さて、超常現象が支配する不可思議な世界において展開される難事件の複雑怪奇な謎を、冷徹な科学の眼で解き明かす事によって因習に支配されし大衆の無知蒙昧を啓蒙しつつ事件の真相を白日の下に晒しあげ、もって法の支配を根幹として構築された近代社会における庶民の安寧を脅かす犯罪者に天誅を下すIQ 220 という驚異の頭脳と巨根を誇る稀代の天才物理学者・上田次郎と、ある時はその十七番目の助手にしてある時は本物の霊能者、そしてその実体は国民的な人気を誇り一見巨乳と見せかけながらもその実貧乳の天才美人マジシャン・山田奈緒子という二人がタッグを組んだ愉快な巨貧コンビの活躍を描いた 『 トリック劇場版 ラスト・ステージ 』 は大絶賛のなか現在も上映中でありますが ( 詳細はこちら から ) 、そんな折りもおり、トリックと同じく謎と不思議を対象としながらも、それを 《 恐怖 》 と 《 ホラー 》 という切り口から取り上げ国民の娯楽として提供してくれている実話系ホラー・コミック雑誌の主要三誌も軒並み発売となった今日この頃のようであります。


 アベノミクスのもたらした見せかけだけの経済復興という虚構のもと、相も変らぬ出版不況にあえぐ昨今であるにも関わらず、実話系ホラー・コミック主要三誌が皆ともに休刊する事もなく定期刊行されたというのははなはだ慶賀のいたりというところでありましょうか。


 それのみならずに今回は、 『 実怖 』 の巻頭に 『 HONKOWA 』 の看板作家とも言うべき山本まゆりさんの実話系ホラー・コミック作品が掲載されるという快挙がありました。


 これまでも 『 あな怖 』 の方では客演的に作品を発表した実績があったまゆりさんではありますが、実話系ホラー・コミック主要三誌のなかでもこの 『 実怖 』 に山本さんの実話系ホラー・コミック作品が掲載されるのはこれがはじめてという事で、これは実に実話系ホラー・コミック業界にとっては画期的な出来事とも言え、この記念すべき出来事を慶賀する意味においても、普段はコンビニ店頭における立ち読みで済ませてしまっている 『 実怖 』 まで思わず購入してしまったのでありました。


 内容的には、去年 ( 2013 年 ) の夏に避暑もかねて蓼科のホテルにおいてネーム作成のカンヅメを行った際にお土産の拾い物をしてしまった、という軽いものでありましたが、今後も山本さんの作品が掲載されるようになってくると、場合によっては 『 実怖 』 も定期的に購入しなければならなくなってしまう可能性が大となり、今から戦々恐々ワクワクとでも言ったところでありましょうか。


 一方、山本さんのホームとも言うべき 『 HONKOWA 』 においては、実話系ホラー・コミック業界では日本最強の霊能力者として知らぬ者とてない実力の持ち主として知られている寺尾玲子さんの活躍を描いた 「 恐怖報告ショック・レポート 」 が掲載されるとともに、実在の玲子さんがこれまた今では実力派の霊能者にまで成長した元・霊感お嬢こと幽霊える子っちゃんさんとともに朝日新聞出版社の 『 HONKOWA 』 編集部、と思われる都内某編集部において “ HONKOWA エンタメ班 ” を自称する流水りんこさんのロング・インタビューを受けるという形で 「 オカルト万華鏡 」 に登場してしまうというゴージャスな内容が展開されています。


 2013 年の12 月某日、ケーキを丸ごとホール喰いした上でなお羊羹一本を恵方喰いにしてしまうとネット上では噂される玲子さんのためか “ 菓子とサンドイッチの山 ” が用意された東京都内のさる場所にひそかに建立されしビルの一室に闇の組織によって呼び出された流水さんは、現代日本最強の霊能力者・寺尾玲子さんと、その忠実な愛弟子にしてる能力においては師匠の玲子さんをも上回るとさえ噂されている天宮視子さんのお二人とともに、ポットで用意されたコーヒーでのどを潤しながら、インタビューへと臨むのでありました。


 この 「 オカ万 」 のインタビューでは、まずは守護霊なるものに対する玲子さんなりの解釈の講説に始まって、玲子さんや視子さんたちがコミックの中で愛用しているアイテムの一つである 《 お数珠 》 に関する話題と、霊障相談のこぼれ話や 《 龍道 》 に関する話題という主に四つのトピックに焦点を当てて全体が構成されていました。


 特に 《 お数珠 》 に関しては、玲子さん曰く “ 流水さん絶対この質問するだろうと思った ” ( 『 HONKOWA 』 2014 年 3 月号 p.167. ) という事で、玲子さんと視っちゃんさんがそれぞれ普段使いしている愛用の 《 お数珠 》 を HONKOWA 編集部までわざわざ持参の上で話を膨らませていただくというサービスぶりで、インタビュアー役のりんこさんの感動ぶりもさることながら、一読者としても興味深くその内容を拝読させていただいたところであります。


