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狼の血 (カッパ・ノベルス)
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洋和科学の総務部総務課に勤める山本甲介は、出世の見込みもなく日々雑用をこなすだけの平凡な毎日を送っていた。
そんな甲介の前に突然中学の時の同級生である保坂が現れる。
今はヤクザとなった保坂の存在に何故か日々の鬱屈への癒しを感じる甲介だが、その保坂が現金と拳銃の入ったバックを残して死んでしまった事から、甲介の中で何かが胎動し始める。
変わらぬ毎日に溜まっていた鬱屈を、拳銃を手に入れた事からそれを狂気へと変えていくサラリーマンを描いた長編ハード小説。
自ら抑圧していた心の奥に眠る闇を、手にした拳銃がその扉を開いてしまった時、二度と戻れない道へと甲介を駆り立てます。
しかしそれは決して激情といったものではなく、どこまでも抑圧された想いとして描かれているのが特徴ですね。
これが激しい情念によって駆り立てられるような物語であれば、より甲介に対して読者は共感を覚えるものになったのかも知れないですが、逆に抑える事によって人が深く心の奥底に封印している闇を強く印象付ける事に重きをおいたのかな、なんて感じました。
うだつのあがらない、しがないサラリーマンでしかない筈の甲介が、何故か急に女にもて出しやたら濃厚に濡れ場が描かれている点は、共感しにくいというか納得しにくいところかも知れないですが、それは甲介が抑えつけてきた自身の中に眠る狼の血が目覚めはじめ、その匂いに女性たちが惹かれだした・・・と解釈すればいいのでしょうか。
その甲介の中で目覚めた狼の血は、甲介を縛り付けていたものから自由にさせる。
けれども群れない狼のように、甲介を更なる孤独と深みにおいやったのもその孤独な狼の血のせいであるかも知れない・・・。
