差し掛かるくらいに、その列に大凡似付かわしくない深い朱色を列の中程に見つけた。
高さにすると参列者達の半分程で、子供のそれだ。
私はそれが気になりつつも、列を乱さないように並び歩いた。
--。もう、どのくらい歩き続けただろうか。
気が遠くなる程の時間を歩いた様な気がする。
門扉の石段を降りたところで、ふと朱い色のそれが居た場所に目をやったが、それは居らず既に消えていた。
暫く辺りを見渡してみたがそれを見つけることが出来なかった。
すると、真後ろから声が聞こえた。
「どうしてだろ。」
私は驚き反射的に振り向いた。
すると、朱い着物を着た女の子が俯き私の真後ろについていた。
「どうしてだろ。」
その女の子は、もう一度そう繰り返し顔をゆっくりと持ち上げた。
髪は黒く、前髪を目の上に切り揃え、後頭部は顎先ほどの長さに揃えられていた。
市松人形然としている。
その眼は半月状でまるで英字のDを黒く塗り潰し、波立つ水面に浮かべたような黒目をしていた。
それを見開いた大きな瞳で、口を真一文に結んでこちらを見上げていた。
そして、微動だにせずに悲鳴ともつかない声で「どうしてだろ!」と、叫んだ。
私はその声に恐怖を覚え、その場から逃げ出した。
列から外れ祠の方向とは逆の左側に駆け出した。その、すぐ後ろをあの声が追いかけてくる。
漆喰の壁に囲まれた道に入った。脇に逃げ道が無く前へと進む他に遣り様がなかった。
進む先々に曲がり角がある。
振り切ったと思えば、先の角から「どうしてだろ。」と、呟き声が聞こえてくる。
その度に踵を返して走る。
元の道を戻っている筈であるのに、元の道には戻ることがなかった。
既に方向感覚は無く、ただ声から逃げるだけであった。
逃げても、逃げても、その声が追いかけてくる。
その内、袋小路に行き着いた。壁は高く昇ることが出来そうにない。
その時、耳元近くで聞こえてくる声。
「どうしてだろ?」
振り向くと私より遥かに背の小さい筈である女の子の顔が目の前に在った。
あの恐ろしい眼を携えて--。
眠っている間に、現実にない事象の感覚。
現実の持つ確かさが無いことを指し、
夢幻・夢想・夢中・夢寐(むび)・夢遊病・吉夢・悪夢・凶夢・迷夢・霊夢・白昼夢・酔生夢死--。等の言の葉。
現在、アメリカ大統領選挙の政(まつりごと)に熱気を帯びている。
以前--。もう何年も前である。確か2008年だっただろうか。
それはスーパー・チューズデーの前日に見た夢なのだが予知夢としか思えない内容であった。
--見たこともない様な大きな竜巻が幾つも発生し建物を巻き込み、飲み込みながら迫ってくる夢を見た。宛ら、映画ツイスターを体現したかの様な現実感の強い夢であったのだ。
そして、その翌日、アメリカで大きな竜巻が幾つも発生したニュースを見て驚愕したものである--。
今回掲載する物語は「夢」である。
この中でも、悪夢や凶夢や迷夢、霊夢に属する事になるだろうか。
夢を言われて実体験と言えるのか。と、思われるだろう。
然し、これから紹介する物語は以前にも紹介した内容であるが。ただ、私がみた夢の中で最も戦々恐々としたひとつであり、未だに色褪せることなく脳裏に張り付いているものである。
それを今回、校正した内容を掲載するものとする--。
【参列】
こんな夢を見た--。
空は白み、仄明るい。高い建物は無い。
田畑に囲まれた漆喰の壁を持つ平屋の武家屋敷らしき建物がひとつあるだけである。道は舗装されず土を踏み固めただけの質素なものであった。
その屋敷の門扉には、大石を削り出しただけの石段が五段、無造作に置かれてある。
その門扉から出て右手に廻った先に田畑があり、畦道の奥に小さな祠がひっそりと佇み、うっすらと影を伸ばしていた。
その屋敷から祠に掛けて厳かに列を組む人々の姿があり、皆、黙々と牛歩ながら歩を進めている。
私も、その列のひとつとして後方に在った。
私は、これが何者かの葬儀の参列であることを直感した。
並ぶ人々に漆黒でないくすんだ黒。と、言うべきだろうか。その様な印象を受けた。肌もくすんだ灰色で生気がない。丁度、古いVHSのモノクロ画像と云った感じだろうか。
