モダンに刷新 土日もにぎわい-東京・八重洲の地下街「ヤエチカ」- | 島村 美由紀

島村 美由紀

都市計画、商業施設計画、業態開発等のコンセプトワークやトータルプロデュースを手掛ける
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モダンに刷新 土日もにぎわい

-東京・八重洲の地下街「ヤエチカ」-

(日経MJ デザイン 2024年(令和6年)4月24日(水)掲載)

 

 

 東京・八重洲地区は再開発ラッシュで超高層ビルが次々に計画・竣工されている。ビジネスや交通、宿泊、教育など多様な機能が集積し、新たな人流を生んでいる。その八重洲地区にある地下街「ヤエチカ」は、1965年に開業した古くからある地下街だが、地区の変化と時代に合わせたリニューアルでイメージチェンジをはかっている。

 

 

休憩所・飲食店新設、憩う場に

  

 東京駅と日本橋・八丁堀・銀座方面をつなぐ八重洲地下街は1日に約15万人が通行する駅前の大動脈だ。端がどこか分からないほど広く、通路が複雑で迷路のよう。おしゃれな店より実用的な店、旅や仕事の不足品が探せる頼りになる場。こんな定番地下街のイメージだったが、最近通りかかると“カッコいい地下街”にイメチェンしていた。

 

 2022年にリニューアルが始まり、“Yae-Chic-Style”のコンセプトに沿って、全ての天井の造作替え、主導線の床貼替えなどを実施。空間デザインを一新させた。名称も「ヤエチカ」とし、かつてあった八重洲橋をモチーフにしたロゴマークを発表。ロゴの橋の上の文字は街を行き交う人の姿を模したデザインで、街と街を繋ぐヤエチカの役割りを表している。

 

 駅から地下街への入り口となるメインアベニューは幅21m、長さ64mと400坪超の大空間だ。大胆なジオメトリックなタイルの床デザインと、白ベースの天井に黒のスリット照明を用い、インパクトがあるモダンな“TOKYOの顔”となっている。

 

「全体天井の造作を変えるのにはコストがかかったが、地下街は暗く重い印象になりがち。最も長い通路は200mもある。それを刷新すべく長い通路を爽快に美しく保ち、人を奥まで導くためのデザインを計画した」と八重洲地下街の丹羽亨専務はいう。

 

 また以前は椅子がなかった地下街に4ヶ所の休憩スペースをつくり、椅子や植物、喫煙所を配置。空間全体に音を広げるスピーカーやアロマディフューザーを設置するなど通過する場から居心地よく佇む場に変え、好評だ。

 

 他にも地下街には珍しくトイレを全面リニューアルしたりベビールームを新設したりとホスピタリティーを感じる場になった。これらが総じて「地下街カッコよくなった!」との印象を深めているのだろう。

 

 店舗構成にも2つの鍵となるコンテンツを投入した。1つは人気カレー店4店舗が出店する「TOKYO CURRY QUARTET」。もう一つは「東京ラーメン横丁」で、ラーメン店7店舗を集めた。どちらも小さな空間にオープンキッチンの小規模店を集めた屋台感覚の演出で、女性ひとりでも気兼ねなく利用できそう。以前は人通りの少なかったゾーンだが、今は開店時から客が入り昼や夕方には行列ができるほど盛況だ。

 

 180店舗が出店する広い地下街をブラブラすると従来の地下街らしからぬ店がいくつも発見できる。ニューヨーク・トライベッカのダイナー、南インド料理の有名店、原宿にあるカフェ、北海道物産店-。足早に通り抜けてはもったいないような魅力的な個性ある店がある。

 

 他方、昔から周辺のサラリーマンの胃袋を支えてきた地下街の役割はさらに活性化されている。安い・早い・うまいの飲食店がにぎわいを呼び、東京駅を挟んだ丸の内側からの利用者も多くいるそうだ。「店舗利用者は通行人の3割。記憶に残り立ち寄りや目的来店してもらえる店舗をいかに増やすか」(丹羽氏)を課題に店舗計画を進めているという。

 

 ヤエチカがある東京都中央区は10年間で約35%も居住人口が増えているエリアだ。従来はオフィスワーカー中心の平日型だったがヤエチカになってからは土日にわざわざ食事や買物に来る地域客も増え、約30年ぶりに売り上げは200億円を突破。リニューアル効果が鮮明となった。

 

 八重洲エリアの再開発は29年頃まで続く。ヤエチカが、インバウンドを含めた新しい人流を街の変化の歩調に合わせて上手にキャッチアップする事に期待したい。

 

 

(島村 美由紀)