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9 Doctors

Snow Manをイメージした医療物語を綴っています。ファンによる非公式・非営利の創作で、実在の人物・団体とは関係のないフィクションです。

 

 

 

 

 

 

 

手術が成功しても、それで終わりではない。

命が助かったその先に、もう一つの戦いがある。

歩くこと。
話すこと。
笑うこと。

当たり前だった日常を、もう一度取り戻すための戦い。

脳外科のエースと呼ばれた一人の医師が、「その先」を守るために選んだ新しい道とは――

 

 

 

 

 

 

リハビリ科医とは

外科医が「手術で治す」、内科医が「薬で治す」のに対し、リハビリ医は「機能を引き出し、動けるようにする」ことに特化している。

リハビリはPT(理学療法士:主に体幹、下半身の動き)OT(作業療法士:腕や手、高次脳機能)ST(言語聴覚士:口、喉、耳)達がそれぞれの分野を担当する。

食事を例にすると、

PTが、食堂まで歩いて移動し、安定して椅子に座っていられるように支える。

OTが、スプーンを握って口まで運び、おかずを切り分ける動作を練習する。

STが、口に入れたものを安全に噛んで、正しく飲み込めるように訓練する……となる。

 

リハビリ医は、これらPT・OT・STのメンバーに「今はPTを重点的に」「STの嚥下評価をしてから食事を開始しよう」といった処方箋(指示)を出す指揮官である。

 

リハビリ医は、ストレートで目指す場合と整形外科医や脳外科医等が転科してリハビリ医になるケースがある。

こーじは『元脳外科医』。

 

彼がリハビリ医に転科した背景とは。

 

 

 

 

 

もう一度、前へ

数年前のSnow Man総合病院。

 

脳神経外科のオペ室には、張り詰めた緊張感が漂っていた。 

 

顕微鏡を覗き込み、コンマ数ミリの血管を捌いていくのは、若き日の向井康二(こーじ)。

 

彼は、普段の明るい「ムードメーカー」の顔を完全に封印し、冷徹なまでに正確な手技で腫瘍を摘出していく。

 

「……バイポーラ(電気メス)。……。……。よし、全摘出完了。……閉頭するで。」

 

オペは完璧だった。上席医も「向井の腕は、うちの脳外の宝」と称賛するほど。

 

命の危機は去り、バイタルは安定した。 

 

しかし、こーじの心には、術後のICUで見つめる患者さんの姿が、拭いきれない影を落としていた。

 

オペから数日後。病棟を回診するこーじの前に、患者さんの家族が力なく立ち尽くしていた。 

 

腫瘍は消えた。命は助かった。

 

けれど、患者さんには重い高次脳機能障害と右半身の麻痺が残った。

 

患者の家族:

「先生……命を助けてくれて、本当にありがとうございます……。……。でも、父はもう、前みたいに笑うことも、私の名前を呼ぶことも、一生できないんでしょうか……?」

 

 

深々と頭を下げる家族の背中を見つめながら、こーじは自分の手を眺めた。 

 

 

 

この手で、脳の機能は守った。でも、この人の「人生」は守れたんやろうか。

 

 

「……オペは成功や。……でも、俺が救いたかったんは、数値やデータだけの『脳』やったんかな……。」

 

 

それとも……この人の『人生』やったんかな。

 

 

ある日の昼下がり。

 

こーじはリハビリ室の片隅で、訓練を拒否して虚空を見つめるその患者さんの元を訪れた。

 

白衣を脱ぎ、私服に愛用のカメラを提げて。

 

「……ちょっとごめんな。ここ座るで。」

 

こーじは何も言わず、患者さんの隣に座った。そして、不意にファインダーを覗き、シャッターを切った。

 

 「……何や、おっちゃん。めちゃくちゃええ顔してるやん。窓からの光が当たって、男前やで。」

 

 

患者さんは、ゆっくりと首を動かし、こーじを見た。 

 

「……リハビリ、しんどいよな。……。……分かるよ。……。……でもな、俺はオペ室で、おっちゃんの『明日』を繋いできてん。……。……おっちゃんがまた、娘さんの名前を呼ぶとこ、俺が一番近くで撮りたいんや。」

 

 

その時、患者さんの不自由な右手が、震えながらこーじのシャツの裾をギュッと握った。 

 

 

言葉にならない、けれど必死な「生きたい」という叫び。 

 

 

その感触が、脳外科医としてのプライドよりも、何万倍も強く、こーじの心を震わせた。

 

その数日後の深夜。こーじは、医局へ向かった。

 

そこには予想通り、黙々と医局で懸垂する岩本(ひーくん)の姿があった。

 

こーじ:

「……照兄(てるにい)。……ちょっと、ええ?」

 

ひーくんはタオルで汗を拭いながら、こーじを隣に座らせた。 

 

ひーくん:

「……また相談か。」

 

ひーくんは苦笑した。

 

「お前ら、どうしてこう大事な話は夜中に持ってくるんだよ。」

 

こーじ:

「……。……。俺な、……リハビリ医に転科しようと思うてんねん。」

 

一瞬、静寂が流れた。

 

ひーくんは驚いた顔を一瞬見せたが、すぐにいつもの冷静な瞳に戻った。 

 

ひーくん:

「……脳外のエースが何言ってんだよ。……もったいなすぎるだろ。お前の腕を、みんなが頼りにしてるんだぞ。」

 

こーじ:

「……分かってる。……でもな、俺……救った命が『日常』に帰るまで、最後まで責任持ちたいねん。……。オペ室の無機質なライトの下より、リハ室の窓から入る温かい光の中で、患者さんが自分の足で一歩踏み出す瞬間を見ていたいんや。……。それが、俺のやりたい『医学』やねん。」

 

 

こーじの声は震えていたが、その瞳には一点の曇りもなかった。 ひーくんは、こーじの肩を力強く叩いた。

 

ひーくん:

「……。……お前らしいな。……。いいんじゃねえの。救うだけが医者じゃねえ。……。……お前みたいな奴がリハビリにいてくれたら、救急で送り出す俺たちも、安心して命を預けられるわ。……。迷わず行けよ。お前が選んだ道だろ。」

 

こーじ:

「……照兄。……。……おおきに。」

 

それから数年。 

 

Snow Man総合病院のリハビリ室には、今日もこーじの笑い声が響いている。 

 

首からは聴診器と一緒に、使い込まれたカメラが提げられている。

 

「お、今日の一歩、100点満点! はい、チーズ!」

 

彼は今、メスをカメラに持ち替え、患者さんの「再生」という名の奇跡を、一枚一枚のフィルムに刻み続けている。 

 

救われた命が、もう一度「自分」を取り戻すために。

 

 太陽のようなこーじ先生の挑戦は、今日も窓からの柔らかな光の中で続いている。

 

 

 

 

 

ーー次回予告ーー

新しい道を選ぶことは、ゴールじゃない。

そこからが、
本当のスタート。

患者の小さな変化を見逃さないために。

元・脳外科医は今日も、
リハビリ室の最前線に立つ。

次回
「 その手に、ぬくもりを 」