その列は、屋敷と祠との間を往復しているように見えた。誰も喋らない。誰も列を乱さない。ただ、黙々と列していた--。
ふと、畦道に差し掛かるくらいに、その列に大凡似付かわしくない深い朱色を列の中程に見つけた。
高さにすると参列者達の半分程で、子供のそれだ。
私はそれが気になりつつも、列を乱さないように並び歩いた。
--。もう、どのくらい歩き続けただろうか。
気が遠くなる程の時間を歩いた様な気がする。
門扉の石段を降りたところで、ふと朱い色のそれが居た場所に目をやったが、それは居らず既に消えていた。
暫く辺りを見渡してみたがそれを見つけることが出来なかった。
すると、真後ろから声が聞こえた。
「どうしてだろ。」
私は驚き反射的に振り向いた。
すると、朱い着物を着た女の子が俯き私の真後ろについていた。
「どうしてだろ。」
その女の子は、もう一度そう繰り返し顔をゆっくりと持ち上げた。
髪は黒く、前髪を目の上に切り揃え、後頭部は顎先ほどの長さに揃えられていた。
市松人形然としている。
その眼は半月状でまるで英字のDを黒く塗り潰し、波立つ水面に浮かべたような黒目をしていた。
それを見開いた大きな瞳で、口を真一文に結んでこちらを見上げていた。
そして、微動だにせずに悲鳴ともつかない声で「どうしてだろ!」と、叫んだ。
私はその声に恐怖を覚え、その場から逃げ出した。
列から外れ祠の方向とは逆の左側に駆け出した。その、すぐ後ろをあの声が追いかけてくる。
漆喰の壁に囲まれた道に入った。脇に逃げ道が無く前へと進む他に遣り様がなかった。
進む先々に曲がり角がある。
振り切ったと思えば、先の角から「どうしてだろ。」と、呟き声が聞こえてくる。
その度に踵を返して走る。
元の道を戻っている筈であるのに、元の道には戻ることがなかった。
既に方向感覚は無く、ただ声から逃げるだけであった。
逃げても、逃げても、その声が追いかけてくる。
その内、袋小路に行き着いた。壁は高く昇ることが出来そうにない。
その時、耳元近くで聞こえてくる声。
「どうしてだろ?」
振り向くと私より遥かに背の小さい筈である女の子の顔が目の前に在った。
あの恐ろしい眼を携えて--。
この世には、八百万の奇々怪々な物語が存在することを誰もが体験はせずとも既知としているところだろう--。
夏の季節となると、殊更耳にすることがあるのではないだろうか。
現在、夏だと云うことで手に取った小説のジャンルがホラーミステリだということもあり、少しばかり私の体験談等を短編として幾つか挙げてみたいと思う。
件の小説は、全てを掲載した最期に紹介するものとする。
【老爺】
あれは、いつの頃だろうか--。
まだ、仕事で全国を飛び回っていた時期だったので、かれこれ7、8年程前の事だったと思う。
その仕事先のひとつであった場所が、大阪の外れにあり実家のある奈良から通える場所であった。
実家と言っても、母1人住んでいるだけの家である。
そうそう、帰ることもないので仕事を理由に帰省するには丁度良かった。
そういった事もあり、その場所へ出向する際にはいつもホテルを取らず実家で寝泊まりする様にしていたのだった。
あの日は、秋の深まった頃であったと思う。
朝夕が肌寒く電車を待つホームが吹き晒しで辛かったことを憶えている。
いつもの様に朝から福岡を出発し、仕事場へ向かい。その夜、実家へと帰ったのであった。
その日は、仕事が終わってからいつになく疲労感と背中に重石が乗っけてあるかの様な違和感を感じていた。
朝、福岡を出るまではそんな事は微塵も感じなかったという事にも関わらずである。
ただ、その夜は仕事の気疲れであろうと思うことにし、食事も程々に風呂に入り早めに就寝したのであった。
真夜中、ふと目が覚めた--。
家の中は、しんとして空気が冷たかった。
然し、何かがおかしい。
部屋が暗すぎるのだ。自分の部屋のない実家では私は居間で寝る。
そして、母はレースカーテンのみ窓に掛けている。窓の外は駅の近くで夜通し街頭が明々と点いている様な場所なのにである。
それに足元に--。何かがいる!?