 数珠に関しての玲子さんや視っちゃんさんたちの考え方は本誌をご覧いただく事として、より注目すべきなのが、玲子さんたちに視てもらおうとして普段使いしている数珠を二本ばかり持参してきたというりんこさんの言葉でありまして、この際にりんこさん曰く、 “ おふたりみたいなすごいものじゃないんです―ちょっと真言マントラとなえる時のカウンター代わりのもので… ” ( p.170. ) と恐縮しながらエクスキューズしているのでありますが、このシーンを読みながら思わず 『 オイッ! 』 とツッコミを入れてしまったのは一人私だけではないのではないかと思います。


 そもそも、 《 数珠 》 というものは 《 真言を唱える際のカウンター 》 として使うのが本来の用途なわけであって、その本来あるべき使い方をしている者がなぜに恐縮しなければならんのだ、という事がまずはあるのですが、それよりも何より、 “ ちょっと真言マントラとなえる時のカウンター代わり ” ってあなた、何さりげなくカミング・アウト発言なんかしちゃってるんですか…、というあたり、ホントあんたどんだけマニアなんだ…、ともう一度改めて突っ込みたくなってしまう今日この頃なのでもありました。


 流水さんが “ ちょっと真言マントラとなえる ” という際に、いったいどんなマントラを唱えているのか、やはり有名人さんだけに気になるところでもあるのですが、持参した数珠に関して “ 私のはチベット風に飾りをカスタマイズしたなんちゃってお数珠で ” ( p.170. ) とおっしゃっているので、ガヤトリー・マントラのようなヒンディー風なものというよりはおそらくは仏教系の真言をお唱えされているのか、と思うところではあり、やはりバック・パッカー時代にインドに再建されたチベ系寺院あたりで伝授を受けたりしていたのかなぁ、などと有名人さんのプライベートにふと想像を膨らませたりするのもまた楽しいものであります。


 が、この会話の流れの中で何気にスルーされてしまいがちではあるものの、よくよくこの発言について考えてみると、 “ チベット風に飾りをカスタマイズし ” ちゃった“ なんちゃってお数珠 ” なんでほんと大したものじゃないんですよ…、オホホッ…、って、ワレはチベットをなめとんのんかゴルア―、とさらに重ねて再びツッコンでしまわざるを得なくなってしまうわけでもあって、本当に一粒で何度もオイシイ 「 オカ万 」 なのでありました はうー。


 まぁ、そんなツッコミはともかくとして、このロング・インタビューにおいては実はもう一つ重要なカミング・アウト発言というか、実話系ホラー・コミック霊学にとって重要な発言がありまして、それは、 《 龍道 》 という言葉が山本まゆりさんの発案によるものであった ( p.178. ) という事であります。


 もちろん、この言葉の対象となる現象は玲子さんや視っちゃんさんたちに共通して認識されてはいるものの、それに 《 龍道 》 という言葉を与えて概念化したのが山本さんだったという事で、その事は明白に記憶しておくべきところかとも思います。


 今では実話系ホラー・コミックの世界ではごく普通に当たり前のものとして 《 霊道 》 という言葉が使われていて、私は個人的にはこの言葉も山本さんの 『 恐怖報告ショック・レポート 』 において使われた事例が嚆矢なのではないかと推測してはいるものの、それについてはすでに歴史が古すぎて確証を得るには至っていないのですが、 《 龍道 》 に関してはこれでその出自と定義をはっきりとさせる事ができるようで得心するところでもあります。


 そんなこんなで、 『 HONKOWA 』 、 『 実怖 』 、 『 あな怖 』 という、日本を代表する実話系ホラー・コミック主要三誌は、現在そろって書店・コンビニ店頭にて絶賛発売中でありますので、諸氏におかれましては、ぜひ書店・コンビニ等へと走ってのご購入をお勧めいたします。


 なお、当ブログにおいても以前は、主要三誌の中でも特に歴史的にも内容面からも業界のトップ・マガジンと言っても過言ではないと思われる 『 HONKOWA 』 などを取り上げてレビューしたエントリーを作成したりしてもいたのではありますが、それはただでさえ難解な不可視の世界をテーマとした表現を対象としたものである関係から、必然的にそのブログ・エントリーの内容も難解なものとならざるを得ず ( もちろん、難解であるからといって高級なわけではありませんが… ) 、その難解なエントリーがただでさえ長文読解の訓練を受ける機会を奪われたままに、小学生の書いた作文のような天声人語文を高級にして唯一の正しい文体として刷り込まれてしまった亡国のゆとり世代の中に反発を生み、さらには、当ブログにおいて肯定的で好意的な評を献じた実在の霊能力者たちの現実と虚構の区別さえつかなくなってしまったストーカー的なファンの妄嫉までをも招くこととなってしまっている経緯などがあるという現状にも鑑みながら、今回は詳細なレビュー的な内容のエントリーは避けつつ全体にオブリガーティーにまとめてみました。