前回は上官を読み終えたあたりでの感想。
今回は全部読み終えての感想。
やはりうまい。
斎藤一の独白の部分が気に入った。
「名前は失念した。」
よくもここまでその場面を見てきたかのごとくに描けるものと空想力と筆力のすごさと切れ味には脱帽せざるを得ない。
ただし、あえていうと斎藤一にしても佐助にしろ出てくるものすべてがちょっと語りがうま過ぎる。
こういう人たちがここまで論理的に美文で過不足なく語るというのはどうも不自然に感じてしまう。
作者の操る木偶人形のように見えてリアリティが削がれる気がしてしまうのは私だけのひねくれた感想か?
史実と虚構の区別が判然としないのはうまさであるが居心地の悪さにもつながる。
狂言回しの取材している人間が最後になんらかの関係者という仕掛けを期待していたのだが明かされなかったのは残念だった。
根本的な問題として、主人公が食えないがゆえに妻子を残して脱藩したのはやむを得ないことだと繰り返し語られるが、働き手が居てさえ食うに事欠くのが、働き手を失ってなぜ食べてゆけるといえるのか。
脱藩が家族に対する責任を果たすことになるのか、どこかに説明が有ったのを見落としたのか、どうも納得がいかない。
現実の吉村貫一郎(実在した人のようだが)がこのように理想化されるべき人間だったのかははなはだ疑問と思う。彼に関する何らかの証言は実在するのだろうか?
新撰組が理念を持った義士だったのかもわからない。
結局のところ、このお話は歴史小説として読むのではなく、すべて浅田氏の創り出した虚構世界と見るべきなのでしょう。そうして読むならばこんなに面白い読み物はない。
もしかすると今思いついたのだが、浅田さんの世界は、私が子供のころに大好きでよく読んだ弱きを助け強きをくじく後藤又兵衛や真田幸村や、猿飛佐助やらが大活躍する講談の世界に近いのかもしれない。
浅田流講談、そう思って読むのならなんの不満もない。
僕は講談に色々なことを教わったし。
浅田さんが好きなわけが判ったような気がする。
色々かいたけど、薩長が作った歴史、勝者のつくる歴史に対する反論として弱者の側に立った浅田さんの思い入れは好いと思う。
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