今を春べと | 固ゆで卵で行こう!

固ゆで卵で行こう!

ハードボイルド・冒険小説をメインにした読書の日々。


時に映画やRockな日々。またDragonsを応援する日々。そして珈琲とスイーツな日々。

 

 

幼稚園に通う息子の郁登の付き添いで、子供向けの競技かるた教室に通うようになった39歳の希海もかるたに夢中になり、家でも一緒に練習するように。

しかし、郁登は小学校にあがるとサッカーへと興味を移し、かるた教室をやめてしまう。

今度はサッカー経験者の夫の勇介が張り切る中、かるたの札を払った感覚を忘れられない希海は、サッカー教室とかるた会の日が被ることなどに悩みつつも、今度は大人向けの会に通うことに…。

 

 

 

読みながら希海と共に、喜んだり、怒ったり、悲しんだり、一緒になって悩んで考えてみたりしながらも、最後は幸せな気分で本を閉じることができました。

 

 

40歳にして競技かるたの魅力にハマった主人公の希海。

 

けれども趣味を楽しむには、時間もお金も必要。これはもう痛いほど分かります。

 

自分も本は沢山読みたいし、ライブも観に行きたいし、山もあちこち登りに行きたいし、遠方の友人知人にも会いに行きたいし、それに映画やドラマ、アニメだって観たいし、美味しいものも食べにも行きたい。

 

なんか、自分って・・・欲望まみれの人間みたい(笑)。

 

でも、希海にとって趣味を続けること、楽しむことは、母親として、妻として、そして自身の両親や夫の家族との関係といったものなどが問題となってきます。

 

価値観は人それぞれかも知れないけれど、それを押し付けられるのは辛いですし、特に母親という立場は、よりそういったものが顕著なものとなるのは間違いありません。

 

ちなみに希海に価値観を押し付ける人の中で、夫の勇介の妹が一番うざかったですし、腹立たしく思えましたし、希海がよくぶちキレなかったなぁと思いました(笑)。

 

 

また、周りからは優しく理解ある旦那と思われている夫の勇介について。

 

「確かにそうかも知れないけど、そうじゃないんだ」と、うまく言語化できない希海が胸に抱くモヤモヤや腹立たしい気持ちというのも共感できるものが。

 

これって一緒に長く生活していくうちに、相手に対して求めるものや理解して欲しいことについてお互い口にせず、知らずに我慢したり、我慢を強いていることも原因なのかも。

 

そうしてそれが爆発した後、希海と勇介の二人がどう感じ、どう思って関係修復にいたるのか、ドキドキとヒヤヒヤとした心配と共に、いっそのこと修復なんてしなくてもいいんじゃないかと無責任にもけしかけたくもなったりして(笑)。

 

でも、我が身を振り返ってみると、同じように言葉足らずのことが往々にしてあると思いますし、うん、反省しないと。

 

 

ところで、かるたに夢中になった頃の郁登が百人一首の歌と実際の風景を重ねる場面は美しくて、ちょっと泣きそうにもなったりしました。そしてその他にも印象に残る場面が沢山。


 

希海が札を払いその感触を忘れられない姿や、序歌に惹かれる場面。


夫婦仲が悪くなった後に、夫の勇介がことを「ママ」ではなく名前で呼んだ場面や、いつの間にかるたと希海について理解しようとしていた姿。


他にも実の両親から希海がまるで個人として扱われていないかのような場面や、義父母への対応方。


希海にとって心休める場所、喫茶たまさかでの珈琲の香り。


希海のママ友が、子供ができる前に沢山あった趣味はどこにいったんだろと、どこか寂し気に呟く姿。


息子の郁登がかるたを辞めるきっかけになった癇癪を起した時の気持ちに気付く場面や、試合でお手つきをした際に申告するか悩む場面などなど…。


 

鮮やかな場面もあるけれど、主婦として、母として、そして40歳のひとりの女性としての生きづらさというのが、かるたを通じてリアルに描かれており、だからこそ希海を応援したくなります。

 

そうそう、印象深い場面でいえば、D級試験の際に対戦相手の子供に対して「こんクソガキが」と心の中で言葉にしている場面も忘れられません。

もしかして著者も競技かるたをする中で同じような場面で同じように思ったのかな、なんて(笑)。

 

 

それから、競技かるた自体についても読んでいて目に浮かぶようで分かりやすかったです。

 

漫画の『ちはやふる』は大好きで、アニメも映画も観ましたし、夏に放送されていた映画版の続編となるドラマ『ちはやふるーめぐりー』も大好きだったので、ある程度は分かっているつもりではいました。

 

でも、本書でより理解できた気がしますし、ドラマが終わってからも気が付けば頭の中で「なにわづに~」と序歌が流れていた自分としては、本書を読んで序歌のことが、より好きにもなりました。

 

 

実は冒頭で、癇癪を起こす子供の前で絶望に駆られている母親の姿を見せられた時は、リアルな姿だとしても、この物語の行く末が恐ろしいものになるのではと不安に思えました。

 

しかし、エピローグで描かれる未来には、まさに希望や愛が溢れていて、希海と同じような立場や悩みをもつ人への応援と同時に、著者自身の夢も描かれているのかな、なんて思うと幸せな気持ちになれるものがありました。

 

そして、こういう未来を描けるというのも、老若男女問わず競えるかるたの世界の素晴らしさなのかも。