5月29日の朝日新聞(朝刊)37面に表題のような記事がありました。

地方議員のひとりとして興味ある内容でしたので、転載いたします。

議員祝電「FAXにして」 町がお願い

電報の推移と時代の変遷

 祝電はファクスで。長野県軽井沢町が、政治家にそんなお願いをしている。

 お金のかからない政治を実現しようと、軽井沢町が地元の政治家に呼びかけて3カ月。これまで電報を利用してきた政治家側からは賛同の声が上がる一方、慣習や世間体を気にする風潮も根強い。「軽井沢方式」は全国に広まるか。

 「今後メッセージをいただける場合は、別紙施設まで直接ファクス送信していただきますようお願いいたします」

 軽井沢町は2月、地元の国会議員、県議に藤巻進町長名の文書を送付し、町内の保育園・小中学校・役場のファクス番号の一覧表をつけた。

 公共施設の完成式や学校行事で読まれる祝電。同町でもこれまで、町内を地盤とする政治家から電報や電子郵便で送られてくることが多かった。1通あたりの費用は500~数千円程度。ことあるごとに祝電を出す政治家にとって、その費用は決して安くない。

 発案者である藤巻町長は「いくら立派な装丁でも、メッセージを読み上げるだけ。選挙区中に祝電を出したら出費もかさむし、政治家の歳費はもともと税金です」と趣旨を説明する。早速、近隣の首長から賛同する意見が寄せられたといい、「こうした取り組みが全国に広がってほしい」と期待する。

 今回の提案を、当の政治家側はどう見ているのか。

 施設の落成式、道路の開通式、業界団体の総会……。当選14回、軽井沢町を含む長野3区選出の衆院議員、羽田孜・元首相は以前、多い月で30件ほどの祝電を出していた。経費節減につなげようと、10年ほど前からは、用意しておいた文書を封筒で郵送するか、秘書が地元回りの合間に直接届けている。町の申し出について、地元秘書は「ファクスだと安っぽい感じになるが、お金がかからないのに越したことはない」と受け入れるつもりだ。ただ「今回は受け取る側から言ってくれたが、こちらから言い出したら失礼に思われかねない。政治家が足並みそろえない限り、普及するのは難しい」とも付け加える。

 この春、同町を選挙区とする4県議は、町内の小中学校の卒業式や入学式にはファクスで祝意を伝えた。

 藤岡義英県議(共産)の事務所は「無駄を減らすいい取り組み」と評価し、「もっと広く知られると、さらにやりやすい」。桃井進県議(自民)の事務所は「相手に負担がかかるので、送る側からは頼みづらかった。これで事務処理も楽になり、無駄も減らせる」と歓迎する。

 とはいえ、県議の選挙区は1市3町に及ぶ。軽井沢町以外の行事にはいまも、ファクスではなく、電報を届けることもある「ダブルスタンダード」の運用が大半だ。ある事務所は「うちだけファクスで、他の議員が台紙付きだったら見劣りする」と本音を漏らす。

 また、知名度が高くない若手政治家にとって祝電は自らを売り込む機会でもある。当選1回のある衆院議員は「名前を覚えてもらうためにもファクスで済ませるわけにはいかない」。

 一方、北沢俊美・元防衛相(参院長野選挙区)の事務所は「紋切り型の文言を豪華な台紙で飾る祝電がよくあるが、大事なのは内容。ファクスになれば、見た目を豪華にといかない分、しっかり考えた中身のあるメッセージが届くようになるはず」と話した。

■慶弔電報、ピーク時の3割以下

 そもそも、祝電を送る風習はいつごろから根づいたのか。国内に電報が登場したのは、明治政府が京都から東京に移った1869(明治2)年。以来、親の危篤などを伝える緊急連絡手段として広く利用され、1936年に慶弔用の電報サービスが始まった。

 NTT(電電公社時代含む)が取り扱う電報は、1963年度に9461万通とピークを迎えたが、電話の普及とともに存在感は薄まり、2010年度には1279万通に。一方、祝電や弔電が儀礼として根づいてきたこともあり、慶弔電報は伸び続け、73年度には一般の利用数を逆転。現在、一般電報は金融機関の督促に使われるぐらいで、慶弔用が全体の95%以上を占める。

 凝ったデザインも増え、うるしや七宝のほか、ぬいぐるみ、文房具、キャンドルなどギフトを兼ねた電報も選べる。最高額は加工した生花を飾る物で2万1千円。これに文字数に応じて電報料金が加算される。

 ただ、バブル崩壊による企業の経費節減や競合商品の登場などで、慶弔電報も91年度を境に減少傾向にあり、ピーク時の3割以下に落ち込んでいる。NTT東日本は「結婚式の簡素化もあり、電報をよく知らない若い人が増えた。こんな時代だからこそ、手と手でわたす電報も魅力的です」と訴える。(岡戸佑樹、池畑聡史)