『草間彌生の全力疾走』 | 転妻よしこの道楽日記

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昨夜、NHKスペシャルで草間彌生を特集していた。
いつものように私はテレビを観る気など無かったのだが、
放送が終わった途端、私がゴロ寝している和室に主人が来て、
草間彌生を熱く語り、録画もしてあるというので、
それからやおら起きて、主人の部屋に行って、観た。
なるほど、草間彌生の凄まじさを描いた、強烈な番組だった(汗)。

水玉の女王 草間彌生の全力疾走(NHKスペシャル)
『派手な水玉の服にピンクのカツラがトレードマークの前衛芸術家・草間彌生83歳。最近のオークションでは、現役女性アーティストとして世界最高の6億近い値がつくなど、いまや世界的名声を誇る随一の日本人芸術家だ。』『今年は、草間にとっていまだかつてなく多忙な年。ロンドンの美術の殿堂テイト・モダンでは、アジア人としては初の個展が開催され、フランス、ニューヨークへと巡回。また高級ファッションブランド、ルイ・ヴィトンとのコラボで、5大陸450店舗で草間の水玉をあしらった商品が展開。店頭にはハリウッド製の草間等身大人形も登場している。』『世界中でフラッシュを浴び続ける83歳。その脚光の影で、己の抱える病と闘いながら地道で精力的な制作活動を続ける彼女の全力疾走をカメラが追う。<ナレーター>吹石一恵さん』

草間彌生については、以前この日記でも書いたが、
ここ数年、凄い勢いで彼女が世界で注目されるようになってきた、
という印象が、私にはあった。
以前から有名な人ではあったが、最近、特に欧米での彼女の評価が、
これまでにもまして急激に高まり、不動のものになったと思うのだ。

番組では、展覧会やイベント等の華やかな場面だけでなく、
制作の現場や、彼女の日常が描かれていた。
巨万の富を得ている彼女は、四十代から精神科に入院していて、
治療を受けながら、近くのアトリエで絵画制作を続けている。
彼女の関心は、一般的な意味での享楽的生活のほうには向かっていないが、
決して、無欲で神とだけ対話しているような、浮き世離れした芸術家、
というのでもない。
ビジネスにおいての彼女は、貪欲で自己評価が高く、かつ現実的だ。
『ものを売っているだけではだめで、精神を売らなければいけない』。

『歴史に名を残しますねと人は言うけど、
私は、ピカソもウォーホールも超えて世界一になりたい、
まだまだ、これからだ』
……と、バイタリティあふれる草間氏は、言った。
彼女は、自分の気に入った作品は手放そうとせず、
傑作と思うものばかりを展示した美術館を建設しようと計画中だ。

年齢相応に、体が痛んだり目眩がしたり、長くは歩けなかったり、
日常生活には不自由もあるのに、いざ絵を描くとなると、
途端に輝く生気が全身に漲り、草間彌生は別人になる。
今回のロンドンでの個展のため、彼女は100枚描いた。
それも、かなりの号数の作品で、全身で制作する大作ばかりだった。
『1000枚でも、2000枚でも、死ぬまで描き続ける』。

欧米では、現代美術がわかるということが教養の証とされているようだが、
正直に言って、私には草間彌生の作品は良さがわからない。
極端に個性的なものは感じるが、しみじみと感じ入るのは無理だし、
ああした作品を家に飾りたいという心境にも、なったことがない。
私の感覚では、彼女のアートは到底理解できないのだ。
しかし昨今の欧米での評価を見ると、時代がようやく、
草間彌生に追いついてきたのだ、ということは私にも感じられる。
少し前まで、奇異な前衛と見なされていた(だろう)彼女の芸術的試みに、
今や、世界の超一流の芸術家や実業家が注目しているのだ。

彼女は長らく、精神を病んでいるが、自己コントロールにも長けていて、
自殺をしてしまわないために入院生活を選択し、また番組の中でも、
『今、死にたい気持ちになっている』
と助けを求めてスタッフの集まっている部屋に自分から来る場面があった。
強靱なほどの肉体に恵まれ、飽くことのない創作意欲を持ちながらも、
彼女の人生は、執拗な自殺願望との闘いなのだ。
『絵がなかったら、とっくに死んでいた』
とも彼女は語っていた。
癌に関する本を読み、体調が悪いと『脳梗塞では』と怖がったりするが、
同時に、彼女は常に自殺の誘惑を感じ、死にたがってもいる。
彼女にとって自殺は、激しい自己愛と表裏一体なのかもしれない。

それにしても、草間彌生への、
日本の画壇からの評価はどうなっているのだろう。
今や草間彌生は、現代日本最高の芸術家だと言わざるを得ない。
それどころか、ロンドンのテイト・モダンで個展を開くなど、
アジア全体でも、間違いなく史上最強の評価を得たアーティストだろう。
しかしそれでもなお彼女は、例えば日本芸術院などに、
迎え入れられることは無いのではないか。
形骸化した名誉など、現代芸術には相容れないものかもしれないが、
そうかと言って、かわりに何が、
彼女の偉業を公的に讃え、記録してくれるだろうか。
これほど偉大で巨大な存在となったアーティストに対して、
日本の美術界には、それに報いるほどの評価の方法も、
相応しい受け入れ場所も、未だに出来ていないのではないだろうか。
画面をどこまでも埋め尽くした強い色彩のドットを眺めながら、
私は改めて、彼女の破天荒な人生と、作品の行方のことを、思った。


追記:この番組は、10月3日(水)の深夜(4日・木曜午前)1:25から
 再放送の予定があるそうだ。お見逃しになった方は、どうぞ。