葵の買い物 | 三濱レイのブログ

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主にシルバーレインの事を三濱とそのキャラで語るブログ。だったが、今ではほとんどプレイング置き場となっている

こちらも数日前にpixivへ投稿した作品の転載となります。


『葵の従軍記録』の純粋な続編となっておりますが、読まれていない方のためにもできるだけわかりやすく書いたつもりです。書けてなかったら申し訳ないです。
 最初の構想ではこの後に戦闘を入れようかと思っていたのですが、思いの外長くなりましたので、分けることにしました。
一部書いておきながら、自分自身でイラストが描ければなぁ…と、歯がゆい気持ちになりました。(4000のつもりがどうして6500まで膨れた……)
ともあれ、お楽しみ頂ければ幸いです。

そして投稿してから気がついた。ファッション回のつもりだったのに、1着しか着せていなかったorz

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 明かりも無ければ何も見えないような闇の中。そこには一人、体にぴったりと張り付いているフォルムのスニーキングスーツを着用した長い青髪を団子に結わえた少女がSSDカメラとナイトヴィジョンゴーグルを持って、住宅街のとある家を監視していた。
 彼女の任務はその家が誰に、何を目的で使われているか調べるという単独実地調査任務。今夜で既に三日目なのだが、未だに何も掴めていない。周囲に警戒しながら彼女は静かにインカムのレシーバーに手を添える。
「あかん。最大範囲でもソナー反応一切無いで」
流れてくる声に一つ頷いて静かにカメラを仕舞い、代わりにミニバッグからSMGを取り出し、静かに弾薬を薬室に送る。
『住宅街なのに誰も居ない』という明らかにおかしい事態に、彼女はなるべく音を立てず、迅速に、訓練された動きで目標の家にとりつく。もちろん電気は一切ついておらず、中から物音が聞こえることもない。
「んー、変な感じもしぃひんし、電磁系のトラップも無いんとちゃうか?」
再びインカムから流れる声。このオペレーションは彼女にとって非常に有益ではあるが、『鳴子のような物理的に仕掛けられている』トラップまでは感知できないので、より一層緊張感を高め、慎重に動いていく。手早くドアの鍵をピッキングで解錠し、音もなく僅かに開ける。


 念のため補足しておくが、この世界では扉を開けば磁石によって自動的にチャイムが鳴るという装置が開発されたばかりではあるものの、磁力の反応が無いためにそれは設置されていないと直前で言われたので、それには注意をしていないのである。


扉の隙間から、ゴーグル越しで中をのぞき見る。
ワイヤートラップ無し。見える範囲での設置物や不自然な物も無し。
一通り確認し終えた後に彼女は侵入、小さな棒を使って扉が閉まらないように細工して、なるべくそこから動かずに部屋全体を再確認するが……
「空き家?」
始めて彼女が言葉を漏らす。そう、家具も何も一切無い、文字通りがらんどうの空き家であった。しかし、それでも『当所』に依頼が来たと言うことは何かある確率が非常に高いので、諦めずに壁や床、天井と調べるが、やはり何も無かった。(やり過ぎとは思われるかもしれないが、音響調査も併せて行われた)
「こりゃ完全にとんずらこかれたかな」
インカムから流れる声で残念そうに頷いて、チャンネルを切り替える。
「こちら『ジェミニ2』。対象の内部調査を敢行しましたが、仕掛けも家具も何もない空き家でした。帰還転送を要請します」
 簡単な報告を行い、部屋の隅に腰を下ろす。
「不発だったね。お姉ちゃん」
少女が疲れた声で呟く。その声に『お姉ちゃん』から労いと励ましの言葉を目の前で構築されつつある魔方陣を見ながら聞いて、少し元気を取り戻す。
「……そうだよね。うん。よし、早く報告書も書いて終わらせないと」
少女……琴葉葵は腰を上げて、魔方陣の中へ入っていった。



 あの後携行して余っていた栄養ドリンクを飲んでまですぐに報告書を書き上げた葵は一眠りした後に、『当所』内にある、娯楽設備のショッピングセンターに来ていた。
……ショッピングセンターというよりかはショッピングエリアという方がしっくり来るだろう。なぜなら、それなりに広い木目調の個室で入り口近くにはカウンター台とタッチパネルのコンピューターが1台とその近くには試着室と銘打たれたパーティションエリアとカウンターがあるだけである。 葵はそれを操作して、最初に呼び出したものは服装。モニターで気になるものを片っ端から選び、数分ほど待つと部屋の奥から選んだ服達がハンガー台に掛けられて出てきた。それを見て更に厳選した数着を試着室に持ち込んでいろいろ試し始める。


