『ブレグジットの日に少女は死んだ』 イライザ・クラーク | 固ゆで卵で行こう!

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2016年6月、EU離脱を問う国民投票が行われた日、ヨークシャーの海辺の町で16歳の少女が、同じ高校に通う少女3人により暴行を受けた上にガソリンをかけられ焼き殺される。

ジャーナリストのカレリは事件当事者や関係者から話を聞くなど取材を重ね、その内容をノンフィクションとして発表する。

しかし、そこに記された事や取材方法に問題があるとして本は回収となる…。

 

 

 

 

ブレグジット、EU離脱を決める英国国民投票の日に焼き殺された少女の事件のノンフィクションを執筆した顛末を描いた、疑似ノンフィクション犯罪小説。

 

『トゥルー・クライム・ストーリー』のような感じですが、それ以上にノンフィクションと思えるような作風になっています。

 

読んでいながら「あれ?これってフィクションだよね」と、思わず何度も確かめたくなったり、自分に言い聞かせたり(笑)。

 

これは舞台となる町が実にリアルにその歴史からして描かれている事や、事件の関係者が語る内容にもリアルな声が感じ取れるからでしょうか。

 

その中でも特に注釈が曲者で、もっともらしい事が書かれているけど、これも全部著者の創作なんですよね。

 

ついつい「へー、そうなんだ」「そういう事なのか」と信じてしまいそうになるなど、現実と虚構の狭間へと読者をうまく誘う仕掛けとなっていて面白かったです。

 

 

さて、本書はライターが関係者に聞き取りをした内容をまとめて一冊の本の形にしたものといった体裁をとっているものの、そのライターが取材した内容やインタビューを切り取り、そして都合のいいように編集し、読者に対して印象操作しているのではとの疑いをもたれているという、入れ子のような形を取っています。

 

もっとも、ジャーナリストのカレリが関係者から聞き取った内容自体も、それぞれの主観や主張が多分に入っているため、そもそもどこまでが真実なのか不明というのが、より本書の真実性を怪しくさせるものがあります。

 

とはいえ、それぞれの視点で語られる真実には、誰もが悪意を抱えている様子に苦しくなってきます。

 

少女特有の自意識が生む、いじめ、差別、見栄の張り合い、嫉妬、SNSの闇、歪んだ仲間意識などといったものが、鬱々と訴えかけてくるものが。

 

それはもしかしたら多かれ少なかれ、誰もがもっているような部分が表面化されているのかもと思うと、余計に怖さが募ってくるようでもあり、読んでいて心に澱が溜まるようで、なかなかに読む切るのに時間もかかってしまいました。

 

少女たちの関係性はちょっとした事でバランスが変わっていき、それは次第に狂気めいているのだけれど、もしかしたら傍から見たらどこか滑稽なものなのかも。

 

そうして語られたそれぞれの真実の果てに、カレリが語るものとは一体?!

 

どんでん返しのようなミステリ的仕掛けはありませんが、最後の最後まで気が抜けない、そんな作品でした。