『7月のダークライド』 ルー・バーニー | 固ゆで卵で行こう!

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駐車違反の延期手続きに向かった先で、ハードリーは虐待を受けていると思しき子供たちを発見する。
児童相談サービスに通報するも進展が無い様子に、ハードリーは子供たちを救うべく自ら行動に出る。



寂れた遊園地で働く、その日暮らしのようなバイト生活を送る主人公のハードリー。

マリファナを一緒に吸う友人達とも、どこか希薄な関係で、将来に望みも無く現状に満足していた彼が、虐待されていると思しき子供たちを見てから、自身の中で何かが変化し、子供たちを助けようと動き出します。

当然、最初は児童相談サービスに助けを求めるものの動きが無い事を知り、自分自身でなんとかしようとするのですが、そこでハードリーは元探偵のフェリスという女性から助言を受け、自分で考え、そして行動するようになります。

この辺り、自主性に目覚める様子と共に、意外に探偵としての才能があるかのような姿が、どこかユーモラスな口調と共に描かれており、読んでいて楽しかったです。

また、漫然と暮らす毎日から脱却し、「変わりたい、変われる」と信じ行動する様子は、同じように思ってもなかなか行動できない自分からは、眩しくも羨ましいような思いと共に、ハードリーの熱にあてらるように、その姿を追わずにいられませんでした。


それにしても周りから反対される中で、どうしてそこまでやろうとするのでしょうか。

子供たちを助けたいから?
生き方を変えたいから?
亡くなった母親が自分を信じていたから?


語り口がユーモラスで、ハードリーを助ける周りの人たちも魅力的で全体的に明るい印象はあるものの、やはり切ない物語。

行動理由はどうであれ、ハードリーが虐待を受けている子供たちと目が合う場面は印象的で、特に子供たちがハードリーを認識する場面には、思わず、ぶわっと涙が…。

とはいえバイト先で演じていたゾンビのように、まるで死んだまま生きていた状態から本当の意味で生きるようになったハードリーにとって、それは幸せな事だったのでは無いでしょうか。



さて、本書はハードリーの一人称で描かれており、それゆえにハードリーが見聞きしたもの以外、読者は知りようが無く、色々と分からないままの事も多いのが特徴でした。

本当に潔いまでの一人称はまるでハードボイルド小説かのようにも思えるのですが、この辺り、ハードリーの生を追体験できるかそうでないかで好みが分かれそうかも。


それからハードリー以外の登場人物についても。

里親の元で育てられたハードリーには血の繋がらない兄がいて、その兄はハードリーと正反対な完璧な人生を歩んでいるように見えます。

これはハードリーの生き方を強調するためなのでしょうか。

血は繋がっていなくとも、兄弟の絆があるというようなベタな展開が無いのは良かったかも。


そしてバイト先にはハードリーを慕うサルヴァドールという少年が。

ハードリーは何かとつきまとってくるサルヴァドールに辟易して邪険に扱ったりしていましたが、どうやらサルヴァドールは発達障害のようで、最後まで明確にはされませんが、終盤の母親の言葉でその事に気付きました。

ハードリーはやむに已まれずサルヴァドールを子供たちを救う計画に入れる事になりますが、そんなサルヴァドールに悲劇が起きないよう祈るように読みました。


それから何かとハードリーを助けてくれる役所勤めでゴスファッションのエレノアは、どこかエキセントリックな言動をするのですが、実は意外にいい人。

うん、人は見た目で判断してはいけませんね(笑)。

二人が本当の友人同士へと関係が変化していく様子が愛おしかったです。


そのエレノアのおばあちゃんというのも面白いキャラクターでしたね。

古いロックが好きな彼女を車に乗せている時に、ハードリーがさりげなく最近の曲を入れるシーンが何故か印象に残ります。

しかし、エレノアさえ扱いに困っているおばあちゃん、なぜハードリーを気に入ったんでしょうね(笑)。


そして元探偵で、ハードリーに助言をくれるフェリスは、魅惑的な女性。

「ジャズのような」という描写がありましたが、それって蠱惑的で煽情的な感じでしょうか。
探偵時代の事や、探偵をやめて不動産屋になった理由、それにこの先の彼女の物語も知りたくなりますね。


ところでハードリーがガレージを住まいとして借りている大家のバークについては、この物語の中で一番嫌いな人物かも。

バークがちゃんとした大人であれば、と思わずにはいられなかったです。


ちなみに読んでいる間は全く思わなかったんですが、ハードリー自身、もしかしてある境界線に近い人物なのではとの意見を、同じく本書を読んだ妻から聞きました。

むむ、そうなのかな?!

言われてみればそう取れる描写もありますが、実際のところどうなんでしょうか。

読んだ人の意見や感想を、改めて聞いてみたくなりました。




ところで、ルー・バーニーが日本で紹介されるのも本書で3作目ですが、『ガット・ショット・ストレート』の続編も含め、未訳のものも是非とも翻訳されないかと期待しております(ハーパーコリンズ・ジャパンさん、お願いいたします!)