■平沼赳夫氏インタビュー(週刊新潮9/1)
櫻井 まず、選挙の争点は郵政だけでよろしいのかどうか。
平沼 郵政民営化は、政策の優先順位からいっても、それほど 高くない。やはり、私がずっと政治家としてやってきた憲法改正問題とか、教育基本法、拉致問題、経済の活性化と財政再建、年金、介護など、幅広く訴えていかなければならない。本当に日本の改革を考えるのなら、この総選挙を単に郵政改革を問うものにしてしまうのは非常にもったいない。
櫻井 小泉首相は郵政民営化か否かこそが問われていると言います。民営化反対の理由は何ですか。
平沼 私が郵政民営化法案に反対した理由は、法案の内容が4割、残り6割は強引な手法、やり方に対してです。結党50年を迎える自民党で、小泉首相のこのような手法がまかり通っていいのか、警鐘を乱打する思いで青票(反対票)を投じました。
衆議院は5票差で可決されました。その差は3人でひっくり返る数字です。投票の前夜、郵政法案の反対派が赤坂で会合を開きました。綿貫さんはもちろん私も亀井氏もいました。テレビカメラがたくさん来てるから、それは報道されますね。そこに、執行部の読み筋に入ってなかった1年生議員が3人いた。
櫻井 ひっくり返った3人ですね。
平沼 彼らには明け方から午前中にかけて、恐らく凄い圧力、恫喝があったと思います。投票日、彼らは賛成の白札を持って立っていきました。その3票で可決へと逆転したわけです。そのときの小泉さんの表情を、私は気持ち悪い笑いと感じました。そこまで追い込まれていた焦りと、今後反対派を徹底的に排除しなきゃいけない、と思った表情じゃないかと受け止めました。
櫻井 小泉流決意の笑顔?
平沼 自分の意見に反対したら、全部抹殺して、イエスマンだけで周りを固めてしまう。政党の執行部三役は、総理総裁が暴走したら、身をもって軌道修正させるのが役目の一つです。
そうした動きもなく、この延長1線上で展開される政治には非常な危険を感じます。新しい自民党は極めて奇怪な党になるんじゃないかと。
櫻井 小泉首相が、「自分は殺されてもいいという思いでやった」と8月8日に演説しました。あれは非常に巧みな演出だったという感じがします。
平沼 選挙区(岡山三区)に帰ったら、私を熱烈に支持してくれていたチャキチャキの自民党系の女性が小泉さんに酔っている。「あなたは小泉さんを苛めている、失望した」と。テレビの時代ですから、ああいったセリフで呪縛にかけられてしまう。でも、こっちは催眠術師じゃないから、呪縛は解けないわけです。そういった意味で小泉さんには天才的なところがある。でも私は断言します。彼のやり方は真っ当ではない。
櫻井 過半数を割ったら退陣するとも言っていました。
平沼 小泉首相は保険を二つも掛けています。解散前だって自民党は単独で過半数があるにもかかわらず、公明党と合わせて過半数を切ったら退陣するという。政権を担っている政党の党首なら、単独で241議席というハードルを自らに課すべきです。それからもう一つ、我々、反対の青札を投じた37人だけを狙い撃ちして、棄権・欠席した14人は始末書だけで公認した。37人じゃなくて51人という形で反対陣営のパイを大きくすると、自分の延命が難しくなるからですよ。小泉さんを「潔い」と言う人もいますが、それはレトリックに秀でているだけ。むしろ二重の保険のかけ方を見れば、潔くない、男らしくないと、私は思います。
櫻井 造反組はもっと攻めの姿勢を見せない限り、劣勢になってしまうと思います。そこはいかがですか。
平沼 攻め過ぎると墓穴を掘る可能性もある。小泉さんがかつての仲間に対立候補を出してくる手法は、決して感心できない。目には目、歯には歯という攻め方ではなく、彼のやっていることがいかに危ういものか、将来大変大きな禍根を残しかねないと、正攻法で説くことが、私の側の攻めとしては一番の基軸だと思います。
櫻井 正々堂々の姿勢が平沼さんには最もふさわしい。
