今日、父と2人で
透析や今後の入院用のパジャマ等と
誕生日プレゼントを買いにいきました。
誕生日プレゼントは、
悩んだ挙句、腕時計にしました。
……父は別に時計はあるから要らないと言って、
売り場を見ては、
高い。
と、言っていました。
父は人工透析をしています。
透析用の管を通す手術の時、
医者に言われました。
『左手に管をとおしますので、
今後、時計は右手か懐中時計に……。』
売り場で渋る父を見て、
そんな言葉を思い出しました。
綺麗な時計をいくつか出してもらい
はめて見ました。
素敵な時計が見つかりました。
……ベロアの台におかれた
今父がしている時計は、
お世辞にも大人の男性がつけるような時計ではありません。
文字盤は傷だらけ……
チタンのベルトはとても軽くていいのですが……
大工仕事のホコリが溜まっていました。
一万円以下で買ってから、
何度も電池交換をして
もう十三年以上も使っていると話してくれました。
電車の中で、ポロリと
『これはオカンといっしょに買いにいったやつなんだ。こんな使い捨てでじゅうぶんなんだ。』
父の言葉を聞いて、
自分のプレゼントの選択は
間違っていたかもしれないと
申し訳なさで涙を堪えました。
まだ学生の頃、
母が癌で亡くなったのをきっかけに
『もう、独身になったから、
これも外さないと変かな……。』
そういって、
父は薬指の結婚指輪を外しました。
こんなに辛い瞬間は
なかったでしょうね……。
男手一つで、
三人の娘を、
無事学校を卒業させてくれました。
生前母と買いにいったという
安時計の文字盤の無数の傷が、
とても愛おしく思えました。
……新しい腕時計をプレゼントしたけど、
包みは開けないまま、
茶の間のテーブルに置いてあります。
きっと、新しい腕時計は、
そのままになるかもしれません。
それでもいいと、思いました。
ボロボロになった時計でも、
母が買ったものを大切に使っているのなら……
同世代のオジサマ方が、
どんなに立派な時計をしていても
みすぼらしくなった古い時計を
居酒屋でからかわれても、
娘として、
こんなに父を誇らしく
思ったことはありません。
……亡くなってなお、
母は幸せな女性です。