今どきカフェの動向 -映えから質の追及へ- | 島村 美由紀

島村 美由紀

都市計画、商業施設計画、業態開発等のコンセプトワークやトータルプロデュースを手掛ける
弊社代表・商業コンサルタント 島村美由紀の執筆記事を紹介していきます。

今どきカフェの動向 -映えから質の追及へ-

販売士 第53号 (2024年6月10日発行)女性視点の店づくり㊳ 掲載

 

 

むかしのコンビニ、今は人気のトレンドカフェに

 

 都心の目抜き通りのある場所はむかしPファッションビルの出店(でみせ)雑貨屋でした。歩道から7段の階段をあがるため店に気付く人はなく、やがて店はなくなりました。しばらくしてコンビニが入店しました。大手コンビニの看板効果は抜群で超繁盛店になりました。しかし数年で突然閉店。聞くと人手不足で運営が上手くいかず近くの系列店に吸収されたそうです。

 

 数ヶ月後、内装工事が始まったので興味津々に見ていたらギャラリーになりました。でもいつまでたっても展覧会は開催されず不思議に思っていました。静かでシンプルな空間をギャラリーと思い込んだのは私の誤解で、その店は“オーガニックがテーマのカフェ”だと気付いたのが昨年春です。

 

 全体がホワイト&ライトグレートーンの店内、家具は木製と白リネンのソファ。植物が数鉢天井からハンギングされています。とてもプレーンな店ですが、ガラス張りの店内から通りの人や車の往来が眺められ、7段高い位置の店だからこそ落ち着く雰囲気の良い店となりました。朝8時~夕方7時までの営業でペット可。コーヒーもフードもオーガニックを切り口にした優しい味わいのメニューばかりで、コーヒー・ミルク・紅茶には産地のこだわり、スイーツはグルテンフリーです。都会の喧騒から逃れられる穴場カフェで私にはありがたい店でした。

 

 が、今年になりにわかに女性来店が急増しました。スタッフの話では「SNSで皆さんが紹介してくれる。」のだそうです。18才~20才後半のひとり女子や2~3人の女性グループで店は繁盛。最近はインバウンドのグループ来店もあり人気になっています。ネットでチェックすると「韓国のカフェに行ってきました」「ダイエット中、ヴィーガンの人も安心のオーガニック」「淡色カフェ!ペットにもやさしく」とあります。“淡色カフェ”とはまさに今のトレンドをあらわす言葉だと感心しました。

 

 

 

お客が絶えない小さな淡色カフェ

  

 その店は都心から少し離れた住宅地にあります。間口は小さく店舗は目立つ華やかさはありませんが、儚げで繊細さがあり、ある種のオーラを放ってます。店に入るとオープンキッチンで2人の女性が働いています。ひとりはお菓子作りのパティシエ、もうひとりはハンドドリップコーヒーの担当です。カウンターで焼菓子の販売もしています。奥には席が10席程度。とても小さな“スイーツ&カフェ”ですが2人の女性のこだわりが隅々まで感じられます。コーヒー豆は九州の著名焙煎工房からの仕入れ、また自家農園産有機ジュースを揃え、焼菓子はパティシエの腕がひかります。コーヒーもクッキーも少し値は張りますが美味しい!!知る人ぞ知る店で平日でも次から次にお客が切れる事なく来店します。聞くところによると昨年末に隣街から移転したのだそうです。

 

 そしてこの店も“淡色カフェ”。店内は清潔なホワイトトーン。カウンターと什器は木製ですが、シンプルな空間にシンボリックでかわいらしいグラフィックが描かれていて印象を強めています。

 

 

 

映えから質へ。


 この2店の店は好立地ではありません。1軒目は目抜き通りのはずれの中途半端な高さの店舗、2軒目は住宅地の中。しかしお客様からの支持があります。

 

 カフェブームになって長い時間が経ちました。街から喫茶店がなくなり、96年にスタバが上陸しコーヒーチェーン店が急増。並行してパリ風カフェにベーカリーとレストランを組み合わせたような店が2000年代から各地に各種できあがり、近年では「カフェごはん」という言葉も生まれました。その後、コロナ禍前後からインスタ映えする派手でお洒落な内装や、見栄えのよいスイーツやドリンクがある店が撮影目的来店もあり人気になってきました。しかし、最近はSNS疲れも出てきたのでしょう、Z世代を中心に「行ってきました」的な他人の表層的情報に拒否感を発し始めています。見栄えより本質を持った店の価値に気付きだした人たちが現れています。

 

 原料・味・サービス・店の姿勢などしっかりした本質をわきまえた店のあり方が評価され始めています。店内はシンプルで余計な手を加えていない。しかし、提供メニューや技術や運営方法で店のコンセプトをしっかりと表現し、客の支持を得る。こんなカフェがこらからのキラリと光る店づくりには重要なポイントとなり、カフェの新潮流になってくると思います。

 

 

 

(島村美由紀)