『秋の牢獄』 恒川光太郎 | 固ゆで卵で行こう!

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秋の牢獄 秋の牢獄
恒川 光太郎

角川書店 2007-11
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表題作を含めた三つの物語からなる短編集。



表題作の「秋の牢獄」では11月7日という秋の一日を繰り返す事になる女子大生を描いている。

同じ人生を繰り返すといえばケン・グリムウッドの『リプレイ』が思い出されるが、『リプレイ』が何十年というスパンで語られるのに対してこちらは同じ一日を繰り返すだけ。

朝起きると毎日が同じ。

友達と話しても同じ会話が繰り返される悪夢。

それはまさに牢獄と言える。

けれども主人公と同じように11月7日を繰り返し過ごしてる人々と出会う事によって、人がもちうる欲望や衝動、そしてそれだけではなく情動などを考えさせてくれる。



二話目の「神家没落」は、日本中を移動する“神”の家に捕らわれた男の話。

その家で住めるのは一人だけ。

誰かと入れ替わらないとその家からは出れない。

主人公は果たして身代わりの人間を見付ける事に成功するのだけれど、その結果受け止める現実はあまりにも無残なもの。

人の欲望の前に“神”は絶望し消えてしまうものなのか。



三話目の「幻は夜に成長する」は、特殊な能力をもった女性の物語。

普通に生きたいと願っていただけなのに、その力によって引き起こされる悲劇はやはり人の欲望の果てに起こされるもの。

かつて夏の幻を体感させた彼が再び目の前に現れ夏を見せて欲しいと願われた時の主人公の反応は、怖くもあるがなんともやりきれないほど哀しいものでもあった。





三つの物語とも、閉ざされた空間で描かれるものだけれども、その閉ざされた空間で描写されるがゆえに、怖さも切なさも、哀しさも喜びや怒りも、いろいろなものが、より、儚くも美しく見えてくるのかも知れないですね。