平沼 例えば、小泉さんの選挙区に横田早紀江さんをぶつけるとかすれば、小泉さんだって足下が揺らぐ。魅力があって話しも上手い早紀江さんが、小泉さんが非情な人だ、郵政に命を賭けると言うけれども、本当に悲惨な拉致被害者、めぐみさんはじめ多くの日本人のためには命を賭けてくれないと訴えればすごいインパクトにはなるでしょう。しかし、我々はあくまでも正攻法で、決して萎縮せず堂々と戦いたいと思います。
櫻井 平沼さんは国民新党には参加しないのですか。
平沼 当初、新党を作ろうと提案したのは私なんです。「真に正しい自民党」という名前でいこうじゃないかと提案したんですがその時はみんな乗ってこなかった。そして私も考えました。自民党がイエスマンばかりになったら、例えば人権擁護法案一つとっても、国民に本当に大きな迷惑をかけることになると。自民党を真っ当な党に戻すことが最も必要で、そのためには新党ではなく無所属で闘おうと決意したのです。
櫻井 「刺客」候補の顔ぶれを見て、どうお考えですか。
平沼 比例で票を取ろうという思惑が見え隠れしている。女性の公認が多いのは結構ですが、政策や理念で候補者を選んでいないという気がします。知名度はあるけど、政治に目的意識を持って、しっかりしたビジョンを持った人は余りいないのではないかと。
櫻井 具体的には
平沼 例えば、小池百合子さんはこれまで4回選挙をしていますが全部政党が違う。最初は日本新党、次に新進党、保守党そして自民党です。静岡7区に出馬する片山さつきさんは、財務省出身で防衛予算を大幅に削ろうとした人です。中国の脅威が増大する今、日本はむしろ防衛力を増大しなければならないのに、それを理解せず、大幅に削ろうとしたのが彼女でしたね。浜松には大きな基地があり、自衛隊票が大きな意味を持っている。武部君はそこまで配慮しているのかなぁ。党執行部で良識派の与謝野さんかが、そういうことを体を張って阻止する雰囲気が出てこないのが残念です。
櫻井 平沼さんが自民党から離れると、人権擁護法案はどうなりますか。与謝野さんは反対派の要求は全部容れたと言っていましたが。
平沼 我々が反対しいてるのは、人権侵害の定義が曖昧であること、人権侵害を調査する委員の選任に外国人を制限する国籍条項がないこと、人権擁護委員会の権限が強大過ぎることです。これではかえって人権侵害になりかねない。だから絶対改めるべしと言ってきた。そこを譲らないのですから、どうしようもない。彼が譲ったと言っても、我々には譲歩するとの提案は全くありません。
櫻井 古賀誠氏は郵政民営化に反対でありながら、ちゃっかり自民党に残りました。選挙後には彼はこの悪法の人権擁護法案を強力に推進するでしょうね。ところで、平沼さんは小泉首相と違って8月15日に靖国に参拝なさいました。
平沼 今回、彼は郵政に焦点を当てるために靖国神社に行かなかったけれども、国民は本当は参拝して欲しいと願っている。そこがわからないのが、あの人の限界です。むしろ、8月15日にお参りされると、無所属で出る我々はやりにくいなと思っていたんです。
櫻井 参拝したら、小泉首相の支持率はもっと上がっていたと思いますか。今、日本で求められているのは、本当の意味の、しっかりした保守だと思いますか。
平沼 まさにそうです。靖国の境内に大きなテントが張ってあって、そこで「靖国神社に8月15日にお参りをすると言ったのは誰だこれは第一の公約じゃないか。郵政民営化を第一にして、靖国にお参りせずに解散するのは筋が通らない」と演説したら大拍手を頂きました。若い連中が私のところに寄ってきて小泉に負けるなとか、すごい熱気で激励して頂き感激しました。その中にちょっと小奇麗な中年の婦人が握手を求めてきて、「小泉さんと二人で日本を良くして下さい」って。困っちゃうんですけどね。(笑)
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