416.大地に咲く花.15 | マリンタワー フィリピーナと僕といつも母さん byレイスリー
アリサは日本に向かう飛行機の中にいた、隣にはルーマニア人の男の運び屋が口をアングリと開けて寝ていた。



日本からタイに行くには7時間はかかる、しかしタイから日本に行くときは偏西風に乗り早ければ6時間で着く時もある、アリサは売春宿の皆との別れを思い出していた、ロシア、ウクライナ、タイ、モルドバの女の娘たちが「ピー(お姉さん)アリサ!」と泣いて見送ってくれた、この店のタイ人の女ボス、ピー.ユッは顔を出さなのは別れ際に涙するのが嫌だったかもしれない、そうだとすると如何にも彼女らしかった。

飛行機の中は当然日本人が多い、「ひょっとしたら後藤サンが乗っているのでは」と思いトイレに行くときに見渡したがいるはずもなかった、後藤の会社は東京にあると言っていた、アリサが向かう先も東京という話だ、アリサは神は信じない、神がいるなら自分は叔父にレイプされたり売春組織に売られたりはしない、だが後藤に再び出会える事だけは祈りたい気持ちになった。


ルーマニアの男がタイ語で言った、「来たよイープン(日本)だよ」暫くしてアナウンスが機内に響いた、アリサは深呼吸をして呼吸を整えた「いよいよ、日本に来たんだ」新天地に降り立つ覚悟は出来ていた、扉が開き外に出るアリサ、「寒い」季節は春だった、タイの暑さに比べると肌寒い季節、アリサは故郷のモルドバを思い出していた。

タイの組織の思惑通り全く問題なくアッサリと日本国内に入る事が出来た、ルーマニアの男が受け入れ先に電話を入れ場所の確認をしている、生まれて初めて列車に乗ったアリサ、見るもの全てが目を見張る珍しいものばかりだった、列車から見える景色は明かりで溢れていた、列車に乗って来る日本人たちはサラリーマンは背広をちゃんと着て、女性たちは綺麗に着飾っていた、更に驚く事は列車に乗って来る人たちは列を作って並んでいる、「日本人は勤勉で規律正しい」と後藤が言っていたが、その通りだった。


日本人が当たり前に行っている事が外国人には驚きだったりする、アリサはタイではお坊さんに毎日托鉢する人々の姿や車が激しく行き交う道路を平気で渡る人々に驚かされた、国によって生活する環境が変われば道徳や習慣やルールも当然変わってくる、我々日本人が海外に行っても同じだ、タイやフィリピンでは信号を見つけるのは大変だ、人々は道路をキョロキョロして渡るのが当たり前、バングラデシュでは信号を見た記憶さえない、他にも数え挙げたら切りがないほどあるが、外国に行けば自国の事ばかり自慢したりやり方を主張するよりも各国の文化に溶け込み理解し自分流に改善していくのが大事なのかもしれない。


アリサとルーマニアの男は目的の街にやって来た、その街の名は錦糸町、駅を出ると人々が忙しく行き交っている、駅の道路を隔ててデパートがあり、左横にはマクドナルドがある、アリサはマクドナルドの事を聞いた事はあったが見るのは初めてだった、街の至るところにジュースやコーヒーが入ったマシーンが置いてある、「こんな所に置いて誰かに泥棒されてしまうだろうに」外国人としては自然の考え方だろう。


ルーマニアの男が受け入れ先に電話を入れて場所を確認する、信号を渡りやや寂しい道を行くと公園があり、その前にコーヒーショップがあり中に入ると30代のタイ人らしい女性と日本人が一緒にこちらを見て手招きしている、どちらかが「ワタシのボス」に違いない、日本人の男は自分を見てニコニコしている、後藤もいつも優しくニコニコしていた、しかし、簡単に男は信じない、いや信じられない過去がアリサにはある、顔だけでは人は信じないのがアリサの信条になっていた。


少し話をしてルーマニアの男はコーヒーショップを出て行った、そしてリカコママと日本人と一緒に店に向かった、通りには何処の国かか解らないがストリートガールが何人か歩いていた、「自分と同じように売られたのだろうか?」何れにしろ貧しい出でお金を手に入れる為に日本に来たのは間違いないだろう、アリサは金に執着がなかった、しかし、お金を入れてもう一度家族に会いたかった、貧乏な為に家族は離散した、自分が頑張ればもう一度家族全員で暮らせるかもしれない、日本という新天地でアリサの新しい人生が始まろうとしていた。



大地に咲く花.第1部.完


次回に続きます、いつもご訪問いただきまして誠にありがとうございます、尚、第2部は4/21(月)の予定でございます。