ジョージア州、ユニオン郡の保安官ヴィクターは、デイト郡で同じく保安官を務めている弟が車に轢逃げされ死亡したとの訃報を受ける。
確執のあるフランクとは長年連絡も取っていなかったが、弔問に訪れた先でその存在すら知らなかった姪のジェニファーから、父親の死の真相を調べて欲しいとお願いされる。
最初はそんなつもりも無かったヴィクターだが、地元警察への不信感が芽生え、調査する事に…。
著者の『静かなる天使の叫び』も良かった記憶がありますが、本作もまた実に良かったです。
保安官のヴィクターが喧嘩別れし疎遠となったままの弟フランクの訃報を受けて始まる物語。
事実と現実に直面し、周囲に壁を作ってきたヴィクターが己の人生を取り戻していく様子が、弟の事件と共に少女が殺されて発見された事件を軸に、じっくりと描かれています。
事件の裏にある事実やヴィクター自身が抱える悔恨や怒り、贖罪の念など、全体的に暗いトーンで覆われていますが、登場人物たちの会話には思わずニヤリとしてしまうようなユーモアが多々、差し込まれている事もあって読みやすいですね。
ヴィクターと弟との間に出来た確執については終盤まで明らかにされませんが、その理由については、ヴィクターにも理由があるにせよ、それでもやはり自分がヴィクターだったら許せないかも。
それはさておき、事件を通じてヴィクターと関わるようになる各登場人物も魅力的でした。
なんといっても、純真ながらもちゃんと現実を理解しているような聡明さも見せる弟の娘であるジェニファー(ジェンナ)。
弟が死ぬまでその存在すら知らなかった彼女がいなければ、ヴィクターも弟の死の真相を探る事は無かったでしょうし、氷のようだったヴィクターの心も溶ける事は無かったでしょう。
二人で出かけた際に、ジェンナの姿が見えなくなった時のヴィクターの焦りといったら…!
そして、ヴィクターの側で常に支えてくれる受付係のバーバラもまた素敵な女性でした。
ヴィクターを心配しながらも時に叱咤するように全力でサポートする、有能過ぎるぐらい有能な仕事上のパートナー。
バーバラもまたヴィクターの心の拠り所の一つだったと思います。
更に管轄を超えてヴィクターに協力してくれる保安官仲間とのやり取りには、バーバラとの会話でもそうでしたが、飛び出るちょっとした格言めいた金言も響きましたし、事件解決に向けて動いてくれる姿には胸を熱くさせてくれるものがありました。
そういった人間関係と事件の背後をメインにじっくり描かれていた前半から一転し、後半は怒濤の展開。
この辺り、やはりこういった強引な手法でしか解決には至れないのかなとは思いましたが、ヴィクター達の激情に煽られるように熱くなりながら一気読みでした。
しかし人命が掛かっていたとしても、あれだけの事をして全部無かった事にできるんでしょうかね。
こういう大雑把な感じ、嫌いじゃないですけど(笑)。
ところで先に著者の『静かなる天使の叫び』も良かったなんて記しましたが、実をいうと良かった事だけ覚えていて内容はほとんど忘れていたりして。
でも、本書をきっかけに著者の他の作品も紹介されると嬉しいですね。

