元軍人のクーパーは過去に犯したある罪から逃げ、人里離れた山奥にて娘のフィンチとともに人との接触を避け暮らしてきた。
年に一度、親友のジェイクが必要物資を届けてくれていたが、その冬はジェイクの妹マリーが現れ兄の死を知らせる。
さらにクーパーとフィンチが森で見かけた少女が行方不明となっていることから保安官に質問を受ける事になり…。
これは「誠実」な物語。
最初は森の奥にて、幼い娘フィンチを誰の目にも触れさせないよう、世間と隔絶した暮らしを強いているのは、本当にしょうがなかったのかも知れないけど、それってクーパーの自己満足に過ぎないのではとの疑問がやはり頭にありました。
けれども、過去の罪、そして現在進行形の罪について、クーパーは決して嘘をついておらず、自分自身に問いている姿が少しずつ明らかになるにつれ、「誠実な物語」だとの印象を強くするようになりました。
帯にはゲームクリエイターの小島秀夫監督による「善良なハードボイルド」との言葉がありましが、「誠実なハードボイルド」だと置き換える事も出来るんじゃないでしょうか。
さて、フィンチと二人きりの生活を送るクーパーですが、時折現れる隣人のスコットランドという人物がなんとも謎というか怪しい人物で、クーパーが犯した罪を知っていると仄めかしつつも、勝手に手助けしようとしたり、フィンチに贈り物を持ってきたりと、クーパーにとってはどうにも難しい人物。
果たしてスコットランドの正体とその思惑とは。
それが明らかになった時に、本書のテーマ、罪とそれに対する赦し、そして赦しを得た者の良心について深く考えさせられました。
クーパーが犯した罪。
それに向き合う事の怖さから考えないようにしてきたものの、娘フィンチと向き合う事で葛藤するクーパーの姿はとてもリアルで、ただ自分の正義を主張するだけで無いのが良かったですし、悩んだ末に下した決断と行動には胸が張り裂けそうになり、目頭も熱く。
ところで、毎年必要物資を持ってきてくれていた親友ジェイクの代わりに訪れたジェイクの妹マリーにクーパーが思わず心を捉えられてしまう様子というのも誠実というか、ある意味正直な姿かも(笑)。
もっとも、鏡を見る事も無く過ごしてきたむさ苦しいクーパーに、マリーがよく心惹かれたなとは思いますが(笑)。
さて、本書で著者が描きたかったと思われる罪とその赦しに関するテーマもそうですが、なんといっても、クーパーと娘のフィンチ、二人が森の奥で暮らす日常の様子が色鮮やかにも浮かび上がってきそうな描写に心を掴まされます。
そしてクーパーが娘を何よりも愛している姿やフィンチが父を信頼している姿もまた印象深く、それだけにクーパーがこの生活を守るためについた嘘や欺瞞に対し、教えられてきた通りに正しい事をすべきだとフィンチが父に投げ掛ける言葉は胸を穿ちます。
そしてそれゆえ余計にフィンチがクーパーに対して発した、ある言葉にも、思わずその苦しさが胸にせまり涙してしまいました。
また、最後のエピローグで転調する世界、描かれていない部分を想像するのも楽しく、自分は描かれている以上に幸せな結末を想像しましたが、この辺りは読んだ人それぞれが、自身のお思い浮かぶ結末に浸るのもいいかも知れませんね。