外村は高校生の時に偶然、調律師がピアノを調律する場面を目撃し、その世界に魅入られる。
外村は憧れの調律師や先輩やピアノの好きな人達を通じ、調律師として、そして人として成長していく。
凛として優しくて、静謐で暖かく、そして情熱的でもあり、なんとも美しい物語です。
主人公の成長や自己肯定を描く様子は著者の作品の中でよく描かれているテーマかと思いますが、主人公が「我がままでいいんだ」と自身で納得する場面がストンと胸に落ちるものが。
我がまま過ぎてもいけないけれど、どこか我がままな部分を持つことができると、人生はずっと生きやすくなるかと・・・。
また、調律師という馴染みの薄い職業についても、主人公の外村がどうしたら憧れの調律師・板鳥のような調律ができるのかや、先輩がどこか諦めたような言葉を口にする事について、自身がどう向き合っていくのか悩みながらも答えのない答えを得ようとする様子が清々しくもありました。
それにしても、文章やリズムが完璧にハーモニーを奏でていて、もっともっと読んでいたいと思わされる稀有な物語。
まだ映画版を観てないのですが、どのように映像化されているのか確かめてみたいです。
羊と鋼の森 (文春文庫)