工芸品の処分は、本当に頭が痛い。
伯父はここ20年くらい、一部の工芸品を貸して収入を得ていた。
この汚屋敷の半分以上の面積を、工芸品が占めていて、ホコリを被った工芸品が「汚屋敷」のベースとなっている。
この工芸品…
販売業者のサイトやオークションサイトで調べると、大型のものは販売価格が10万~40万円程度する。
それが、大量にある。
でも、自分でオークションサイトに出品するには数が多すぎるし、販売サイト開設できるけど、現実的じゃない。
全て処分するのに、どれだけ時間がかかるだろう…。
しかも、伯父はこの期に及んで、売るつもりはない。
伯父にとっては、この工芸品たちは自分の子供であり、自分が生きてきた証であり、この家に居る理由であり、収入を得ていることが自分の存在意義になっている。
それは、私もよく分かっている。
ただ、貸し出すのは家にある工芸品の1/20程度で、その他はこの家のいたる所に無造作に積み重ねられ、ホコリを被って、ネズミにかじられたりしている。ならば、欲しい人のお宅に置いてもらう方が、よほど作品が生きると思う。
今年のはじめに、売るつもりはないが「博物館などにまとめて譲渡してもいい。」と言っていた。
伯父は無駄に上流思想が強い。
私の祖父は獣医で、学生時代から留学中に自分が研究した動物の標本骨格を博物館に寄贈し、名前が残っている。
伯父もそうしたいのだろうけど… 伯父は”博士”ではなく、ただの工芸家なのである。
しかも、悪いけど…
伯父は腕が良くない。
全く迫力とか力強さがない。
同業者に作品の引き取りを打診したら、古い事に加え、これらの理由で断られた。
が!
以前、企画展示で貸し出ししたことのある博物館の方から、譲渡していただきたい。という連絡が来て、コロナでなかなか実現しなかったが、やっと寄贈品のリスト作成に来てもらえることになった。
そのため伯父には、現在貸し出ししているものは返却してもらい、新たな貸し出しはしないように言っていた。
去年の年末に大きな料金トラブルがあってから、もう廃業にして貸し出しはしないように言っていたが、弁護士に内緒でこっそり貸し出していた。
たまたま返却時に私が居合わせて発覚しましたが、いつ 誰に 何を いくらで貸したか、帳簿を書いていない。
弁護士さん、困っちゃうだろうな…。
博物館の方が来る当日に、すべての工芸品が返ってきているだろうか。なんて心配をしていたら…
「え?寄贈?博物館の方がいらっしゃるのは…貸し出しじゃないの?貸し出しだと思ってた。」
「はぁ…?」
伯父の気持ちを大切にし、コロナ禍が続く中、わざわざ地方の博物館の方に来てもらって寄贈するのでなければ、老人ホームに入ったら、一気に業者に引き取ってもらいます。
もう、伯父はそういうことも、思い及ばなくなってしまったか、それとも「この工芸品が無くなったら、自分は老人ホームに入れられてしまう。」と思ってとぼけているだけか…。
どちらでもいい。
今年に入って、伯父と伯母のためにできるだけ時間を確保してきた。伯父と伯母を一番に考えて、どこにも出かけていない。子供たちも。
伯父と伯母のために使える時間も、そろそろ限界がきている。
今年いっぱいと決めている。
あと3ヶ月もない。
何より、伯母はみるみる弱ってきて、伯父はどんどん記憶が怪しくなっている。
なのに私以外、それを把握している人がも、ふたりが安心して生活できる場所に移動させる決断と準備をできる人も居ない。