書籍は専ら電子書籍を購入するようになったが,電子書籍版が存在しない場合は従来の書籍を所望する.
 例外も,ある.
 三〇分以上移動しなければならなくて読書をしたいがスマホの充電が心許ない折だ.
 改札を潜る前にちいさな書店に寄る.
 劇場版予告を観た記憶があったし『三匹のおっさん』も映像化されているので有川 浩『図書館戦争』を購う.
 読み始めて,愕いた.scenarioと見紛うような小説ばかりのご時世に,久々に字義通りの<文芸>.
 宮部 みゆき『魔術はささやく』や伊坂 幸太郎『ラッシュ・ライフ』のように,scenarioが巧緻だというわけではなく,三島や谷崎や花村 萬月のようにおもわず溜め息が漏れるような描写が鏤められているわけでもない.『図書館戦争』を読み終えて,『阪急電車』と『シアター!』を読んでいるところだが,それらは,『図書館戦争』の放つ精彩には惜しくも及ばない.
 おれにとって『図書館戦争』が衝撃的だったのは,文章力の傘下に<活写力>とでも称ぶべきpropertyが存在していたことを浮き彫りにした点だ.
 マンガを一大産業に成りあがらせた手塚 治の功績の負の側面の一つは,日本に於いて<マンガが描けないStoryteller>を苦境に追い遣ったことだ.
 譚を表すのなら小説よりもマンガの方が圧倒的に伝わり易い.テキストだけのプレゼンなんて,多くのヒトが敬遠する.孫 正義だったらマジギレするに違いない.
 脱線した.
 『図書館戦争』くらい,小説という手法を用いていながら<活写>に成功している例は稀有だ.ケースドラマ/* (C) 岸川 真 */としても面白く,『天使にラブ・ソングを…』くらいcharactersの生態がはっきりと伝わる.
 脱帽する.そして,猛省.<活写>が難しいのを,小説という手法の構造的問題として問題を棚上げしていたことを.
 ホンを書きたいヒトには『シン・ゴジラ』を薦める.あの脚本はモデルとして最適だ.新藤 兼人だってきっと同意してくれるだろう.
 小説を書きたいヒトに薦める書籍群の一冊に『図書館戦争』が新たに加わった.