闇に消えた怪人   グリコ・森永事件の真相   (一橋文哉著 新潮文庫) その22 | 岩崎公宏のブログ

闇に消えた怪人   グリコ・森永事件の真相   (一橋文哉著 新潮文庫) その22

三浦和義氏が逮捕されたあと、テレビ局などが彼に多額の報酬を支払っていたことも問題視された。NHK以外の民放テレビ局は連日のようにワイドショーを中心にしてロス疑惑について伝えていた。彼が銀座のホテルの駐車場の車に乗っていて逮捕されたときも同じ車の中に「独占取材中」のテレビ朝日の取材陣がいたことでもその報道姿勢の異様さを認識できる。取材陣の傍若無人さも世間から批判された。特に三浦氏が逮捕され騒動に一応の決着が付いたあとにそれが強くなったような気がする。

三浦氏は拘置所に入ってからも、おかしな記事を書いていたマスコミを訴え続けて、その勝率は8割近くだった。その体験に基づいて「弁護士いらず」(太田出版)などというタイトルの本まで出版している。雑誌メディアが従前の書きたい放題から訴訟を起こされたときに備えて記事の内容や表現に慎重になるきっかけになったとも言われている。

世間の人たちだって良識的な人たちばかりだったわけではない。報道の様子を批判しながらも、テレビのワイドショーの視聴率は高く、新聞や雑誌もロス疑惑の報道を続けていたのは世間の人たちの好奇な興味や関心の裏づけがあったからに他ならない。「かいじん21面相」がマスコミに送付した挑戦状もそうした世間の低劣な情緒を扇動しようとした面があったのではないだろうか。

「かいじん21面相」は逮捕されず、事件の真相はわからずじまいだった。1994年(平成6年)3月21日には江崎勝久社長の誘拐事件が時効となり、6月2日には寝屋川のアベック襲撃事件が時効を迎えて捜査は事実上終了した。2000年(平成12年)2月13日には青酸入り菓子の放置事件が時効となり全ての事件が最終時効となった。

ロス疑惑の三浦氏は2003年(平成15年)3月5日に無罪が確定した。しかし2008年(平成20年)2月22日にアメリカの自治領のサイパンでロサンゼルス市警に逮捕される。同年10月10日にロサンゼルスに移送されたあと三浦氏は自殺した。搬送された病院は27年前の銃撃事件で夫人が収容された病院だったという記事が新聞に載っていた。

グリコ・森永事件もロス疑惑も結末に釈然としないものがあるという点で一致している。

一橋氏は「新潮45」にグリコ・森永事件についての記事を連載し、これが1996年(平成8年)7月に新潮社から単行本として出版された。2000年(平成12年)2月には加筆修正された文庫本が新潮文庫に入った。このブログの連載は文庫本を参照した。どういうわけか現在は単行本も文庫本も絶版になっている。この本は「かいじん21面相」が送付した挑戦状など資料も充実しており、グリコ・森永事件を検証するのに最適な本だと思うのになぜだろうかという疑問を抱いた。外部からの圧力などはなかったと思いたい。

グリコ・森永事件についてはこれで終わりにする。


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