暗すぎる闇に「なにか」の気配を感じる。
然し、見ようとするも身体を動かすことが叶わないのである。
その「なにか」は、なにをするでもなく凝っとこちらを見つめている。
暫くすると、母が起き出して来てトイレに向かうのが見えた。声を出そうにも声が出ない。そのまま母は用を足し自分の部屋へと戻っていった。
それから、恐怖に凝っと堪えながら時間が経つのを待った。待ち続けた--。
そして、気がつくと携帯のアラームが鳴り響いていたのである。
その朝、朝食を並べながら母がふと、「昨日からなんや肩重いわ」と、呟いた事に私は目を瞬いて母の顔を見た。
「いや、俺もやん。なんか昨日から身体重いしダルいわ」と、返しながら真夜中の事は伏せておいた。
それから脈絡なく母が「そう言えばアンタ。昨日の夜、歯軋り凄かったで。トイレに起きたらギリギリ音鳴らしとったわ」と不意に切り出し、その言葉に私は凍りついた。
何故なら私は一晩中起きていた筈なのだ。
少なくとも母がトイレに向かうとき、確実に起きていた。そして、私はその音を聴いていない--。
「えぇ?そん時、俺起きとったで?トイレ行くの見たし」と、私は言う。
「そうなん?アンタなんか憑れ帰ったんちゃうやろな?肩重いし、アンタもやろ?」と、母。
こういう事の母は勘がいい。
薄ら気味が悪いので話をそこで終わりにし、仕事へ行く支度を始めた。
家を出る際に母が「よう解らんけど、気い付けてな」と言った。
縁起でもない--。私はそれを無視し「行って来ます」とだけ言い残し仕事場へと出掛けた。
仕事場に着き、暫くしてサーバのセットアップをする為にひとりサーバルームに入った。
黙々と作業を行っていると、ふと背後に視線を感じた。
担当の事務員が呼びに来たのかと思い、振り向くと--。
そこには、スーツ姿の老爺が気を付けをし肩までを天井に埋めてぶら下がっていた。
顔が見て取れない筈であるのに、何故か老爺だと認識出来ている。
「それ」は凝っとこちらを見据えて微動だにしない。
恐らく顔面蒼白だったに違いない。
直ぐに部屋を出て行きたかった。然し、ドアは「それ」の足元の向こう側にあってどうにも突き抜けて行く気が起きない。
私は踵を返しサーバのモニタにかじり就いた。
視線を背中に感じながら暫くキーボードを叩いた。意味のある文字は打っていない。
ただ、何もしないわけにはいかなかったのである。
暫くすると、ふと視線がなくなり肩が楽になった気がした。私は深い溜め息を吐き、椅子にもたれ掛かった。
その時、母からメールが届いた。
「肩が楽になりました。」
夏の季節となると、殊更耳にすることがあるのではないだろうか。
現在、夏だと云うことで手に取った小説のジャンルがホラーミステリだということもあり、少しばかり私の体験談等を短編として幾つか挙げてみたいと思う。
件の小説は、全てを掲載した最期に紹介するものとする。
【老爺】
あれは、いつの頃だろうか--。
まだ、仕事で全国を飛び回っていた時期だったので、かれこれ7、8年程前の事だったと思う。
その仕事先のひとつであった場所が、大阪の外れにあり実家のある奈良から通える場所であった。
実家と言っても、母1人住んでいるだけの家である。
そうそう、帰ることもないので仕事を理由に帰省するには丁度良かった。
そういった事もあり、その場所へ出向する際にはいつもホテルを取らず実家で寝泊まりする様にしていたのだった。
あの日は、秋の深まった頃であったと思う。
