母がお風呂に入っている間、娘と遊ぶ。

おしゃべりに夢中な娘。
きゃあきゃあと、二人で大騒ぎ。

ふと、耳をかすめる、何か。

「……ちゃ~ん」

?

「…~ちゃあーん。」

?

声は段々大きくなる。

「…んちゃーん!」

?!


まさか!

ダッシュでお風呂場へ駆け出し、ドアをあける。
「どうしたのっ?!」


…。
母は、ほかほかの体で思いっきり下着姿で着替えていた。

「…何よ、あんたじゃないわよ。」


溺れたか、倒れたか、したかと思い、心臓が止まりそうになりながら、駆けつけたのに。


勘違いだった。
そして、『ちゃん違い』だった。

溺れて、動けなくて私の名前叫んでいたのかと思った。

違う。

思いっきりさっぱりして、ご機嫌で、最近「ばあばばあば」と後追いする孫を、呼んでいたのだ。


赤ワインを飲みながらの食後にお風呂に入る母を、いつも心配してたことを話す。


「ぜーんぜん。なにそれ。」
と、母は笑う。

笑いながら、ボディスーツの股のボタンを留めていた。


膝ががくがくしている。

娘は、帰ってきた母を温かく迎え、喜び溢れて私の体によじ登ってくる。


濡れた髪を束ねながら、
「倒れそうになったら、自分でわかるから大丈夫よ。」と笑う母。
わかるわけがないでないか。

もう、訳がわからない。


意味のない疾走。
脱力感におそわれ、しばらく動けなかった。


もはや私の存在は完全に無視され、母は娘の名前を呼び掛け、娘は笑顔で答える。

嗚呼。


私は今日もこうして独りよがりに生き急いでゆく。

焦りはよくない。

深呼吸、深呼吸。