『ユダヤ警官同盟』 マイケル・シェイボン | 固ゆで卵で行こう!

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ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫) ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)
ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫)

Michael Chabon 黒原 敏行
新潮社 2009-04-25 Amazonで詳しく見る
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2ヵ月後に米国への返還が決まっている流浪の民、ユダヤ人によるアラスカ・シトカ特別自治区。

そのシトカの安ホテルにて麻薬中毒の男が後頭部に銃弾を受けて殺される。

死体の傍にはチェス盤が。そしてその殺され方はプロによるもののよう・・・。

同じ宿に暮らしていたランツマン警部はその様子に興味を覚え、相棒のベルコと共に独自に調査を開始する。





主要SF三部門の賞を総なめにしたというハードボイルド風の歴史改変SFミステリ。

なんといってもユダヤ人という存在自体が自分だけでなく多くの日本人にとって理解し難い部分を持っている人種がテーマになっているだけに、最初から最後までやはり理解はし辛いものがありました。


気が遠くなるような昔から約束の土地での安住を夢見るユダヤ人。

聖地を巡っては絶え間なく血が流れてきたという歴史の重み。

それを目の当たりにした訳ではなくとも、その血の中にその重みを抱えるユダヤ人にとって拠るべき物とはいったい・・・。


基本的にはかつては優秀であったが今は酒に溺れる中年男の刑事が、上司である別れた妻の指示に逆らいながらも事件を追っていくというハードボイルド調のミステリ。

なので、主人公のランツマンを通して、その独特の世界観を堪能しながら読者は事件を追っていく事になります。


著者が作り上げた架空の都市・シトカ特別区の雰囲気というのは実に独特で、その中を想像するだけでも楽しかったですね。

2007年を舞台としていますが、どこか近未来的な雰囲気は、主人公のうらぶれた様子も相まって、ちょっと(かなり?)違うでしょうが映画「ブレードランナー」のような感じを抱きながら読み進めました。


2ヵ月後に迫る特別区の返還。

その中で募る不安を抱えるユダヤ人。

返還後のシトカを想う先住民。

そしてアメリカ政府の思惑。

それらが混然として人々が拠るべき物への憧れが映し出されていくのですが、その拠るべきものというのは人それぞれでもあります。

その中で自分にとって拠るべき救済となるものを自信をもって言えるランツマン警部は格好良く、そのように言えるものを持つという事こそが人生において幸福や平安というものをもたらすのでは・・・と感じました。