 様々な世界とつながる『当所』だからこそ、古今東西どころか人間以外の種族が着用するような衣類・アイテムまでラインナップしているので、とんでもないほど商品量が膨大となっている。このためコンピューターで商品を選ぶ……こちらで言うネット通販に近い形が取られているが、『実際に手にとって確かめたい』という声が非常に多かったために、専用のエリアを設けて、このような確認も出来る形式に落ち着いているのである。
もちろん、ファッション系だけでなく、家電、嗜好品、武装なども選ぶことも出来るので、防音その他設備も完備されている。


「うーん、これは少し大胆かなぁ?」
葵が試着した服はコートのような長い丈でありながら肌へ直に当たっても優しい薄く柔らかい生地で出来ており、もう一つの特徴としてサキュバス種等、背に羽を持つ種族が着るような、背に穴が開いている服。もちろん羽を持たない彼女はその部分……両肩胛骨下あたりの健康的な白い肌が露出している形である。
「なんやなんや葵。お姉ちゃんに隠して男でも出来たんかいな?」
突然後ろに現れた姉…茜に見える肌を指先で弄られながらからかわれて否定しながらも赤面する葵。暑いときの部屋着として選んでいるだけだと主張するものの、真偽は葵本人しか知る由がない。
少ししてはっと気付いた葵は申し訳なさそうな顔をして一人だけ楽しんでいることを詫びた。この姉、実は実体ではなくホログラムである。故に一緒にファッションを楽しむことも出来ずにいることが嫌なのだろうと感じたのだろう。(もちろん物理的に触れる触れられることも出来ない)
「何ゆうとんねんや。謝る事あらへんで。うちとてそんなこと出来る…ゆうに」
そう言い、葵の周りを一回くるりと回って一つ頷くと、茜の衣装が一瞬にして葵が試着している物と全く同じ物に変化するが、身長を低く抑えられているせいで、いつもの姉を見る目のはずが、驚きつつも子供を愛でるような目で見てしまう。
 この後は抑えを失った葵が更に服を選んで二人してやんやと大盛り上がりでファッションショッピングを楽しみ、気がつけば購入のためにカウンターへ積み上げられた衣装は十数着。コンピューターへ登録カードをかざして、本人確認と口座残高、精算金額をチェックし、ピッと精算ボタンをワンタッチ。購入衣装はカウンターの奥へ下げられ、その他の商品は壁の向こうへと消えていった。
 この次に選択した物は……人型兵器サイズの装備。彼女の機体はオーバーロード級AAO-F2・シーズローズで、今現在換装が出来る手持ち装備はブロードソードクラスの大剣一本のみ。初陣では茜の機転で事なきを得たが、次以降を考えるとそうはいかない。
「葵ぃ、んなもん選んで何する気なんや。あれ一本だけでもかなり重いんやで?」
横からモニタをのぞき込んでいた茜が不満を漏らす。彼女は現在ホログラムで普通の人型をとっているが、その実本体はシーズローズそのものだ。故に機体の不調、不満は茜本人の口で伝えることができる。


 もっとも、非人道的技術をふんだんに使われているために、茜本人のことに関しては関係者外極秘事項となっており、これを知っている人は開発チームと本人、パイロットの葵くらいしかいないうえに、茜の意識が入っているタブレットのようなブラックボックスは葵の自室に隠されて保管……いや、訂正。今現在はA4サイズの分厚いファイルが入りそうな葵のショルダーバッグに入っている。見た目に反して意外と軽いようで、戦闘外でも葵は姉と一緒に出かけたい気分の時は、このようにして持ち運んでいる。
 
 小話はさておき、葵本人も重量を気にしていたようで、今のモデルより軽量かつ長めで刀身が実剣のものを眺めている。様々な形状のものがあり、数振り程選ぶが、実物を観察、触れて感触を確かめるも人間では持てるはずがなく、コンピューターで試用タグを添付して格納庫へ送付申請。続いて今度は銃器のタブを呼び出す。ジャンルはSR系。もちろんこれも実弾タイプの物だ。
精度と有効射程距離。この二つを重視してファッションの時とは全く違う目つきで文字通りの厳選、2丁を一度ここに呼び寄せて目視確認と、機能性チェック。ついでに茜にお願いして人間サイズでのホログラムコピーを作成し、構えたり背負ったりしてもらう。
「どう?お姉ちゃん?」
「んー、こっちは構えやすいんやけどやっぱ嵩張るなぁ。このままやと持ち運びが大変やで。あっちは確かにカタログスペックは抜群やけど、今度はめっちゃ構えにくいわ。ディザスター級やアウトレイジ級向けっちゅーくらいに片手打ち前提設計にしか思われへんし、ちょい体勢変えただけでストックがずれてまうわ。ちょいとスペック落としてもう数丁見せてもらわれへんか?」
 茜の感想と進言を受けて、もう数丁呼び出して疑似装着。この時点で気に入った物を実射で選ぶことにするために格納庫送りへ。そして最後に小型携帯火器をチョイスする。SMGとMPで非常に悩んでいたが、結局は取り回しの良さでMPを採用することにした。
言わずもがな勿論実弾タイプである。


