三谷幸喜が脚本を書き、タイトルロールは田村正和が演じた。本作は倒叙(とうじょ)ミステリー形式の刑事ドラマで、連ドラ3シーズンの他、複数のスペシャルドラマや、本編後のアフター・ストーリーなどが制作された。
倒叙ミステリーとは、話の冒頭で犯行シーンが描かれ、読者・視聴者に誰が犯人であるかを明かした状態で物語が進行し、どういう結末を辿るかを楽しむスタイルの作品である。田村正和は脚本を読んでその面白さに惹かれ出演を決める。
第2シーズンの最終話は倒叙ミステリー+安楽椅子探偵モノ(事件現場に赴く事なく、人づてに聞いた話だけを手掛かりに推理し、事件の真相に辿り着いてしまうスタイルのミステリー)である。
個人的に勿体無いと思ったのは、犯行に銃が使われたエピソードの幾つか。ある回でも、女性歯科医が別れた恋人を銃で撃ち殺すが、古畑は女性の犯行を見破るだけで、銃の入手経路については全く触れない。舞台がアメリカならそれでもいいが、日本で一般人が銃を入手する事は困難であり、入手方法への言及が成されないままでは脚本として充分とはいえない。
更に、仮に入手可能だったとしても、これまで一度も銃に触れた事がないであろう人間が、計画殺人の凶器に拳銃を採用したという事にも不自然さを感じる。
とは言え、単に海外の猿真似ではなく、日本文化の中での作法やならわしが犯人の犯行を暴くヒントになっていたり、毎回著名人を犯人役に起用したり、殺人を扱うものであるのにコミカルな演出があったりと、オリジナリティある楽しい作品であった。
『古畑任三郎』概要
連載ドラマ
3期に渡り放送。1994年、1996年、1999年にそれぞれ12話、10話、11話が制作された。ドラマタイトルは一貫して『古畑任三郎』であったが、その古臭い名前を目にした人々が時代劇と勘違いしないよう、第1期放映時は予告やラテ欄に『警部補 古畑任三郎』と表記した。その後、1期が成功し作品の存在が世間に広く認知されるようになった事で2期目からは予告やラテ欄もドラマタイトルと同じ『古畑任三郎』に戻された。
『任三郎』という名前は、時任三郎(ときとう さぶろう)が「とき にんざぶろう」と読み間違えられたエピソードを三谷が知った事が元になっている。
第3シーズン第5話の脚本は、当初最終回に使用する予定であった。ストーリーは、犯人が自分の妻を殺人犯に仕立て上げる為、“妻に夫殺害の嫌疑がかかるよう偽装”して自らの命を断つ計画を立てるも、怪しい動向に気付いた古畑に阻止され、事件は未遂に終わるというものだった。シリーズ中 唯一 死人が出ず、かつ犯人が自分自身を殺害対象として犯罪を企てる唯一の回である。第5話はユニークではあるが、被害者が出ないとなるとドラマ冒頭に犯行シーンが作れず、よって倒叙形式に成らない。これが最終回の脚本だったら、大人気倒叙ミステリーの最終回が、倒叙ミステリーではない話でフィナーレを迎える事になる。最後は、“これぞ『古畑任三郎』”という作品で完結するべきであり、別脚本への差し替えは懸命と言える。まぁ結局、最終回放送から4年半後に復活し、『古畑』はまたテレビに帰ってくる事になるのだが。
スペシャルドラマ
田村正和をメインキャストとする単発の2時間ドラマも、連続ドラマとは別に5本制作された。
(1995)古畑任三郎スペシャル 笑うカンガルー
(1996)ドラマスペシャル 古畑任三郎 しばしのお別れ
(1999)新春ドラマスペシャル 古畑任三郎 vs SMAP
(1999)古畑任三郎スペシャル 黒岩博士の恐怖
(2004)新春ドラマスペシャル 古畑任三郎 すべて閣下の仕業
アフター・ストーリー
『今泉慎太郎』のタイトルで放送。連ドラ2ndシーズンと一部スペシャルに連動して全12話が制作された。7分20秒程度のショートストーリーで古畑任三郎は登場せず、コミックリリーフである今泉の、事件後の一幕を描いた内容となっている。『古畑任三郎』が一時期、『警部補 古畑任三郎』と表記されていた時期の影響で、取り上げるメディアによっては『巡査 今泉慎太郎』と表現される事もある。
総集編
いわゆる総集編ではなく、総集編を兼ねた新作である。作品は「ある日、古畑が忽然と姿を消し、捜索が開始される。失踪した古畑の行方を追う為、これまで古畑と関わった犯人や関係者たちに話を聞いて回る」といった内容となっている。田村正和は(過去映像のみで)出演していないのに対し、ゲスト出演者は通常回より異常に多いという特殊な回である。失踪理由が判明するオチまでが描かれている。
(1996)消えた古畑任三郎
ファイナル
『FINAL』と銘打って三夜連続で最終章を放送した。
三夜目に放送されたエピソードでは凶器に拳銃が使われたが、三谷はこのエピソードでは、古畑にちゃんと凶器の入手方法を確認させている。
『古畑任三郎』は田村にとっても想い入れのある作品であり、古畑を演じる事は決して嫌ではなかったが、真面目で几帳面な性格の田村には、すでに最終回を迎えているシリーズが、“人気”を理由に事あるごとに復活する中途半端な現状をもどかしく思っていた。よって2004年の復活に続き、再度企画が持ち上がった今回は、次が自分としても世間に対しても本当に最後で、「もう以降は新作が作られる事はありませんよ」というケジメとアピールの意味も含めての再登板であった。
(2006)新春ドラマスペシャル 古畑任三郎FINAL
古畑中学生
『ファイナル』放送の2年半後に制作されたもので、田村が出演せずとも成立するよう、古畑任三郎の中学時代を描く作品となっていて、メインキャストは山田涼介が務めた。また、後に古畑の仕事仲間となる向島巡査との出会いを描いたエピソードともなっている。本作は倒叙ミステリー形式を採用していない。また、古畑が警部補以前に関わった“死人の出ない回”でもある。制作側はダメ元で田村にもアバンタイトル(プロローグ)パートへの出演を依頼するが、田村は即座に拒否せず色々考え抜いた末に、製作サイドの意向を汲み出演を了承する。田村は再度お気に入りキャラ“古畑任三郎”を演じた。結果として、これが古畑任三郎としての最後の出演となった。制作側の交渉と田村の柔軟な性格が無ければ2006年の『FINAL』が最後になっていたハズである。
(2008)ドラマスペシャル 古畑中学生
見る順番↓
『古畑任三郎』 制作年表
1994年
01. 古畑#1 1期1話
02. 古畑#2 1期2話
03. 古畑#3 1期3話
04. 古畑#4 1期4話
05. 古畑#5 1期5話
06. 古畑#6 1期6話
07. 古畑#7 1期7話
08. 古畑#8 1期8話
09. 古畑#9 1期9話
10. 古畑#10 1期10話
11. 古畑#11 1期11話
12. 古畑#12 1期12話
1995年
13. 古畑#13 笑うカンガルー
1996年
14. 古畑#14 2期1話
15. 今泉#1
16. 古畑#15 2期2話
18. 古畑#16 2期3話
20. 古畑#17 2期4話
22. 古畑#18 2期5話
24. 古畑#19 2期6話
26. 古畑#20 2期7話
28. 古畑#21 2期8話
30. 古畑#22 2期9話
32. 古畑#23 2期10話
34. 古畑#24 しばしのお別れ
37. 古畑#26 古畑任三郎 vs SMAP