王と謁見する為、康安殿へ赴く。
王妃も同席し、時折見せるお互いを見詰める柔らかい表情に、二人の仲は徐々に近づきつつあるのだということが伺えた。
この二人の絆は本編通りなのになぁ。
私は隣の王様側に座るウンスと、私達の後ろに控えるチェ・ヨンを盗み見て、小さく溜息をつく。
チェ・ヨンが隠密の軍団について申し上げる。
そして、医仙と私を王妃と共に守れるよう願い出た。
私も、か ……
王妃が承諾すると、王は来たる世の話を聞きたがったが、ウンスはよく知らないと答える。
本編とは違い、余計な事は言わないウンスと、それを止めようとするチェ・ヨンとの言い合いも起こらず、会話は穏やかに進んでいく。
私は喋れないので、たわいない王の質問にウンスが答えたり、王妃から必要な物はないか等の話に、お風呂と柔らかな寝具とか弾む会話を子守唄にうつらうつらとし始めていた。
王の前で寝るわけにはいかない。
太腿を抓ってみたが効果は持続せず、また瞼が重たくなってくる。
昔は完徹など平気だったのに、歳と共に体が辛くなってきていた。
精神的にも辛かったことは確かで、斜め後ろの気配に安心する自分がいるのも確かで ……
カクンと頭が前に倒れそうになったところを、すかさず大きな手が私の額を軽く受け止め、横に倒した。
隣には固くないが柔らかくもない布に覆われたナニカがあって、私はそこに頭を預ける。
丁度いい枕だ。
呑気な私は、そのまま夢の中へ旅立ったのだった。
**
再び目を開けるとそこは坤成殿で、テレポートしたのかと驚いた。
何てことはない、私は寝入ってしまったらしい。
康安殿で寝てしまった後の話をウンスから聞かされ、私は近衛隊兵舎へ足を運ぶ。
彼に謝らなくては。
あの時、額を受け止めてくれた手。
横の丁度いい枕。
そして、私の移動。
全部、チェ・ヨンがしてくれたなんて。
申し訳ない…
隊員が私の軽い会釈に対して返してくれるものの、どうしたのかという表情で振り返られる。
二階の彼の部屋へ上がろうとすると、トルベさんに止められた。
「天仙様!? どうされたのですか?」
尋ねられても声が出ないので答えられないから、上を指すしかない。
「隊長に用が?」に対して頷く。
「チェ尚宮が、いらしておりますが、」
慌てていたので失念していた。
あの場面に遭遇してしまう。
私はこっそり部屋の前で聞き耳を立てる。
なぜかトルベさんも中の様子が気になったのか、同じように戸に耳を当てた。
「天仙が間に合ってよかった」
この世にお前を止められる人がいた。と、甥に声を掛けるチェ尚宮の声が届く。
その役目は私で良かったのだろうかという疑問が、まだ渦巻いているのだが。
「おかげで大変になった。敵がキ・チョルだけじゃ済まなくなった」
あ。叔母さんから頭を叩かれているな。
チェ尚宮も怒っていた。
甥が死を受けいれる覚悟であった事を知っていたから。
でも自分では止められなかったから、私に託した。
それから本編通りの会話が進み、書筳(ソヨン)の出席者の避難。
間者を利用し、七殺(チルサル)をおびき寄せる作戦。
「それで、あの方は何と言って止めた?」
「捨て身で …… 」
え、盾に躓いて転がってヘッドスライディングが捨て身なの?
「剣を持ち対峙する俺達の間に立ち、キ・チョルさえ脅した」
「それだけか?」
チェ・ヨンが言葉に詰まっていた。
うん、それだけだからね。
「俺を気遣う手紙を残し、………… 自決するかと思われたあの方が目の前に現れて、」
「自決だと?」
「それは誤解だった。逃亡はするが自決を選択するお人ではない」
「あの娘と重ねたか」
「違う! あの方はメヒではない!」
隊長の大声にトルベが驚いて、戸に槍が当たり音を立ててしまった。
僅かな音だったがチェ・ヨンが気づき、戸に近づいてくる。
トルベに、それを身振り手振りで教えても伝わらないので動かない。
「何をしている」
戸が開き、低い声色で尋ねられた私達。
私はトルベの手を引っ張り戸から遠ざかろうとしている格好で、トルベは急に開いた戸に驚き鬼の形相の隊長に顔を引き攣らせ固まった。
そのまま私はトルベの手を引き、自分がチェ・ヨンの前に出た。
「あ、あー …… 天仙様が隊長にご用があるそうで」
案内ありがとう。の意を込めてトルベに頭を下げると、そそくさとこの場を後にした彼。
「盗み聞きですか」
え~ 何のこと~?
真顔を作って首を傾けたが、おそらくバレているだろう。
それについて追求を諦めた彼は「何か?」という顔をしていた。
先程の件の謝辞を述べさせて。
貴方が、私の頭が机にぶつかる前に止めてくれ、自分の身体で私を支えてくれ、寝てしまった私を運んでくれたから。
「その様な事で、この兵舎までお一人で来られたのですか?」
うん。
あと、お願いがあったの。
両手を合わせてポーズを作ると、目を丸くして驚いていた。
何故だ。私が頼る事などないと思ったのか。
成り行きとはいえパートナーになってしまったのだから、腹を括ろうと思ったのだ。
少しは頼ったり今後の事を伝えることぐらいいいだろうと。
私の想いについては、余計な感情なので蓋をすることにする。
だから普通にパートナーとして助け合い、共に戦おうと考えた。
まぁ、あれだ。
推しだと思えばいいのだ。
登場キャラだし。
今日も推しの顔がイイ!
私の後方にまだトルベが居たらしく、彼は視線で叱りながら私の腕を取り部屋の中へ入れる。
何気に初めてかもしれない、此処に入るの。
ドラマで見ていた隊長室に入れて、少々テンションが上がる。
「…… 叔母さん、まだいたのか」
彼女は、私を部屋に招き入れた甥に驚いている様子。
その言い方は、失礼でしょ。と、肘でチェ・ヨンを小突く。
叔母さんは貴方を心配して私の所に来たのよ、感謝しなさい!
と、腰に手を当てぷんっと怒った仕草をする。
普段ならそんな仕草をしないが、声が出ないので分かりやすい動作と視線で会話しなければならない、この恥ずかしさを誰か分かってくれ。
彼は頭の後ろをガシガシと掻いた後、叔母さんに「心配かけた」と頭を下げた。
私も彼女が来てくれなかったら、助けられなかったと思うとゾッとする。
同じように彼の隣で頭を下げた。
チェ尚宮は、先程より一層目を見開いて私達を凝視する。
我に返ったチェ尚宮が部屋を出ると、私は此処に来た目的を視線で訴えるのであった。
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