今日も今日とて哀しい色に覆われた街に切なげに流れる雨音の BGM が、あたかも幻魔の如くに人の心を蝕み菩提心を侵食するかのようではありますが、それでも大丈夫。
雲のはるか彼方では今日も、今この時にも、太陽さんは光り輝き、雲が晴れ、塵埃が払われなばたちどころにその御姿を明らかにされる事でありましょう。
そんなこんなな今日この頃の先日、現在東京は両国にある江戸東京博物館にて好評開催中 ( 2011 年 4 月 29 日 - 7 月 3 日 ) の 《 特別展 五百羅漢 》 についての記事をエントリーするとともに、 ( 記事はこちら から ) 、私も実際に両国まで出向いて五百羅漢様のお姿を拝観させていただいてきましたので、その際に購入してきたお土産の 『 五百蜜柑 』 なる甘美なるスウィーツをご紹介する記事も前回にエントリーさせていただいたわけですが ( 記事はここ から ) 、今日はスウィーツではなく羅漢に関するお話などを若干敷衍しながら、 《 特別展 五百羅漢 》 についての雑感などをエントリーしてみようかと思います。
《 特別展 五百羅漢 》 の会場となる江戸東京博物館は、東京都の役人どもの手前ミソによって極めて使い勝手の悪く建設されてしまった大江戸線両国駅を降りてすぐなのですが、大江戸線は使い勝手が悪すぎるので、できれば JR の両国駅の利用を推奨します ( 大江戸線の方が会場に近いんですけど、ね ) 。
作品数が多すぎるため展示作品のいちいちを紹介しても意味はないとは思うのですが、全体をとおして面白いなと思ったのは羅漢そのものよりも小道具として描かれている経典類の描かれ方で、いわゆる巻物になっているものから和綴じ本、さらにはあきらかにインド式と思しき貝葉本までが描き込まれていたことです。
これは作者の狩野一信がそれらをきちんと取材していたことを推測させるに充分なもので、このようなある意味で写実的ともいえる側面が、五百羅漢という幻想絵画群を脇から支えているようにも思えて大変に面白いと思いました。
また、羅漢が 『 名探偵コナン 』 に登場する怪盗キッドよろしく羅漢の面をベリベリッと剥がすとその下から観音の素顔や不動明王の素顔が顕れてくる・・・、というような描写も面白かっですし、釈迦如来のご尊顔を映しこんだ鏡を手にする羅漢の絵などは、ある意味で一切衆生悉有仏性ということで衆生に対して鏡を示してその衆生の本質が仏そのものに他ならないという事を示してくれているようでもあって、これなどはチベットのニンマ派などにおいて行なわれている師が弟子に心の本質を直接に見せるという導き入れなどを連想させたりもさせてくれて大変に興味深く感じたところでもあります。
今回の特別展のメイン・テーマは、基本的には芝・増上寺に秘蔵されてきた埋もれた幕末の狩野派の絵師・狩野一信の筆になる百幅の五百羅漢画なのではありますが、実際の展示作品の中にはそれ以外にも、狩野一信の作という共通項からいくつかの作品が展示されていて、その中には成田山新勝寺さんが所蔵する壁画として描かれたものを壁から外した 『 釈迦文殊普賢四天王十大弟子図 』 や五百羅漢よりはもう少しこじんまりとしたユニットである 『 十六羅漢図 ( 双幅 ) 』 などもありました。
上の画像は 《 特別展 五百羅漢 》 の図録からのものでニ幅一対として描かれた十六羅漢の内の一幅で八羅漢が描かれたものなのですが、この絵の中央に描かれているのがおそらくは、
以前の記事でも少し触れた事かと思いますが、この十六羅漢というユニットは唐の玄奘三蔵訳による 『
今回の展覧会はタイトルの通りに五百の羅漢をテーマとしたものなのですが、チベットではどちらかというともうちょっとこじんまりとしたユニットである十六羅漢の方がホピュラーなようで、チベットでは日本や漢土のように五百羅漢などという巨大ユニットの考え方はなく ( せいぜい十六羅漢に従者がつく程度のようです ) 、チベット仏教の周辺で五百羅漢というワードを目にし耳にする事はあまりないように思えます。
また、チベットの十六羅漢は漢土における十六羅漢の影響を受けているという事のようでもありまして、上に貼った十六羅漢の画像中央の羅漢 ( おそらくは諾距羅尊者 ) がその左手側に従えている何やら毛むくじゃらな猫虎のような怪獣が、チベットにいくとマングースなどに変容したりするというお話などは目にし耳にした事があります。
一方の中国や日本などではこの五百羅漢というものがかなり普及していて、日本各地でも様々な五百羅漢の造像例が見られるようでもあり、五百体の羅漢像や図像 ( 絵 ) というものは圧巻でパワフルではあるわけなのではありますが、私たちの日常的な信仰の対象としてはやや焦点がボケてしまいかねず、十六羅漢でも数が多すぎるのではないかとも思えるほどではあるかもしれません。
まぁ、いずれにしろ、そんなこんなで絶賛公開中の 《 特別展 五百羅漢 》 なわけではありまして、会場では様々な関連グッズなども販売しているわけなのではありますが、それらはひとまずおいといて、とりあえずは図録を購入しました。
ただ、今回の展覧会の監修の方が仏教の専門家ではないようで ( おそらくは美術系の学者先生なのでしょうか? ) 、各画に対する解説がやや突っ込み足らずになっているのが惜しまれるところではあるようであります ( まぁ、あくまでも図録ですので、綺麗な図が掲載されている事が最重要事なわけですが ) 。
また、この図録の体裁は一応ハードカバー仕様という事のようなのではありますが、何やらペラペラなハードカバーで、さすが石原都政下にあるだけの事はあるようで原材料費を節約しながらも高価な値段設定で利益率の向上に励んでいるようであります。
まぁ、不況下の現今、その原材料費のケチり方や値段設定に関してはやむを得ない側面もあるものの、今時のミュージアム・ショップでクレジット・カードも使えないというのも如何なものでしょうか ( 厳密には、 「 購入金額が一万円を越える場合 」 にはクレジット・カードの使用を認める・・・、という事のようなのですが、上の図録が \ 2,300- 円で、それ以外に若干のグッズを購入しても現今のワープア層ならばほぼ一万円以下に納めざるを得ないのではないでしょうか ? ) 。
クレジット・カードを使われると売り上げをごまかしにくい・・・、という裏事情でもあるのでしょうかね。
なんとも生き難い世の中であります。
・・・、という事で、他にもポスト・カードや根付けストラップに T シャツ等々、様々なグッズもあったわけなのですが、とりあえず図録 ( と前回の記事でご紹介した五百蜜柑 ) だけを購入して会場を後にしたのでありました。