150話 : 会議乱入 | 熱があるうちに

熱があるうちに

韓ドラ・シンイ-信義-の創作妄想小説(オリジナルキャラクターがヒロイン)を取り扱っています
必ず注意書きをお読みください
*ヨンとウンスのお話ではありません

 

会議が行われている部屋の前で、止められた。
呼ばれた者しか、中に入れない。

喧々囂々と議論する声が聞こえる。

王は重臣達を信じ、征東行省から逃亡しない。
チェ・ヨン達近衛兵は十二名で王を守護しながら戦っている。

右手に震えは起きているのだろうか。


「良からぬ事が起きると、見えましたかな?」


此処まで何も説明をせずに連れてきてしまったのに、今まで尋ねてこなかったカン・ユンボクが問う。


「いえ。…… 【見た】ままなら、王様も近衛隊も無事です」


時間は掛かるが、重臣達が結論を出し禁軍を出兵し、彼等は無事に帰還する。


「…… ソラ殿?」


ドラマ通りならば、無傷だ。

チャン侍医が私の顔を覗き込むが、険しい表情を崩せなかった。

不安要素は、元赤月隊の岩功の使い手、サナギン。

ドラマでは登場しない人物が、相手側にも存在する事が私の胸騒ぎを増長させる。

しかも、火手引や千音子より手強いだろう。
キ・チョル級の相手。

出来る事なら早く禁軍を向かわせ、征東行省を制圧したい。


「正面突破かな」


不安を拭うように頬を叩いて、会議室の扉を見詰めた。

体当たりすれば、開かなくとも中の重臣達が驚いて開けてくれるかもしれない。


「お待ちください」


やる気満々な私を制止するチャン侍医。

「こちらに」と私とユンボク先生を会議室の正面ではなく、回り込んだ裏口へ誘導する。

チャン侍医は扉を少し開けると、近くに立つ兵士に小声で何かを伝えた。
するとその兵士は、内官ドチに耳打ちする。

そして彼は扉を開けてくれ、私達を中に招いた。

招かざる客が中に入っても、重臣達の論議はヒートアップしていて気付かない。


「王妃様の容態に配慮し、チャン侍医とその助手が同席します」


ドチが声を張ると論議が止まり、視線を集めた侍医は一礼をし、王妃の斜め後ろに控えた。

彼の後ろに隠れていた私も、その後ろから付いてきたユンボクも一礼すると、驚愕した重臣数名が立ち上がる。


「天仙!?」

「カン私淑!」

「カン・ユンボク先生!」


矢張り私の読み通り、彼らはユンボク先生を知っていた。
彼が居る事で、良い方向に行けばいいが。


「私の助手です」


私とユンボクは、あくまで助手として入室したと言い張るチャン侍医。

扉を蹴破り乱入するよりは、穏便に事が運べた。
ちらりと侍医を見遣ると、にっこりと微笑んだので軽く頭を下げる。


「天仙、…… いえ、助手の女人にお尋ねします」

「へ? あ、はい」


イ・ジェヒョンが立ち上がり、天仙としてではなく、ただの女人として問うらしい。


「この国は、どうあれば良いでしょうか」


とてもざっくりな問いが投げ掛けられた。

いま、それ、関係ある?

焦っている私は、冷たい言い方をしてしまう。


「それを考えるのが貴方達の役目では?」

「ご尤もです」

「ただの女人の意見としては、皆が幸せに暮らせれば良い国と言えましょう」

「我等も、そうありたいと願っております」


何を尋ねたいのか分かっていた。

天仙に、この国の行く末を語って欲しいのだろう。


「願うのではなく、有言実行でしょ!」


本来なら男共を奮い立たせる役目は王妃だけど、うだうだと論争をしている場合ではない。


「私が何故、ここに来たのか。…… 知っているからではなく、どうなるか見届けに来ました」

「見届けに、…… ですか?」

「此処は誰の国ですか? 何処からともなくやってきた変な女人の先見に、頼らなければ成り立たない国ですか?」


他人に頼るな、お前達はこの国の重臣だろうが。

私の睨みに委縮したのか、重臣達は頭を垂れる。
母親に叱られた子供か。


「己の利しか考えない徳興君と、貴方達を信じて待つ王様を天秤にかけているのですか?」


重臣達の民を思う気持ちも分からなくはない。
征東行省に禁軍を向かわせれば、元国と戦になり兼ねない。
そうなれば、傷付くのは民達だ。

重臣達はざわざわと話し合い始めたが、まとまらないようだ。


「── いっそ、王を見殺しにすると申せ」


今まで黙っていた王妃が、声を上げた。
王を案じて心穏やかではないのに、虚勢を張るように声を出す。

王は家臣を信じ、いつまでも待つ覚悟があるというのに、と。


「捨てる勇気も、救う勇気もないのか」


凛とした声が響き、ざわめきが止み、静まり返る部屋。

沈黙が続く。

早く決断下せ。


「ほほほっ、女人に此処まで言わせておいて、我ら男達は立つ瀬がありませぬなぁ」


痺れを切らして野次でも飛ばそうと思った矢先、ユンボクが一歩前に出て柔らかく笑う。


「あなた方の目に、あの王はどう映っておる。己の心と命を預けられぬ王なのか?」


再び重臣達は隣の者同士で話し合いつつ、答えを見出していく。



斯くして、満場一致で征東行省へ向けて軍を派遣し、アン・ジェ率いる禁軍が制圧し戦いは終息を迎えた。

徳興君を逃がしてしまい、成果を上げられないまま帰還した近衛隊の表情は硬い。

そして、私の懸念が現実となってしまった事に、自分の存在意義を問いたくなってしまったのだった。








ユンボク先生が思ったより活躍できなかったすまん