朝夕が肌寒く電車を待つホームが吹き晒しで辛かったことを憶えている。
いつもの様に朝から福岡を出発し、仕事場へ向かい。その夜、実家へと帰ったのであった。
その日は、仕事が終わってからいつになく疲労感と背中に重石が乗っけてあるかの様な違和感を感じていた。
朝、福岡を出るまではそんな事は微塵も感じなかったという事にも関わらずである。
ただ、その夜は仕事の気疲れであろうと思うことにし、食事も程々に風呂に入り早めに就寝したのであった。
真夜中、ふと目が覚めた--。
家の中は、しんとして空気が冷たかった。
然し、何かがおかしい。
部屋が暗すぎるのだ。自分の部屋のない実家では私は居間で寝る。
そして、母はレースカーテンのみ窓に掛けている。窓の外は駅の近くで夜通し街頭が明々と点いている様な場所なのにである。
それに足元に--。何かがいる!?
暗すぎる闇に「なにか」の気配を感じる。
然し、見ようとするも身体を動かすことが叶わないのである。
その「なにか」は、なにをするでもなく凝っとこちらを見つめている。
暫くすると、母が起き出して来てトイレに向かうのが見えた。声を出そうにも声が出ない。そのまま母は用を足し自分の部屋へと戻っていった。
それから、恐怖に凝っと堪えながら時間が経つのを待った。待ち続けた--。
そして、気がつくと携帯のアラームが鳴り響いていたのである。
その朝、朝食を並べながら母がふと、「昨日からなんや肩重いわ」と、呟いた事に私は目を瞬いて母の顔を見た。
「いや、俺もやん。なんか昨日から身体重いしダルいわ」と、返しながら真夜中の事は伏せておいた。
それから脈絡なく母が「そう言えばアンタ。昨日の夜、歯軋り凄かったで。トイレに起きたらギリギリ音鳴らしとったわ」と不意に切り出し、その言葉に私は凍りついた。
何故なら私は一晩中起きていた筈なのだ。
少なくとも母がトイレに向かうとき、確実に起きていた。そして、私はその音を聴いていない--。
「えぇ?そん時、俺起きとったで?トイレ行くの見たし」と、私は言う。
「そうなん?アンタなんか憑れ帰ったんちゃうやろな?肩重いし、アンタもやろ?」と、母。
こういう事の母は勘がいい。
薄ら気味が悪いので話をそこで終わりにし、仕事へ行く支度を始めた。
家を出る際に母が「よう解らんけど、気い付けてな」と言った。
縁起でもない--。私はそれを無視し「行って来ます」とだけ言い残し仕事場へと出掛けた。
仕事場に着き、暫くしてサーバのセットアップをする為にひとりサーバルームに入った。
黙々と作業を行っていると、ふと背後に視線を感じた。
担当の事務員が呼びに来たのかと思い、振り向くと--。
そこには、スーツ姿の老爺が気を付けをし肩までを天井に埋めてぶら下がっていた。
顔が見て取れない筈であるのに、何故か老爺だと認識出来ている。
「それ」は凝っとこちらを見据えて微動だにしない。
恐らく顔面蒼白だったに違いない。
直ぐに部屋を出て行きたかった。然し、ドアは「それ」の足元の向こう側にあってどうにも突き抜けて行く気が起きない。
私は踵を返しサーバのモニタにかじり就いた。
視線を背中に感じながら暫くキーボードを叩いた。意味のある文字は打っていない。
ただ、何もしないわけにはいかなかったのである。
暫くすると、ふと視線がなくなり肩が楽になった気がした。私は深い溜め息を吐き、椅子にもたれ掛かった。
その時、母からメールが届いた。
「肩が楽になりました。」