二つの魂(その1) | 創運の算命学士

創運の算命学士

朱学院系算命学の師範、せなです。

まるで3D映画の中に入り込んだようなリアル感と、人の一生を駆け足で垣間見るという面白い体験をしたのですが、翔は決定的に“文才”が欠落していますんで、ほぼ箇条書きでまいります。
ブログ記事と言うよりは、個人的な備忘録と化していますが、あらかじめご容赦ください。


とある地方のお城が燃えております。
城と言っても小さな城です、春日部の城(byクレヨンしんちゃん)くらいな
感じですね。地方の豪族って感じでしょうか。
(クレヨンしんちゃん不明な方は、くさなぎ君&ガッキーのBLLADでおk)




12月12日 三十日月(みそかづき)
 あ~、もはやそんな昔の出来事だったのですね~

炎に焼かれる城の天守閣で鬼装束の女が泣き崩れる

女は、不意に近づいた私に向かって何度も何度も手刀を振り下ろした。

私は避けもせず諭しもせず ただ真直ぐに女の瞳を見つめ、何度も傷を受けた。

焼け崩れた天井の梁が激しく燃えながら天守閣の窓をさえぎる瞬間、

堀の外からこちらを振り返った男が、再び きびすを返し、

田畑の向う広がる林へと走り去った。


キエイイィ、キイィ、ヒィイ

癒しのエネルギーを幾度となく贈ってもすべて女の怒りに吸い取られ

私の体に手刀の傷が刻まれてゆく。 肉体をまとわずに此処にいるとはいえ、

さすがにその痛みと切なさに耐え切れなくなった頃、

「おぬしではない、お主ではないがお前も男じゃ、キエイィ、キイィ

女は、ようやく人の言葉をしゃべり始めた。



「憎んで、いるのですね。」

憎らしや、憎らしや。わらわの純潔を弄んだあやつが、

わらわの心を欺いたあやつが、わらわを置いていかれたあのお方が」


女はこの城の主の娘

琴姫と親しまれ、この地方では名の知れた姫だったという。

親しみやすい物腰と気さくな笑顔、気品と愛嬌で民に慕われた

姫が、鬼へと変化していく

怒り、絶望、哀しみ、苦しみ、

それらの感情を一度に味わう事が、どれほど辛い事か。



城が焼け落ちる前の晩、修羅に落ちようとして姫が呪った男、

それはかつて愛した武将 信輝だった。

「わらわを弄んだ男、真の心を偽り、真の契りを破り、純潔を汚した男」

「殺しても殺しても殺したりぬ、呪い殺してくれる」


鬼の形相で五寸釘を打ち続ける琴姫の瞳の奥底には、

あの日の景色が広がっていた。


いつものようにの泉で村の子供達と遊んでいるところを盗賊に襲われ、

それを助けたのが信輝だった。

信輝は捕らえた盗賊たちに自分の城の城壁を修理させることを命じた。

「琴姫様、お怪我はございませぬか。

物乞いや盗賊は民が貧しているという啓示なのです、

 仕事を与えてやれば彼らも穏やかに生きましょう。」

盗賊に罪でも罰でもなく仕事を与えた信輝に心を奪われたが、

お互いに名乗らず、その場限りの縁となった。



2年後、不意に信輝が現れた。

こたび、琴姫の)お父上に御仕えるする事なりました 信輝でございます。」

武にたけ人望も厚い信輝は、またたくまに城の者達の信頼を集め、

殿の右腕としてその才を発揮し始めた。そんな信輝に惹かれていった琴姫

二人は天守閣の窓から眼下に広がる景色を見ながら 理想の事、未来の事

将来の事 幼き日の事を語り合った。 遠く山の頂には武田の出城が霞み、

その裾野に広がる森には、殿(琴姫の父)が落城させた

つの城跡が残っていた。


森の泉が城下の田畑に豊富な水を運んでいる、

琴姫があの日助けられた泉だ。 琴姫は、二人の心の契りのように 

この景色がいつまでも変わらないと信じて た。


 

鷹狩りで殿が落馬し、そのまま帰らぬ人となった。


琴姫は、これが信輝の企てである事を知ってしまたのだ。

信輝は、琴姫の父に攻め落とされた城の城主であった。

身分を隠して父に下り、自分に近づいてきたのだ。

城を失った信輝がこの城を乗っ取るのだという噂が城内を走ったが、

それに抗うものはいなかった。城内での信輝の人望は厚く、

信輝を大将として従うが我が身の繁栄と考えるものが大半だったのだ。

怒り、悲しみ、恨み、憎しみ、もはや琴姫の憎悪を止める手立てはなかった。



私は、慰めも癒しも拒絶したまま 今まさに鬼に落ちようとしている

琴姫にそっと手を差し伸べた。


「共に、参りましょうぞ。」

二人は、天守閣から見える、

琴姫が永遠に変わる事など無いと信じた景色に身を投げた。


落ちてゆく体が重力から解放された私たちは、体の自由を失った。

人は、重力という制限を利用することで体を動かしていたのだと思い知らされた。

地面に激突すると思い体中が硬直した瞬間、

二人は地を突き抜け 真っ白な空間に浮かんでいた。





ハッとして目を開けると、そこは見慣れたいつもの部屋、

冬の深夜だというのに、暖かく澄んだ空気が私を包んでいる。

それは、確かに琴姫の気配だった。



見とれるほどに美しい姿となった琴姫は私に

「あの方の魂も救っておくれ」 

とだけ言い残し、高貴な余韻を残して天に昇って行った





姫の為に参りましょうぞ!あの日あの時、堀の外から天守閣を振り返ったあの男の元へと。」