 念のためラインナップで誤解の無いように捕捉しておくが、ここには勿論エネルギーやビーム系の装備…果てには両方に対応した試作品モデルも陳列されている。ただ、彼女達は元が諜報系の活動が主なので、隠密性も考慮して常時発光、弾道が残るといった、第3者から位置バレのリスクを抑えることを重要視しているためである。


 格納庫へ向かう前に、一度それらをフル装着した際のイメージをしてもらう。ここから出れば茜は他人にバレないよう姿を消してしまうためだ。
右腰に手を置き、左に体重を預けた彼女の姿は右腿ホルスターにMP、左腰には打刀を提げて背中にSRを背負う格好となり、最初の時と比べかなりの重武装なイメージになる。
「動きにくい?」
「刀がすっごい邪魔や。せやけど、前みたいに葵という近距離に強い護衛が絶対に付いているっつーことがあらへんからそこは我慢せなな」 
少しげんなり気味な表情を浮かべているが、必要だと言うことは十分に承知しているのか、我が儘を言うことはなかった。

「っちゅーか、葵。お前SR使えたんか?」
ショッピングエリアから格納庫へ向かっている時に、ふと茜が尋ねる。勿論声はインカムから届くので、周りには聞こえていない。それでも念のために彼女は周りに人が居ないことを確認し、マイクを近づけて小声で答える。
「使えないよ。だけど、私の知っているお姉ちゃんの武器と言えばこれしかないし、それにお姉ちゃんという機体に乗っていると知ったときから、どうしても載せたかったんだよ」
「…嬉しいこと言ってくれるやないか」
葵の素直な理由に、茜の声は僅かに震えていた。



 その後の会話はないまま到着し、乗り込んで指定の試射場へ。現地には既に試用申請していた武器が手に取りやすいように、ウェポンラッチへ立てかけられている。
まずはMPを手に取る。チェックするところは格納状態からの取りやすさ、リロードのしやすさと言った取り回し部分である。威力や命中は二の次にして、それぞれを比べていく。それを決めたら、次は近接武器。初期として持っていたブロードソードとも比べつつ、打刀やショートソードと言った物を振ったり収納したりして、感覚を確かめる。
この武器は生命線とも言えるので、細心のチェックを入れる。勿論、茜の感覚もしっかり聞いた上でだ。
 数時間掛けて決めた近接武器はサーベル。片手で扱える汎用性のある西洋剣である。打刀とかなり悩んでいたが、試し切り中にわかった特性……力加減ですぐ折れる可能性があるという懸念があるとわかったので、より丈夫なこちらにしたというのが理由らしい。それでも茜はまだ重いとぼやいていたが、ブロードソードよりかはましと言うことで、妥協した模様。


最後にSRのテスト。あくまでもこれは一つの補助武器として持つ前提のため、他の武器と干渉しないか確認するのも併せたため、最後に回したようだ。
 しかし、補助武器とはいえどこれは性能重視で選定する。10Km先に設置されたホログラム製18mの疑似カバリエ級標的に向かって銃口を向ける。風向き、風力はランダムに設定し、まるで生身で扱うかの如く、葵は息を止めて照準を合わせて発砲するが……見事に命中数は1マガジン…10発中0発。つまりは全弾外れ。コクピット内で天を仰いで嘆く葵。重力と風向き、湿度で弾道が変わるのに彼女の計算が追いついていないのが主な原因であり、この中で悠々と目標に命中させていた、生前の姉を改めて尊敬した。

「なぁ、葵。ちと貸してくれへんか?」
突然姉から掛けられる提案。躊躇いがちに頷き、FCS関係を委任させる。
機体が茜色に変色し、葵が操作せずとも自動的にリロード、照準を合わせ……発砲。その初弾は疑似標的の左腕に命中し、リザルトが拡大表示でモニタに出される。
「すごぉい……」
思わず感嘆の声を上げる葵。しかし、茜は気に入らないようで、悔しげに呟いていた。
「なぁ、葵。前みたいにいっちょやってくれへんか?」
提案され、言われた瞬間はよくわからなかったみたいだが、すぐに何のことかを理解してまっすぐ標的を見据える。

