今回は、日本の食文化について、小山和伸氏(神奈川大学経済学部教授)の著書『救国の戦略』より、一部を引用します。
■食文化に見る日本人の叡智
数年前O・157による食中毒が、児童を中心に蔓延して大騒ぎになったことがる。あの時、問題のO・157の繁殖を抑制する食品の研究が進められた。まだ記憶に新しいが、抑制効果に特効があったのは、緑茶とヨーグルトであった。この時、鮨屋であれほど大きな湯飲みで、濃いめの緑茶が出されることの意味がはっきりと分かった。そこには、魚の生食を好む日本人の叡智が脈々と息づいてゐたのである。
鮨の話が出たところで、生魚を常食する日本人の知恵について少し検討してみよう。刺身のつまとして必ず付いてくる大根、内臓を食べる秋刀魚に付き物の大根おろしだが、大根には魚類の食あたりの防止に特効のあることが知られてゐる。昔から下手な役者を「大根役者」などと言ふのも、大根を食べると生魚にあたらないことから、興行の当たらない役者をかう呼んだのだと言ふ。
■食文化に見る日本人の叡智
数年前O・157による食中毒が、児童を中心に蔓延して大騒ぎになったことがる。あの時、問題のO・157の繁殖を抑制する食品の研究が進められた。まだ記憶に新しいが、抑制効果に特効があったのは、緑茶とヨーグルトであった。この時、鮨屋であれほど大きな湯飲みで、濃いめの緑茶が出されることの意味がはっきりと分かった。そこには、魚の生食を好む日本人の叡智が脈々と息づいてゐたのである。
鮨の話が出たところで、生魚を常食する日本人の知恵について少し検討してみよう。刺身のつまとして必ず付いてくる大根、内臓を食べる秋刀魚に付き物の大根おろしだが、大根には魚類の食あたりの防止に特効のあることが知られてゐる。昔から下手な役者を「大根役者」などと言ふのも、大根を食べると生魚にあたらないことから、興行の当たらない役者をかう呼んだのだと言ふ。
その他、笹や柿の葉は生魚の腐敗を抑制すると共に、魚が鮮度を失ひ始めると魚肉に接触した笹や柿の葉が逸早く黒ずんで変色し、食するに適さないことを教へてくれる。さらに最近の研究によって、笹の葉には胃壁内の「ヘリコバクター・ピロリ菌」の除菌にも、抗生物質より遥かに優る特効的効果があることが明らかになった。ピロリ菌は、日本人の約五〇パーセントに感染しており、胃潰瘍や胃癌の原因とされてゐる。五〇パーセントもの感染を許した背景には、日本特有の植物である笹を用ゐた、日本古来の知恵が蔑ろにされてきた現実があるのではなからうか。
鮨の上には、繊細な透かし細工の施された笹の葉が載せられてゐる。現代科学を駆使した研究によって、単なる飾り物ではなかった笹の葉を通して、古来の叡智が透徹されゆくのと引き替へに、却って笹がビニールというふ化学物質で代用されるやうになってゐるのは、誠に文明の皮肉と言ふより他はない。斯くして、奈良に古代から伝はる柿の葉鮨や笹鮨の科学的合理性も、今あらためて明らかになりつつある。
刺身に付き物の、山葵(わさび)や生姜(しゃうが)の殺菌効果、また醤油の殺菌効果も既に知られてゐる。さらに、酢の防腐効果も周知のところである。酢には生魚の寄生虫を弱らせる働きもある。生きた寄生虫を酢に漬ける実験の結果、酢の中で魚の寄生虫は数時間経っても死ななかったといふ報告がある。しかしこの結果報告だけで、酢の効能を否定することはできない。むしろ、酢に漬けられた寄生虫が間もなく死んだとしたら、酢は毒性の強い食品ということになるであらう。そんな毒が人体に良いはずがない。酢は、醤油や山葵や緑茶、そして胃酸との総合的作用のうちに、寄生虫をやうやく殺すに違ひない。このやうやくと言ふところが肝腎である。ぎりぎり必要十分な殺菌効果によって、人体にダメージを与へることなく、害虫駆除をやり遂げてゐるからである。
さて、O・157の抑制に効果の高かったヨーグルトは、日本古来のものではないが、乳酸菌は伝統的な日本食にとって馴染みの深いものである。京都の鮒鮨(ふなずし)など熟鮨(なれずし)の類はその例だが、より一般的には糠(ぬか)漬けは乳酸菌の宝庫と言って良い。この乳酸菌活用の事実からも、古来日本の食文化の叡智を窺(うかが)ひ知ることができる。
以上のような諸々の素材がセットとなって、例えば刺身や鮨といった食文化が形成されてゐる。
(引用終わり)
長い歴史を持つ日本で、現代まで伝えられてきた伝統文化には、食文化一つをとってみても、このようにご先祖の深い叡智が込められています。ですから、伝統文化に学び、それを守ることで、私たちも守られるのです。
しかし、日本人は大東亜戦争 (太平洋戦争)での敗戦によるショックと、GHQの占領政策により、「一億層総懺悔」をやって、民族のこれまでの過去(歴史)を否定してしまいました。
それにより、それまで伝えられてきた伝統文化も、アメリカなど西欧に比べて劣等であり、非合理で不便なものと思い込むようになりました。
その結果、伝統文化が伝えられず、廃れてしまい、現在の日本の憂うべき状況を生み出したのではないでしょうか。
このことで特に影響を受けたのが、家庭での「子育て」です。
子育てとは、ご先祖からの授かりものである子供を、立派な日本人に育てることです。代々受け継がれてきた日本語、節句、お伽話、人との付き合い方など、日本の伝統文化を子供に伝えること、つまり継承してもらうことです。
ところが、過去を否定し、伝統文化も劣等なものとしてしまったら、子供に伝えるべきものがなくなってしまいます。それが為に現在の子育てはその目的を見失い、混乱してるように思います。
