東京のベッドタウン ( ・・・、て、今でも言いますかね? ) 町田市にある町田市立国際版画美術館にて、ただ今 『 救いのほとけ  観音と地蔵の美術 ― 』 展が開催中のようであります。



 この企画展は、仏教のパンテオンに諸仏諸菩薩が数ある中でも日本において、特に民間でも篤く信仰されている観音菩薩地蔵菩薩のニ尊に焦点を絞った企画展のようでありながらも、主催が町田市立国際 【 版画 】 美術館というだけあって、 《 観音と地蔵の姿をあらわした版画、それらの版画を内部の空間に納めた仏像、関連の深い仏画など重要文化財 15 点を含む平安時代から江戸時代までの約 120 点をご紹介し、 「 救い 」 をテーマとする仏教美術の醍醐味を味わっていただく 》 という形で、仏像などの胎内に納入される 《 印仏 》 と呼ばれる 【 版画 】 作品 ( ぶっちゃけると、仏画のスタンプ、です ) をメインとしつつ、それらに関連する様々な仏像や典籍も同時に展示しちゃいましょう・・・、という趣旨の展覧会であるようであります。


 よく新聞のニュースなどでも、由緒ある古い仏像を学術調査と称して解体してみたらその胎内からこんなのが発見されました・・・、などという記事が報道されている事があったりもするので、一般に仏像を作製する際に、開眼の作法も含めて仏像の胎内に俗に胎内仏などと呼ばれる小さな仏像や経典などを納めたりする伝統がある事はよく知られているかとも思いますが、そういった仏像の胎内納入物の一つとして印仏と呼ばれるものもあるという事ですね。


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仏像の胎内に納められていた胎内仏
( 展示会パンフレット裏面左上のアップ )

 表現媒体としてはそんな印仏を中心としながらも、テーマとしては観音地蔵というニ大菩薩による救いというものに焦点を絞った展示になってもいるようなのですが、観音地蔵と言ったら、日本仏教を代表するニ大菩薩とでもいえるほどにポピュラーなものではありながらも、残念な事に一般の方の中には地蔵菩薩に対してはなんか 「 水子供養のホトケさま・・・ 」 的な捉え方をしている方などが、一部の新興宗教の影響からかおられるようでもあり、この展示会がそんな世間の謬見を改める機会となれば良いかな、かな、などと密かに思ったりしていたりいなかったりもしている今日この頃だったりもするようであります。


 展示作品は前期と後期によって若干の入れ替えがあるようで、現在はすでに後期に入ってしまっているので前期展示作品はもう拝観覧する事は出来ないようなのが少し残念ではあるものの、それでも後期展示作品にもなかなか興味深いものがあるようでもあって、まずはとりあえず、 《 プロローグ 印仏の広まり 》 コーナーにおいては、京都・仁和寺所蔵の七倶胝仏母曼荼羅 ( 『 唐本曼荼羅図 』 ) が拝観者をお出迎えしてくださり、それに続いて、 『 三千仏名経 』 が展示されています。


 『 三千仏名経 』 というのは、ある意味において仏教業界の宇宙論に基づいた経典であるとも言えるものになるのかとも思います。


 仏教の業界では一つの世界 ( これをカルパなどと呼んでいます ) が生まれ成長 した上で、やがて衰退し滅亡してゆく一つのサイクルの中に千躰のホトケ様が出世されるという考え方がありまして、その考え方に基づいた上で、過去・現在・未来の三世に出世なされる三千のホトケ様 ( 過去と未来には一つではなくそれぞれ無数の劫があるのですが、 それらはそれぞれ一つに纏めて扱っています、でないと∞にはお名前を呼べませんし・・・ ) たちのお名前を読み上げるために編纂されたお経で、いにしえの日本においては、このお経に従って延々とホトケ様たちのお名前を読み上げる 《 仏名会 》 という儀式・法要が行われていた、と伝えられています。


 チベットにもこの経典は伝えられているものの、現在のチベットでもさすがに 『 三千仏名経 』 を読誦する 《 仏名会 》 まではやらないとは思われ、その名残りといってなんですがチベット仏教の特にゲールグ派などにおいては 『 三十五仏名礼讃文 ( 決定毘尼経 ) 』 などを用いた懺法などが比較的盛んに実践されているというお話などが、常識としては伝えられているところではあります ( 外人向けの講習会は別でしょうけど、ね・・・ ) 。


 今回の展示では基本的には印仏作品が中心となってはいるものの、それ以外にも多様な文化遺産が展示されていて上にアップした写真のような胎内仏や 『 般若心経 』 ( 当然これも仏像の胎内に納められていたものになります )、あるいは、これは別に仏像の胎内に納められていたわけではないものの両界曼荼羅や当麻曼荼羅などのような大作も展示されていたりしますし、さらにはアタナシウス・キルヒャー ( Athanasius Kircher ) の 『 チャイナ図説 ( China Illustrata ) 』 ( へたに支那図説なんていったら殺されちゃうかもしれないので気をつけましょうね ) などが展示されていたりしたのがちょっと変わっていて面白いかもしれません ( ここ とか こちら なんかもご参考まで・・・ )。


