114話 : てのひらに一粒ずつ | 熱があるうちに

熱があるうちに

韓ドラ・シンイ-信義-の創作妄想小説(オリジナルキャラクターがヒロイン)を取り扱っています
必ず注意書きをお読みください
*ヨンとウンスのお話ではありません

 

チャン侍医とウンスの入室により会話が中断し、彼は私から離れ、窓を少し開け外の様子を伺っている。


「安静って言ったでしょ!」


ウンスは綺麗な包帯を巻きながら、ぷりぷり怒っているが、ごめん可愛い。
それが伝わったのか、「反省してない」と大きな布を取り出す。


「え、何ですかそれ」


あっという間に、左腕を動かせないように三角巾の要領で固定されてしまった。
骨折したわけでもないのに、とっても不便です。

その時に、ちらりと見えた彼女の腕の包帯。
まだ発熱はないようだ。


「解毒薬はどうですか?」

「チャン先生より先に解毒薬を作れるか、賭けをしているの」

「両者とも、早く完成するといいですね」


必ず完成してほしいと願う。
毒を以て毒を制すやり方は、リスクが高い。

いくら本編で成功しても、今回も成功するとは限らないから。


「こちら、増血丹です。失った血を素早く増加する丸薬ですが、胃が荒れてしまうのでそれを補う薬湯と一緒に噛み砕き飲んでください」


造血剤みたいなものかな。

チャン侍医が、ガムボールほどの大きさの丸薬を差し出し、薬湯も一緒に机に用意してくれた。
どっちも苦そう。

意を決し、丸薬を口に入れ奥歯で噛み砕くと苦味が広がり、顔を顰める。
薬湯を一緒に流し込んでも、口の中は青臭さと丸薬の苦さで言葉が出ない。


「そういえば、切り傷に効く温泉があるって薬員達から聞いたんだけど、どこにあるの?」

「温泉!」


丸薬と薬湯のダメージにより机に突っ伏していたが、温泉の単語に反応してしまう。


「北東の山の麓でしたか …… しかし、湯はひとつしかなく、動物も利用するような場所だと聞きましたが」

「動物って猿とか?」


ニホンザルが温泉に浸かってる映像をテレビで見たことがあるけど、あれが見れるの?


「猪や熊です」

「「 無 理 」」


ウンスと声を揃えて拒否を表す。

猪や熊と一緒に、温泉に入れるか。


「完成しましたので、こちらもどうぞ」


増血丹と変わらない大きさだが、禍々しい深い黒色をしている私の血で作った丸薬を取り出す侍医。


「怪我が早く治るんでしょ。ちゃんと食べないと」


拒否の表情を全面に出していた私を嗜めるウンス。

自分にも効果があるのか分からない。
これで判明するのかと、口に含んで噛み砕く。


「う゛」


先程の増血丹より苦さ三倍。

残りは、それぞれ四つずつ小さな袋に入れて渡すことにした。


「可愛い巾着!」

「トギに作ってもらいました。あまり血丸薬が活躍しないことを願いますが、怪我をしたら遠慮なく飲んでくださいね」

「天仙は持たぬのですか?」


ウンスは、韓紅(からくれない)色の巾着を渡すと、喜んでくれる。
チェ・ヨンには、青藍(せいらん)色、チャン侍医は柳染(やなぎぞめ)色の巾着を渡した。


「私は、ここに流れているし」


心臓辺りを指差す。
私は直接あげられるし。

私がいない時に怪我を負ったら、と作った丸薬なのだから。


「また、そのように斬って血を差し出すおつもりですか」

「そういうの止めてよね。何の為に作ったのよ」

「ソラ殿。ご自分を犠牲にしないでください」


そう言いながら、各人一粒ずつ私の手に乗せていく。

私の手には、血丸薬が三つ。

彼等の巾着の中にも三つ、残っている。

皆、同じ数の丸薬になった。


「トギが貴女の袋も作っていましたよ」


チャン侍医から小さな巾着を受け取ると、その中に血丸薬を入れる。
私のは、白のような薄い水色のような、これは月白(げっぱく)色かな?

三人から、一つ一つ貰った丸薬。

みんなの優しさが詰まっている気がした。


「えへへっ、ありがと」


嬉し涙が出そうだ。

ユンボク先生の言葉を思い出す。


「そして、己のことも話しなさい。自分一人では限界がある。周りを見渡せば、手を差し伸べてくれる者がいるであろう?」


私が視聴したドラマの内容と、此処で起きる事は同じようで違ってきている。
だから、自分一人では対処しきれない。


「あの、…… これからも迷惑を掛けるかもしれませんが、天門が開くまで宜しくお願いします」


頭を下げると、静寂に包まれた。

やっぱり、迷惑か。


「やだ、改まってなに言ってるの? 迷惑だなんて思ってないし、どうしたの急に。熱? また記憶が? 頭でも打った?」


熱を測るように私の額に手を置くウンス。

脈診をするチャン侍医も「異常はありませんが」などと言う。


「いやいや。頭を打ってないし、記憶が飛んだわけでもないです。もっと会話をしようと思いまして」

「当り前よ~、たくさんお喋りしよっ!」


私の発言にウンスは軽いノリで応えてくれる。


「恋バナ的なやつじゃないですからね」

「違うの~?」

「今後の事について、です」

「今後?」

「毒を打たれたウンスさんは、常に命の危険に晒された状態なのですよ」

「わ、分かっているわよ」

「邪魔が入ると思いますが、完成させないと、」

「させないと? え、私、どうなるの?」

「…… どうなるのか明確には分かりません。【見た】内容と色々と違うので。でも、ウンスさんは必ず帰しますから!」


拳を作って高々に宣言する。

彼女は一度、門をくぐらなければならない。
そうしないといけないと、自分に言い聞かせる。


「元国が、…… 正しくは元の断事官がどう出て来るか ……」

「元の使臣が何か?」


あの人が何者か怪しいが、今はそれについては横に置いておく。

私がいるこの世界では、使臣がどんな条件を王に突き付けるのか分からない。
ウンスの処刑か、私か。
それとも両方か。


「色々な条件を提示してきます。ただ、それが私が【見た】ことを同じかどうか、…… よく覚えてない部分もあるのだけど、── 」


簡易的に、これから起こるであろう事を話すのであった。