妄想タイム


彼side

昨日、ちょっとゴネてもうた
そしたら今日も会えることになった

例えそれが30分のお茶でも、1時間の散歩でも、一緒に過ごす時間は大事な思い出になる

はっきり言うと、俺は年上の○○さんに沼っている

自分を貫いていて、余裕があって

そんな彼女にワガママを言って反応してもらうことに、俺は快感を覚えてしまった


待ちあわせは○○さんのマンション近くの駅

気合い入れすぎたせいか早く着いたため、ちょっと辺りを探検することにした

マンションの裏側の辺りに差し掛かると、パンのいい香りが流れてきた

こんな近くにパン屋があるってことを○○さんは知ってるかな?さすがに知ってるか!

でも灯台下暗しってこともあるし、教えてあげようっと

この上なくご機嫌に歩いていると、○○さんがパン屋から出てきたのを見かけた

ひぇっ、横に男の人がいる…

おいおい、マジか、その人の腕掴んでるだなんて


どないしよ
反射的に身を隠していたビビりな自分が情けない


と、と、と、とりあえずだ、とりあえず待ちあわせ場所の駅前に戻ろう

気持ちを落ち着かせなきゃ
はぁ、こういうとき、俺、どんな顔してる?


○○さんを待っていると、手を振って近づいてくる姿は通常運転で

さっき目撃した件を彼女にどう切り出そうか?歩きながらが良いのか、部屋に入ってからの密室で話すのが良いのか?

会話なんて全く入ってこないし、何も成立しちゃいないことに自覚はあったから、こりゃー、秒でバレるなぁと汗をかいた


しかし彼女は何も聞かずに、そのまま部屋に俺を招き入れた

『飲み物用意するから座ってて』と、冷蔵庫を開けた


彼女が目の前に座ったタイミングで切り出そう、早め早めの方が気が楽だしな

【実はちょっと早くに駅に着いちゃって、この辺ブラブラ歩いてたんやけど】

【そしたらマンションの裏の方にパン屋が出来てたけど、行ったことある?】

俺なりに色々考えた末、さり気なく質問することから始めた

『うん、最近パン屋になったところね、奥にカフェペースもあるし』

【そうなんや、よく知ってるね】

『うん、何回か寄ったことあるし、今度一緒に行こうよ』

【おん】
【でさ、そのパン屋の入口で○○さんと同じ格好をした人を見かけたんだけど】

【横にいた男の人…あれ、誰?】


はぁぁぁ、もしかしたら、やっちゃったかも…抑えようとしたイライラが、最後の最後に顔を出しよった


『だからか、だから様子がおかしかったのか』

『一緒にいた人は近所に住んでる従弟です』

い、と、こ?

『たまにね、家族のこととか近況報告をするために会ってるの』

【でも、腕にしがみついてるところ見たけど…】

『えー?そんなことしてたかな?』

【してました!見たもん俺】

『あー、分かった、あれね、しがみついたんじゃなくて、腕を持って支えてたの』

どういうこと?

『彼のスニーカーの靴紐が解けてて、片脚立ちで結んでたらバランス崩しそうになったから、支えてあげてたの』

『その瞬間が、そう見えたのね』

【ふーん】

『イチャついてるように見えたとか?』
 
くっそー、俺、めっちゃかっこ悪いやん

『従弟が生まれたときから知ってるし、ずっと家が近かったから弟みたいなものかな』

【そうやったんか、分かった、もう分かったから、ありがとう】

『ある意味、凄い瞬間を目撃したんだね!』

【笑い事じゃないですよ、ホントに…俺、泣きそうになったんやから】


彼女は俺の横に来てしゃがみ込み、俺の胸に手を当てた

『見た瞬間、心臓バクバクした?』

そんなこと、聞かんでも分かるやん

【イジワルなこと確認せんでもエエのに】

『昨日の仕返しだから(笑)』


また今日も、一段階、彼女に深く沼ってしまった

終わり