『怪談』の菊之助 | 転妻よしこの道楽日記

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昨日は、娘と一緒に映画『怪談』を観に行った。
音羽屋さんの御曹司・五代目尾上菊之助の主演だったからだ。

普段はほとんど舞台でしか観ていなかったのだが、
こうしてスクリーンで見ると、菊之助の容貌は独特だと思った。
柔らかで不思議な三白眼のような眼、
ほんのりと笑顔を見せるときの微妙な口許、
あの色気は、今時の美形男だったら出せる筈のない種類のものだ。
それが、この映画の、異様な空間に絶妙に似合っていたと思う。

菊之助は実に美しかった。
女たちが次々と彼に惚れるのも当然だった。
普通の女だったら、あんな男には会ったことがないはずだ。
その自分の禍々しいほどの魅力を、新吉(菊之助)本人は知らない。
自分なりには努めて優しく、誠実なつもりでいるのだが、
それが女性たちを不幸にしてしまっていることに、
これまた新吉本人は全く気づいていない。
このうえもなく、美貌で罪作りな男だった。

よく訓練された声は舞台役者のもので、
さすが菊五郎の息子!と私は嬉しかった。
その他、姿勢を変えるときの着物の裾の扱い方、
わざとらしさの全くない粋な襟の乱し方、
それに、最後の、因縁の鎌に操られての超人的な大立ち回り、
……等々も、歌舞伎の家に生まれ育った菊之助ならではで、
昨日今日練習した役者には絶対にできないものだと思われた。

全体としては、新吉に関係するどの女性も魅力的だったが、
中でもやはり、豊志賀(黒木瞳)の怖いこと怖いこと。
彼女が死ぬときに、幽霊になって(あの段階では生き霊か?)
新吉の前に出て来るのだが、あの佇まいは凄かった。
一目見ただけで、「これはタダゴトでない」とわかったくらいだった。
その後、湯かんをされているときの彼女の目にもゾっとさせられた。

お久もお累も、もともとは健気な若い娘だったのに、
新吉に惚れたがゆえに不幸な末路を辿ることになった。
お園だけは、非常に抑えた求愛だったので目立たなかったが、
それだけに、かえって、新吉に対する根深い愛情を感じさせた。
彼女に直接の害が及ばなかったのは救いだったし、
彼女だからこそ、最後に累ヶ淵で、
豊志賀と新吉の姿を見ることが出来たのかも知れない。
唯一、悪党のお賤だけが、新吉に惚れないのだが、
これは彼女が既に、純粋に人を愛するような、
清らかな魂を持たなくなった女だからだろうか。

そうした女たちの真ん中に立つ新吉を演じるのに、
菊之助の持ち味はぴったりだったと見終わって思った。
一種独特の存在感、無防備な色気、
素晴らしく良く通る声、なんの無理もなく身に備わった美しい所作、
あの丑ちゃんが、こんな立派な役者に成長したなんて(感涙)。

ちなみに娘がビビったのは、スプラッタな場面だけだった。
あとは幽霊が出るたびに縮み上がって、
お化け屋敷を見物するように楽しんでいた。

見終わってからは、
「面白かったねー!」
と喜んでいたが、登場人物について語り始めると、
「『とり殺すからそう思え』って師匠が死ぬとき書いたのに、
 新吉がお久と一緒になろうなんて考えたから、そもそも悪い。
 『愛の逃避行』なんかするから、どんどん悪いことが起こるんだよ。
 優柔不断過ぎる!新吉、ナニもかもオマエが悪い!!!!」
と、娘の新吉批判はとどまるところを知らなかった。

娘は、とりあえず頭の中がまだ小学生なので、
菊之助の色気に捕まる段階には達していないようだった。
PG-12指定も、結局、全くなんともなかったようだった(爆)。