『ヒューマン・ファクター』 グレアム・グリーン
イギリス情報部から情報が漏洩している事が発覚。
果たして二重スパイは誰か秘密裏に調査が始まる中、かつてアフリカで活躍したものの現在は閑職的な部で古株の諜報部員カッスルを主人公としてスパイ小説。
しかし、スパイ小説としての面を見せながら、その実はやはりカッスルが過去を想い、愛する人を想い、そして未来を想うカッスルの苦悩と希望を描きながら、冷戦下に繰り広げられる人間ドラマ。
“モグラ”は誰かという事は早々に分かってしまうと思いますが、スパイという職業ゆえの生活の中、カッスルが何を想い、何を守ろうとしているのか想像しながら読む事に。
カッスルが仕える祖国。
そしてカッスルがかつてアフリカで行った任務。
そしてアフリカから連れ帰った、肌の色の違う妻と血の繋がりの無い息子。
カッスルに迫るかつての仇敵。
地味に思える展開ながら、カッスルの姿はスパイゆえの、そしてカッスルが思い描く未来のための日々の行動など、丁寧に描かれています。
それだけに徐々に追い詰められていくような描写には思わず胸が苦しくなります。
そして、緊張感が高まった中で、まるで放り投げだされたかのように迎えるシニカルなラスト。
それがいつまでも寂寥感を伴った余韻を残し、それゆえ本作が傑作と言われる所以なのかも知れません。