「……風速誤差左方向3m、湿度補正必要なし。対象移動なし」
肉眼で確認できる状況を声に出して伝え、機体がそれに合わせて僅かに銃口をずらす。
「………撃てます!」
その言葉と同時に発砲され……見事コクピットブロックに直撃。
「うん、やっぱこうでないと調子出ぇへんわ」
これには茜も満足のようで、腕を組んで何度も頷いているのが見えるような口調だった。その後は同じように葵の観測と射手の茜。生前と変わらない方法でそれぞれ試し、結局は最初に選んだ「嵩張るけど構えやすい」ものをチョイス。それらの購入手続きの時に改造オプションで折りたたみ式にするというものがあったので、それも選択して精算を済ませる。装備については今回新規機体の追加装備購入なので『当所』より後日補助金が出るが、それでもかなりお高い買い物となったものの後悔はない。
試射場より戻って来たときはもう既に暗くなっており、自動ガイダンスで駐機した後、歩きながらおなかすいたと呟いて、夕食は何にしようか思考を張り巡らせながら、薄暗く人気の無い格納庫を出て行った。


 彼女達が出て行った少し後、シーズローズの足下に一つの人影が現れる。その人影は大きなスパナを肩に担ぎ、後ろに本日葵たちが購入した新品未加工武器と付属品が並べられている。
それは溜息を大きくつき、一人作業機械を動かし始めた。
「本人は知らないからしょうがないけど……勘弁してほしいよねぇ」
人影…弦巻マキは自らのオーバーワークを顧みず、この作業が残っていることを仲間には隠して全員帰らせて、この機体の装備取り付けを一人始めたのだ。
彼女としても、本来なら仲間の手も借りたいのだ。しかし、そうしなかったのは何故か。
突発的な軍事演習が本日の昼頃…葵がファッションでキャッキャしているときに突然決まり、その決行が明日の朝からなのである。元々弦巻は思うところがあって、最後に微調整して帰ろうと思っていた矢先に、彼女達が搭乗して試射場へいくものだから、それが出来ずに待ちぼうけを受けていたのだ。
一応部下達が帰った後に仮眠を先行して取る事はしたが、万が一これが徹夜となると大変辛くなると言うのは目に見えていた…が、それに増して装備追加購入オプション付きまで入ってきたもんだから、その徹夜が現実味を帯びてきた。
それならば作業を行わないという選択肢があるのではないのかと読者は思われるだろう。
答えはその通りである。装備取り付けも手が空いたときに行われるものなので、即日取り付け完了されるとは、購入時のコンピューターに明記されていない。むしろ「取り付けまで数日かかる場合があります」と書かれている位なので、ここまでやる筋は一切無いのだが彼女にとっては調整のついで感覚も含み、いっそのこと一度に終わらせてしまおう。という気概で始めるのだから、なおさらたちが悪い。
 右腿の高さまで昇降機で上げられた彼女はもう一つ溜息をついた後に深呼吸をして両頬を叩く。
「よし、始めるぞっ」
深夜の格納庫内で火花を散らし、誰にも知られることなく作業を続けていた。


 演習開始前に調整、取り付けが終わっていたその機体を見た葵は驚き整備班にお礼をしに面々を回ったが誰もかも「知らない」の一点張りだったため、「格納庫の妖精さん」という伝説が誕生したのだとか。


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補足

・ショッピングエリアのコンピューター
 コンピューター弱者のためにも必要に応じて、合成音声や有人によるサポートもされている。また、現金という概念を持たない人もいるために、本人の情報や口座が登録された認証カードによって、支払いを済ませる事ができるようになっている。もちろん為替が必要な際は自動でそれも表示された上で適応される。


・カウンター奥に下げられた購入衣類
 これらはこの後、新品が彼女の自室内入り口付近へ自動的に搬入されました。


・アウトレイジ級
 機体制御をコクピット内部からではなく、外部デバイスによる遠隔操作によって操縦される機体の総称だが、物によっては機体200m以内に操縦者が存在と電波が届かない為に操縦不能と言った欠点を抱えたりするので、ある意味パイロットが一番危険かもしれないタイプでもある。
我々のアニメ&ゲームで言うならば、『鉄人28号』や『リモートコントロールダンディ』に相当する。
なお、同じような操縦方法を抱え込むメタトロン級という物も存在するが、こちらは機体の構成自体が特殊なので、別として扱われる。これの説明に関してはまたいつの日か。


・『補助金』
『当所』においては所属(雇用)者補助金制度も充実している。厳重な審査があるものの、比較的適応範囲が広く、些細な物でも受けられることがあるので、受ける人は非常に多い。
今回葵が受けられる補助金は『新規機体武装購入補助』というもので、最大購入金額の95%が戻ってくるとの話があるが、オプション装備や同装備条件の装備購入など、条件が合わない部分に関しては支払いはされない。