今年も桜が咲いてます。


 父が亡くなって、もうすぐ4ヶ月になります。



 父は、一昨年の11月に舌がんで舌と咽頭全摘の手術を九州大学病院で受けました。



 家族や親戚に見送られながら、緑色の病院服を着て、笑顔で手を振って手術室に入って行った姿を今でも覚えています。



 病院服の裾から出た足は、とても細く痩せていました。



 まだ、手術前、病院に入院する前に、父が私に言い残していた言葉がありました。


 

 もしかしたら、父は手術した後、もう二度と実家には元気な姿で帰って来れないかも知れないということを感じていたのかも知れません。



 入院前、私と父が実家の居間で、二人になった時のことです。



 父は私に、



 もし、今度の手術が成功しても、もう言葉を話すことは出来ない。

 ◎◎(孫)に、おめでとうの一言も言ってあげられない。

 最悪、◎◎が医師になるまで、生きていられるかもわからない。

 もし、最悪の時は、自分はもういないかも知れないけれども、再来年、◎◎が国家試験に合格した時には、自分の名前でお祝いを渡してくれ。



と言ったのです。



 その時、私は、



 絶対に、また帰って来れるから、そんなこと言わんでよか



と言いました。



 私は、父親はまた必ず元気になって帰ってこれると信じていたからです。



 しかし、現実には、父は昨年亡くなり、実家に帰ってくることはありませんでした。 



 今日、私は、父との約束どおり、父親の名前を書いて、父が用意してくれていたお金をご祝儀袋に入れて準備しました。



 父の遺影を置いた実家の仏壇に手を合わせながら、


 

 ありがとね。今日、渡しとくから

 天国でずっと見守っていてね



と父に語り掛けました。



 そして、息子の引っ越したばかりのマンションに向かい



 じいちゃんからの合格祝いやけん

 感謝してもらっとき



と言って息子に、ご祝儀袋を無事に渡しました。



 ありがとうと言って、息子は、今は亡き私の父親の名前が書かれたそのご祝儀を受けとりました。



 私は、少し目頭が熱くなっていましたが、どうにか涙はこらえました。



 父は、私を通して、孫に合格祝いを渡すことができました。



 生きて、医師になった孫の姿を見たかっだろう私の父親。



 今日、ご祝儀を孫に渡せて、天国で喜んでいると思います。



 人には、それぞれ人生があり、いい時もあれば、悪いときもあります。



 一昨年から今まで、家族や私にとっては辛いことが続きました。



 しかし、今年、息子が無事に国家試験に合格してくれて、医籍登録も無事に済み、久しぶりに心から喜ばせてもらいました。



 息子にとっては、医師としての人生の第一歩を踏みだしたに過ぎないのだろうけれども、これから辛いことも多いと思うけれども、色んな人に感謝して、自分の能力を十分に発揮して、同僚や患者さんから信頼される医師になって欲しいと思っています。



 きっと、なってくれると信じています。



 健康第一で頑張って欲しいと思います。