『受験生は謎解きに向かない』 ホリー・ジャクソン | 固ゆで卵で行こう!

固ゆで卵で行こう!

ハードボイルド・冒険小説をメインにした読書の日々。


時に映画やRockな日々。またDragonsを応援する日々。そして珈琲とスイーツな日々。

 
『自由研究には向かない殺人』から始まるピップの〈向かない〉三部作の前日譚。

友人宅で、それぞれに与えられた役に扮し、進行表に従い、屋敷で亡くなったとされる人物を殺した犯人を当てるという、マーダー・ミステリ・ゲームに参加したピップ。

大学受験を前に自由研究のテーマに悩みゲームに参加する場合では無いと、最初は乗り気では無かったけれど、ゲーム内の設定と自身の役に没頭し、次第にのめり込んで推理する様子が、後にピップが町で起きた事件の真相解明にのめり込む姿に重なります。

三部作の完結編で受けた衝撃から、どういう気持ちでこの前日譚を読めばいいのかと複雑な気持ちを抱いていましたが、まずは三部作に比べて随分薄いのに衝撃。

本屋さんで手に取った際に思わず心の中で「薄っ!」と叫んでしまいました(笑)。

しかしながらその薄さとは裏腹に中身は立派な本格ミステリーが、実際の事件では無くあくまでゲームとはいえ展開され、ピップが導き出す〈真実〉にはきっと唸らされる事でしょう。

それでいて三部作に通じるような苦みのある結末が待っており、ピップの真実を求める姿、正義を求める危うさの片鱗が透けて見えます。

それはまるでピップの未来を映し出しているかのようで、決して本書が蛇足のようなお話では無いと感じるのでは無いでしょうか。

また、三部作に関わる事件や人物の名前なども、さり気なく、それでいて不穏な感じで延べられており、ピップにとって、この先に待ち受けているもの、選択する事になるもの、それを知っているだけに、その前に垣間見える青春模様は眩しくも、どこか切なくも感じるものがありました。