 また、多くの展示作品に混ざって 『 仏説地蔵菩薩発心因縁十王経 』 などといういわゆる本邦撰述の疑経の一つが展示されたりしてもいます。


 この 『 仏説地蔵菩薩発心因縁十王経 』 がひとつの典拠となって、現在ではよく知られている 《 十三仏 》 思想というか 《 ユニット十三仏 》 というものが発想されたわけでもあり、これは今に生きる私たち多くの日本人にとっても意外と大切な経典であったりしてもいるわけで、 《 十三仏 》 の掛け軸や版木なども展示されていたりもしています。


 まぁ、今の若い方々の中にはいきなり 《 十三仏 》 といわれてもピンとこないような方もいるのかも知れませんが、新聞広告などでは美術作品としてこの 《 十三仏 》 を一幅に纏めた掛け軸の通信販売広告が今でも掲載される事がしばしばありますし、伝統宗派の中では特に真言宗などの在家用の勤行経典には必ずこの十三仏の真言が掲載されていますので、知らなかったなんて方はぜひダイソーにでも行って百均の勤行教典でも購入して中身を御覧になってみて下さいませ。


  『 救いのほとけ  観音と地蔵の美術 ― 』 展においては、十三仏の掛け軸も展示されているわけですから、ダイソー謹製の真言宗在家勤行教典片手に近代的な美術館で御仏のお姿を拝観させていただきながら、そのお加持をいただくなどというのもなかなか乙なものなのではないかな、かな、などとも思う今日この頃なのでもありまして、そんな 『 救いのほとけ - 観音と地蔵の美術 - 』 展は、下記要領にて絶賛開催中だったりしているわけですね。



会場 町田市立国際版画美術館
2 F 企画展示室 1・2
会期 2010 年 10 月 9 日 ( 土 )

2010 年 11 月 23 日( 火)
開館時間

平日:

午前 10 時 ~ 午後 5 時

( 入館は 16:30 まで )
土・日・祝日:

午前 10 時 ~ 午後 5 時 30 分

( 入館は 17:00 まで )

休館日 月曜日
但し、10 月 11 日 (月・祝日)は開館、
翌 12 日 ( 火 )は休館
観覧料 一般 1000 円、
高校・大学生 700 円、
65 歳以上 500 円、
中学生以下は無料 ※展覧会初日 10 月 9 日( 土 )、
11 月 3 日 (水、文化の日 )は無料
問い合わせ先
部課名 文化スポーツ振興部 国際版画美術館
連絡先 電話 042 - 726 - 2771
アクセス 町田市立国際版画美術館
東京都町田市原町田 4- 28-1
アクセス-1アクセス-2

 町田と言えば都心の新宿から、私鉄小田急線の急行で約 40 分ほどのところですので、お暇の折りにはぜひ皆様も一度足を運ばれてみては如何でしょうか。


 展示作品を拝観し終わったら、出口のところでは実際のプチ印仏がお土産として用意されていたりもします。


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お土産のプチ印仏
( ぶっちゃけ、記念スタンプ、です )

 ・・・、ただ、惜しむらくは、展示会の図録が 《 2,500 円 》 と、かなり高額に設定されているのが、横浜の天狗展の図録が比較的に低額だったのを体験した直後だけに、ちょっと残念ではありました。


ドワンのブログ@アメーバ-救いのほとけ図録
『 救いのほとけ 』 図録

 せめて、 2,000 円以内に納めて欲しかった、です。


 しばらくは水をすすりながら三食卵かけゴハンではかない命を繋ぐ極貧ライフ ( 叫び ) を覚悟して購入してしまいましたけどね。


 図録の価格以外は非常によくできた展覧会になっていて、しかも、都心でもなくそれほど有名なわけでもないせいか、展示作品の質の高さの割りに比較的に空いていてゆったりとしたスペースで落ち着いて拝観することができるかと思います。


  展示スペースに関しては、横浜の天狗展がややタイトなスペースだったのに比較してこちらは広々とした開放的な感じではありました ( もちろん。それは物理的な制約の問題ではありますが ) 。


 ちなみに、同美術館は地域住民の憩いの場的な感じの芹が谷公園に隣接していて、その芹が谷公園にある虹と水の広場というのがちょっと面白い形になっていて、水のマイナス・イオンで癒されたりするのにちょうど良い感じでありました ( 写真があればよかったんですけど、カメラは持ってなかったので、実際に足を運んで見てください ) 。


 文化と信仰の香りに包まれながら穏やかな気持ちで過ごした、そんなささやかな週末のひと時でありました。