この状況が続けば、やがて日本文化は消滅してしまい、日本という国家は生命力を失い、終焉を迎えることになるのではなるのではと危惧されます。
私たち日本人が今やらばければならないことは、民族の過去を否定してきた戦後の価値観から脱却することだと思います。
私たちは、ご先祖から続く生命の連続性を持った存在であり、そのご先祖の過去を崇敬し、相続し、それを子孫へ受け渡していく責務があります。そうして初めて、国家は未来へと存続する生命力を得るのです。
駐日フランス大使を務めたポール・クローデルが、昭和十八年、日本の敗戦が濃厚となっていた頃に述べた言葉があります。
「私が決して滅ぼされることのないように希(ねが)う一つの民族がある。それは日本身族だ。(中略)彼らは貧乏だが、しかし彼らは高貴だ」
戦後、否定された過去において、ご先祖は、外国人も称賛する「高貴な精神」を持っていたのです。
このご先祖の美風を継承しようと私たちが努め、家庭での子育てにおいても、こうした美風や伝統文化をしっかりと伝えていけば、日本人は誇りと魂を取り戻し、現在直面している様々な問題も解決に向かうのではと思います。
■引用著書
鮨の上には、繊細な透かし細工の施された笹の葉が載せられてゐる。現代科学を駆使した研究によって、単なる飾り物ではなかった笹の葉を通して、古来の叡智が透徹されゆくのと引き替へに、却って笹がビニールというふ化学物質で代用されるやうになってゐるのは、誠に文明の皮肉と言ふより他はない。斯くして、奈良に古代から伝はる柿の葉鮨や笹鮨の科学的合理性も、今あらためて明らかになりつつある。
刺身に付き物の、山葵(わさび)や生姜(しゃうが)の殺菌効果、また醤油の殺菌効果も既に知られてゐる。さらに、酢の防腐効果も周知のところである。酢には生魚の寄生虫を弱らせる働きもある。生きた寄生虫を酢に漬ける実験の結果、酢の中で魚の寄生虫は数時間経っても死ななかったといふ報告がある。しかしこの結果報告だけで、酢の効能を否定することはできない。むしろ、酢に漬けられた寄生虫が間もなく死んだとしたら、酢は毒性の強い食品ということになるであらう。そんな毒が人体に良いはずがない。酢は、醤油や山葵や緑茶、そして胃酸との総合的作用のうちに、寄生虫をやうやく殺すに違ひない。このやうやくと言ふところが肝腎である。ぎりぎり必要十分な殺菌効果によって、人体にダメージを与へることなく、害虫駆除をやり遂げてゐるからである。
さて、O・157の抑制に効果の高かったヨーグルトは、日本古来のものではないが、乳酸菌は伝統的な日本食にとって馴染みの深いものである。京都の鮒鮨(ふなずし)など熟鮨(なれずし)の類はその例だが、より一般的には糠(ぬか)漬けは乳酸菌の宝庫と言って良い。この乳酸菌活用の事実からも、古来日本の食文化の叡智を窺(うかが)ひ知ることができる。
以上のような諸々の素材がセットとなって、例えば刺身や鮨といった食文化が形成されてゐる。
(引用終わり)
長い歴史を持つ日本で、現代まで伝えられてきた伝統文化には、食文化一つをとってみても、このようにご先祖の深い叡智が込められています。ですから、伝統文化に学び、それを守ることで、私たちも守られるのです。
しかし、日本人は大東亜戦争 (太平洋戦争)での敗戦によるショックと、GHQの占領政策により、「一億層総懺悔」をやって、民族のこれまでの過去(歴史)を否定してしまいました。
それにより、それまで伝えられてきた伝統文化も、アメリカなど西欧に比べて劣等であり、非合理で不便なものと思い込むようになりました。
その結果、伝統文化が伝えられず、廃れてしまい、現在の日本の憂うべき状況を生み出したのではないでしょうか。
このことで特に影響を受けたのが、家庭での「子育て」です。
子育てとは、ご先祖からの授かりものである子供を、立派な日本人に育てることです。代々受け継がれてきた日本語、節句、お伽話、人との付き合い方など、日本の伝統文化を子供に伝えること、つまり継承してもらうことです。
ところが、過去を否定し、伝統文化も劣等なものとしてしまったら、子供に伝えるべきものがなくなってしまいます。それが為に現在の子育てはその目的を見失い、混乱してるように思います。
この状況が続けば、やがて日本文化は消滅してしまい、日本という国家は生命力を失い、終焉を迎えることになるのではなるのではと危惧されます。
私たち日本人が今やらばければならないことは、民族の過去を否定してきた戦後の価値観から脱却することだと思います。
私たちは、ご先祖から続く生命の連続性を持った存在であり、そのご先祖の過去を崇敬し、相続し、それを子孫へ受け渡していく責務があります。そうして初めて、国家は未来へと存続する生命力を得るのです。
駐日フランス大使を務めたポール・クローデルが、昭和十八年、日本の敗戦が濃厚となっていた頃に述べた言葉があります。
「私が決して滅ぼされることのないように希(ねが)う一つの民族がある。それは日本身族だ。(中略)彼らは貧乏だが、しかし彼らは高貴だ」
戦後、否定された過去において、ご先祖は、外国人も称賛する「高貴な精神」を持っていたのです。
このご先祖の美風を継承しようと私たちが努め、家庭での子育てにおいても、こうした美風や伝統文化をしっかりと伝えていけば、日本人は誇りと魂を取り戻し、現在直面している様々な問題も解決に向かうのではと思います。
■引用著書
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救国の戦略
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