〈アルバート・サムソン〉シリーズ9作目。
待望の新作という事で、読んでしまうのが勿体なかったです。
実際、昨年刊行されてから読むまで随分と寝かせてしまいました(笑)。
さて、今回は中編4作による連作集という形。
サムスンの元に奇妙な依頼人が。
その青年は、自分は宇宙人とのハーフであると明かします。
そして依頼は無くなった石を探して欲しいというもので、その石には不思議な力があるという…。
どうやら依頼人は、自分自身は宇宙人とのハーフだと信じ込んでいる様子。
奇妙な依頼人に奇妙な依頼。
それでもその青年の何かがサムスンの琴線に触れたのか、その依頼を受ける事に。
果たして、調査する中でサムスンが知る真実とは…。
さて、連作中編集という事で、宇宙人とのハーフだという青年は毎回名前を変えてサムスンの前に現れます。
その度にサムスンが彼の力になろうとするのは、青年の中の優しさを感じ取ったからでしょうし、また、サムスン自身の優しさゆえでしょうか。
サムスンの軽妙でユーモラスな会話はこれまで以上で、読みながら思わずニヤニヤ。
こんなにユーモラスなのに、というか、ユーモラスだからこそか、実に心に染み入ります。
それぞれの事件は思いがけずほろ苦い事実が浮かび上がってくるのですが、サムスンが娘のサムに向けるのと同様に、依頼人である青年への温かい眼差しが心地いいんですよね。
心優しくも変わらぬ強さを持つサムスンが真実を明らかにしていく姿。
これが実に楽しいんですが、本作もやはり家族小説としての側面が強くなっております。
警官となった娘サムとのやり取りがまたなんとも微笑ましかったりするんですよね。
そして思わず涙腺がゆるんでしまうような、そんな最後もまた胸が温かくなります。
〈アルバート・サムスン〉シリーズも、本作が今のところ最後の作品となっていますが、叶うならまたサムスンたちに会いたいものです。